25 開いた口が塞がりません

あー、もう何て言うかね?

開いた口が塞がりませんよ、全くもうっ!


なんて可愛らしく言ってみた。

誰にと言われたなら、寝室のベッドの上で見知らぬ女と真っ裸!な旦那に。

汗が見てとれるほど吹き出していて、顔は真っ青。

大丈夫なのかな?

一瞬だけ心配になった。

まあ、ほんの一瞬だけだけども。



「っ、ち、違うから!?」



旦那が叫ぶように声を発する。

裏返った声が必死さを表しているようだ。

けれど私は、



(え?何が?お前が浮気相手でこっちが本命だから!とか言う……わけないよね流石に。婚姻届だって二人で役所に出しに行ったわけだし)



なんて考えていた。

どうやら、焦って驚いて怒りやら悲しみやらが湧いてきて……つまりは衝撃が大きすぎたせいか一周回って冷静になったようだ。



「ご、ごめん!お前のこと、嫌いになったわけじゃなくて。ただ、その……間が差しました……」



尻すぼみに声が小さくなっていく旦那をただ静かに見詰める。

旦那はあわあわとしながら許しを乞うような眼差しを向けてきた。

ふむ。その子犬のような煌めく瞳は嫌いじゃないぜ?

なんて可笑しなテンションで内心思う。



「……な、何か言って?」



その言葉で開口一番以来、今まで一切無言だったことに気付いた。


いや、でも私無口だし。表情もあんまり変わらないからね。

内心ではわりと明るいんだけど、でもそれっていつもの事でしょ?

だから何を言って欲しいのかなー?

何か言えって言われてすぐに言えるほどコミュニケーション上手い方じゃないんだけど…。

てかあなたはいつまで真っ裸なわけ?

服着ないと風邪引くわよ?


なんてやっぱり内心で思って、けれど今一番聞きたいことを思い出した。



「今日の晩御飯、何食べたい?」


「はぁっ?」



メニュー考えるのもめんどくさいし、買い物行かなきゃだからついでに意見でも求めようかなぁって思って、そもそも仕事から帰ってすぐに寝室に来たわけだし。

見たくない光景見ちゃったわけだけど、当初の予定通り旦那にそう聞けば間抜けな声を返された。

隣のカワイ子ちゃんも同じ顔で「おー、以心伝心」なんて感心する。


んー?でも何か可笑しなこと、言ったかな?



「ちょっ、待って?落ち着いて!」


「落ち着いては居るんだけど」


「そうだね!ビックリするくらい落ち着いてるね!まさにいつも通り!いや、でもこの状況見たら他にない!?てか、お前に俺達どう見えてる?」


「どう?ダーリンと見知らぬカワイ子ちゃんが色々やらかしちゃった後には一応見えてるかな?」


「だっ、!……何でお前そんな普通なわけ!?いや、ダーリンとか言ってる時点で普通じゃないけども!あ、嫌じゃないからね!?むしろ嬉しいから!」



何やら青くなったり赤くなったり忙しいご様子の旦那、もといダーリン。

そんなダーリンに対してとりあえず空気を読んでみた。



「良く分からないけど、今日の晩御飯は三人前で良いかなー?買い物行ってきたい。あ、苦手なものとかあります?」


「え!?な、無いですけど…」


「じゃあ鍋にしましょう。今日も寒いですからねぇ。じゃあ買い物に行ってくる間に、どうぞごゆっくりしていって下さい」



最後に普段は滅多に使わない表情筋を酷使してにこりと笑い。

呆然としている二人を置いて近くのスーパーに買い物に行った。




**




「浮気相手さんが来るなんて聞いて無かったからビックリしちゃった」


「……むしろ俺はお前にビックリだわ」


「そう?……あ!そうだダーリン。スーパーに行ったついでに市役所行って離婚届貰ってきたから、ご飯食べたらさっさと書いてね?明日には提出するから」



そう言った瞬間。

ダーリンが真っ青な顔で「ごめんなさい!二度としないので別れないで下さい!」と土下座しながら謝ってきて。

浮気相手さんも「ごめんなさい!私が悪かったんです!」と何故か半泣きで頭を下げてきて。


それがあんまりにも必死だった上に折角作った鍋が冷めちゃうから、今回は許してあげました。


さすがに色々テンションで誤魔化したけど、浮気されて傷付かないとかないからね?

だから、



「次はないよ?」


「絶対しません!」


「じゃあ、許す。今回限り」


「……俺、結構愛されてる?」


「じゃないと結婚しないよ?」

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