30 あとは黒に染まっていくだけ

純粋なものほど狂気に陥りやすいんだと思う。

ほら?真っ白の中に黒を一滴垂らしたら、もう白には戻らなくて、染まるしかないじゃない?

それと同じなんだと、私は思うんだ。

だから、



「貴方が私以外を見られないのも、私以外が大切じゃないのも、私以外を愛せないのも」



ぜんぶぜんぶ、



「可笑しな事なんかじゃないわ」



むしろ、真っ当な事よ?



「だから苦しまなくていいの。例え私以外の誰かが貴方は可笑しいと言っても、私はどんな貴方でも愛しているもの」


「……ほんとうに?おかしくない?きらわない?」


「嫌わないわ。嫌いになんてなれっこない」



だから、



「好きなだけ私を愛して。気の済むまで束縛していいのよ?だって貴方にはその資格があるもの」



貴方は私の恋人だもの。

いくらだって私を好きにしていいの。

その代わり、



「私も私の望むままに貴方を愛するから」


「うん、うん!だいすきだよ、あいしてる。だから、おれいがいを、きみのしかいにいれないでね?」


「貴方がそれを望むのなら、私は死ぬまで貴方以外の人を視界に入れないわ」



心底嬉しそうに笑って、愛しそうに私を見つめる眼差しは優しい。



(可哀想な貴方。私になんか愛されて)



真っ白な中に黒を一滴。

それだけで、後は染まる一方。

私が彼にしたのも、たった一滴の黒(嫉妬)を彼の中に落としただけ。

それだけで、貴方は簡単に壊れてしまった。

私の望み通りに、私以外を愛せなくなった。

今はまだ、その状態を不信に思っているようだけれど、きっとその内。彼は疑問にすら思わなくなる。



『例え世間が可笑しいと言ったって、私は絶対に可笑しいだなんて思わない。むしろ、貴方に愛されていると思えば嬉しくて堪らない』



そんな言葉を貴方に延々と言い続けたから。

貴方は疑うこともなく、私の言葉を喜んだ。


嘘なんてひとつもない。

けれど、正しくはない、その言葉を。



(ごめんね)



貴方を愛してしまって。

こんな歪んだ方法でしか貴方を愛せなくて。

何よりも大切な筈の貴方を狂わせてしまって。



でも、もう遅いよ?

黒が入った白は、何があっても元の色には戻らないから。




まともに愛せなくてごめんなさい。

でも、愛してる。

この気持ちだけは何があっても変わらないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る