11 ニナ


溺れそう  音の中で、水と...


頬の指と、背中に回された腕の手の感触と

くちびるにだけの温度に


それが離れると、相変わらず打ちつける雨の中で

濡れた私の髪を 耳の上から両手で後ろに流して

「きれいだ」って言うし


こんなに短い時間で ずぶ濡れになって

洗われているのか、全身で泣いているのか...


アッシュブロンドの毛先から 長いまつ毛から

高くてきれいな鼻の先から 顎からも、ぽたぽたと落ちる雨粒を見ながら、雨で良かった って思う。

涙も ばれないから。


バリ島ここって、なんて呼ばれてるか 知ってる?」


瞼を打つ雨粒がまつ毛から落ちて、一瞬の視界を遮る。髪にも頬にも 胸にも。

ジェイドからも ぽたぽた落ちる雨粒を見つめながら、なんとか 首を横に振った。

振れてなかったかもしれないけど、わからない。


「神々の島」


そうなんだ...

チャナンが過ぎって、胸が きゅうっと する。

地面にも お店の前にも、車やバイクにも。


「こころを見つけた場所」


どうして 今、すきって 言えないんだろう。

嬉しい しあわせ って伝えたいのに

雨粒さえ いとおしいのに、ふるえるばかり。


「上がる?」


見てるしか出来ないんだけど、親指で頬を拭われちゃって。今度は、ばれちゃってたの? って

恥ずかしくなる。


プールサイドに誘導されて、抱え上げた私を座らせると、ジェイドも上がって。

テラスも びしょ濡れだったけど、ひさしがあるところに入ると、雨だけじゃなくて 音の洪水からも離れた。


プールの向こうにも 極楽鳥花が咲いてる。

さっきは、ジェイドの背中の向こうだった。

打ちつける雨粒を、葉の上で受ける極楽鳥の花は

天の祝福を受けてるように見える。


シャツとクロップドパンツを脱いだ ジェイドが

どっちも 雨が打ちつける花びらのバスタブにかけて、「冷えるかも」って、私のワンピースも脱がせてしまった。


「可愛い」


下着姿を見て 褒めてくれたけど

「タオルを取って来るよ」って、バスルームに

歩いて行っちゃって。


驚いたり、恥ずかしかったり 嬉しかったりで

極度の緊張もしたのか、膝も手の指も震えてる。

冷えたのかもしれないけど、熱くて わかんない。


大きな白いタオルを持って来てくれた ジェイドが

一枚を 私の肩に掛けて 身体を包んでくれて

一枚で 簡単に自分を拭いてる。


「そうだ。もう、雨季だった」って

タオルを肩にかけて

「温かいもの淹れるよ。ワンピースは帰る時に取っておいて、シャツを着る? 男ものだけど」って

背中に手を添えて、ダイニングへ連れて行ってる。


これって どう考えてるの... ?

まったく読めない。私、まだ震えてて。

さっきのキスは なんだったんだろう? って

そのくらい普通。


この人、女のコにモテると思う。とっても。

見た目だけじゃなくて 優しいし、こんなふうだから。 だから、私じゃ つまらないのかも


「自制しようとしてる」

「!!」


びくって 身体が跳ねちゃった。ほんとに思わず。

もしかして、考えてることが わかるの... ?


超能力を疑ってたら

あれだけ土砂降りだった雨が あっけなく止んで

もう 朝になってた。


「降り続くことも あるみたいだけど」


紙袋から、男のコの下着 一枚と シャツを二枚とを出したジェイドは「着る?」って 聞いたのに

「後で」と テーブルにそれを置いて、肩のタオルも外した。


「やめた」


急に 抱き上げられて

「もし反省が必要なら、後でするよ。

ひとりになってから」って

ソファーの後ろのベッドに連れて行かれて

「裸で自制 って、何 言ってるんだ?」って

ひとりごとも言ってる。


ベッドで 私もタオル取られると、やっぱり つい

「待って! こういうカッコになったのは... 」って

言っちゃったけど

「僕のせいだ。責任 取るよ」だし

「でもユーゴは、こんな状況 作りっこないだろ?

震えてるから 余計 興奮して」って ブラを外した。

ホックって こんなに簡単なの?!


「どうかしてた。

ふたりで居て 自制しようとするなんて」


完璧に方向転換したみたい!

手で庇う前に、するっとブラも取られちゃって

「あかっ 明るくない?」って 噛んだら

ふと 天井とベッドサイドの照明に眼をやったけど

「消しても変わらないよ」って!

それは嘘だと思う! ベッドはリビングの奥にあるし、朝でも 消せば少しは...


「きれいだ。最初から思ってたけど」


視線を、胸の花から 眼に移して言ったりするから

また なにも返せなくなる。

お店では全然 平気なのに、すごく 恥ずかしい


「ピアスに 触れたいと思ってて」って

ベッドに座って、向き合ったまま キスをされて。

さっきとは違う。雨の中とは。

手のひらも足のうらも 身体中 ビリビリしてて。

胸の中が痛いくらい絞られて、甘くて苦しい。


大きな手と、腕と胸の温度と感触で いっぱいで

抱きしめられてたことも、いつの間にかベッドに倒れてることも、そうされてから気付いて

もう、骨から心臓が出ちゃいそうになってるのに

「可愛い。声も」って 言葉にして言われちゃうし

指でも くちびるでも、耳も首も こんなだって知らなかった。鎖骨なんて本当に。


まだ濡れてる髪の毛先も息も 胸の花に触れて

くちびるが温かくて。頭が ぼーっとしちゃって

はじめて上から見る 眉と、瞼のまつ毛と鼻梁にも見惚れてたけど、下着に指が かかった時に

「や」って 頭を抱きしめちゃったら、ベッドと背中の間に挿し込んた左腕で、ぎゅって 抱きしめ返してくれて。でも中断は されなくて。


それで、自分に 気づいちゃったことがあって。

胸も お腹だって そうなるんだけど

私は 肌の皮膚感覚だけが良くなるんじゃなくて

肋骨あばらとか 骨盤とか、骨の上が殊更 敏感なのかも ってことに。

でも、相手が この人だからかもしれない。


どうしようもなく恥ずかしくて、息が あたると

くちびるが触れる前に 脚を閉じようとしたけど

腰を挟み持つ両手の四本の指で 腸骨を圧されると

閉じきれなくなっちゃって...

それでも どうしても恥ずかしくて、脚の緊張が抜けないでいたら、片手を伸ばして私の手を握ってくれて。その手を ずっと抱きしめてた。


あ... って、昇り詰めていくことに抵抗したくなる。

反射なのか反応なのか わからないけど、そうなって。身体がよじれてれる。

身体だけじゃなくて、頭も眼も すべてが開かれ満ちるような感覚。

こんなこと ああ もう この先はムリ...


そしたら 抱きしめられて、頬も髪も撫でてくれた。

すごく 優しい表情かおをしてたし、ぼんやりと ブロンドの髪の下のヘーゼルの眼を見て、ただ息だけをしてたら、脚に伸びた手に 左膝を少し立てさせられて。ムリだと思ったのに


身体が緊張すると キスして、指に腸骨を圧されながら、耳の下にも喉にも またくちびるが触れる。

時間をかけてくれたけど、彼の下腹の下が触れるところまでくると 内臓を圧される感じ...

でも、すごく しあわせ。


しばらく動かないまま、たくさんキスしてくれたんだけど、ずっと そうなんじゃなくて。


腰が引かれると ゆっくり揺すられていって

だんだん 痛みじゃなくなって、身体の内に籠められるような 発散されていくようなふうになって。

この人が好きって気持ちと 彼の感覚以外

恥ずかしかったことも、明るいってことも 時間も

何もなにも なくなる。

新しい感覚が昇り詰めても まだ続いてて、涙まで出て。

ジェイド って形に くちびるが動いた。


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