ショートショートストーリー

18 愛が足りない！

「愛が足りない」

見知った中学生から発せられた言葉に米神を抑える。

何故中学生だと知っているかと言えば、なんてことない。

自分が２年ほど前まで同じ中学に通っていたからだ。

そして目の前の彼は一応後輩。

中学時代は懐かれて色々大変な目にあったとか忘れたい事実でしかない。

意識を他にやっている間に痺れを切らした認めたくはないが一応後輩の彼は同じ言葉を口にする。

「愛が足りない!」

先程よりも些か張られた声に思わず眉間に皺が寄り掛ける。

それを自制心で抑え込み、その代わりに未だ目の前から退かない後輩から僅かに視線を逸らした。

そこには自分達を見やる友人やその他級友。

「愛が足りない！」

三度目の言葉は悲痛なまでに響いた。

周りは同情のような哀れみのような眼差しを向けてくる。

遠巻きに見るだけで誰も助けようとしない所を見ると関わりたくはないのだろう。

自分も同じ立場だったら迷いなく無視する。

ただそれは他人事であった場合で。

自分に降り掛かれば勝手が違う。

けれど、「哀れむくらいなら変わってくれ」と言わずに少しばかりの殺気を込めた視線を返すだけに止めた。

巻き込みたくないとか殊勝なことからでは決してない。

むしろ自分が助かればそれでいい精神しか持ち合わせては居ない。

それでもそれをしなかったのは嫌というほど学習していたからだ。

目の前に居るこの後輩が、いかに自分という人間に執着を見せているのかを。

いっそ笑って野次を入れてくれれば幾分マシだというのに。

一様に向けられる視線は自分に対しての同情のみ。

いい加減耐えきれなくなって後輩に声を掛ける。

「あのさ？」

「なんですか！？」

今までただ黙り込んでいた自分が言葉を返したことが余程嬉しかったのか、後輩は無表情からパァッと花を咲かせるように笑みを浮かべた。

その間なんと0,1秒の出来事とか何それ信じない。

内心は非常に穏やかではないが、表面上は常と変わらない冷ややかな眼差しを後輩に向け。一言。

「スマイル０円に愛を求めるな」

高校生活二度目の学園祭。

それなりの賑わいを見せる喫茶店の中（言わずもがな自身のクラスである）

級友や来ていた客は、自分が発した言葉に密やかに頷いて見せた。

ただひとりを除いては。

「ならお金出したら愛を込めてくれるんですか！？」

「いや、全力でお断りを願いたい」

by：空を飛ぶ５つの方法

【見捨てたいボケとツッコミ 5題】