22


「まだ 信じられない... 」


遺跡から、長い階段を昇って 出て

カフェで休憩中。


「しかも、認識されない なんて... 」


オレンジフレーバーのビール飲みながら

シイナもニナも、周囲を見渡して

「ヘアオイルを買う時は、どうしたらいいの?」

「ああ、有名なのあるよね。レジ通れないし」って、心配してるんだぜ。


「アコやシェムハザは、姿を顕せば 認識される。

門を通った訳じゃあないからな。

だが、ミカエルも見えるだろ?」


「うん。昨日は 見られてた」


ミカエルには、遺跡の洞窟を出た時点で

榊が 神隠しを掛けてる。

「独り言 言ってたら目立つし。

でも 俺が姿を消すと、お前等からも 見えなくなるんだ」って。

門を通った人間だけが 認識されねーんだよなぁ。


「マルタバ食う?」「屋台 出てるな」


朋樹と泰河が 買いに立って、榊が

「四郎、デザァトなど... 」と 誘って

二人は カウンターへ行った。


「シャツを見たいんじゃあ なかったのか?」


ボティスが ニナに言ったら、ジェイドが

「ああ、そうだったね。見に行こうか?」って

椅子を立つ。

「シイナは?」とも 聞いてるけど

「欲しくなったら、ネットで買うし」とか

ふてぶてしーんだぜ。

「まったく 芽生ちゃんは... 」って

ニナと 二人で、売店の方へ行った。

うん、なかなか。


ゴア ガシャ遺跡を 回ろうとした時

ボティスが『一時間後に、象の像』って

榊と二人で はぐれて行って、ミカエルが

『ふたりになりたい』って オレに言う。


いや、観光客とか 祈りに来た人は たくさんいるけど、人に 認識されねーんだから、女の子も寄って来ねーのに、おかしいだろ... って 思って

ジェイドも ミカエルの方を見ると

四郎が『隠れんぼ など、如何でしょうか?』と

苦し紛れに誤魔化した。


『おおっ! 面白そうじゃねぇか』

『けど 何かあったら困るから、ペア組もうぜ』


もちろん オレとミカエル、泰河と四郎

黒髪美形とシイナ、ジェイドとニナ。


『では、私共が 鬼となります』と

四郎が、腰帯の結び目を 前から横にズラして

『見つかるだけでなく、捕われることで終了です。捕らえられた ぺあ も 鬼となります。

鬼となりましたら、このように

腰帯の結び目を 前に向けて下さい』って

ズラした結び目を 前に戻して、サクサク ルールを設定する。


『遺跡で御座いますので、逃げる方も追う方も

決して走らぬ... と いう決まりを設けましょう。

ですので 私は、“消えて 顕れる” ということも致しますが、目視するまでは 致しません。

捕まらず、一時間後に 象の像へ参られましたら

逃げ切れた... ということと致します。

それでは、今より 二十分後から 探しに向かいますので、その辺りを目安に 隠れられるなり、

見つからず、上手く 観光しながら移動されるなり

と、お願い致します』


『二十分も?』と 聞いたジェイドに

四郎は『はい。写真など撮りたいので... 』と

スマホを取り出して答えた。


『術は?』

『遺跡が破損する などということが無いものであれば、構いません』


『どうする?』

『ペアでバラけた方が 捕まりにくいよな』


『うん、全員 逃げ切るぜ?

でも ニナとシイナは、観光もしたいだろ?

それもさせる。

朋樹たちは、まず 庭園。

ジェイドたちは、塔や石が置いてあるところから 見て回って、外周に沿って 庭園方向に。

俺等は 隠れながら、四郎と泰河を見張って動く。

お前等を見つかりそうになったら、オトリになって逃がす... 』


ニナとジェイドを 二人に... って

考えてただけのハズが

オレらは つい、本気になった。


朋樹が 形代かたしろ出して、オレらの人形ヒトガタ を出しまくり

ジェイドは『円に傷を入れれば、精霊は解放されるけど、逃げる時間稼ぎにはなるね』って

行く先々で 白ルーシー 使って、天空精霊を降ろす。


『さて。二十分 経ちました』って

スマホ仕舞った四郎は、遺跡内が 人形オレらで溢れてるのを見ると

『おお、兄様方! 本気で御座いますね?』と

伝道の書を そらんじ始めた。


『... “空の空、空の空、いっさいは空である”... 』


1章2節。遺跡中の人形ヒトガタが揺らぎ始める。

もう かよ...  預言者すげー...


『いや 四郎、ジェイドとニナをさ... 』って

泰河が止めてみてたけど、四郎は

まやかしなど無くとも、見つけ出しは致しませんので。ジェイド等は』つって

12章7節と8節も読む。


『... “ちりは、もとのように土に帰り、

霊は これを授けた神に帰る”... 』


揺らぎながらも、沐浴場や大木、

塔や祠を 見てる風だった人形ヒトガタの 動きが停止する。


『... “伝道者は言う、

「空の空、いっさいは空である」と”... 』


人形ヒトガタは、ふ と 元の形代かたしろになって ハラハラと落ち

地面に着くと、灰になって 解け消えた。


『四郎も ほんき?』

『うん、みたいだな』


オレとミカエルは、遺跡洞窟の近くの 塔の裏に

しゃがみ込んで、洞窟と沐浴場の間にいる 泰河と四郎を見てたんだけど、隣の小さい社の裏には

庭園の方に回ろうとする 朋樹とシイナも居るし。

いろんな色柄のサロン巻いた人たちが行き交う。


人形ひとがたじゃダメか... 』


地面に手のひらを着けた朋樹が

ぶつぶつと 呪を唱えると

四郎と泰河の周囲に出た木の芽が

ざわざわと 何本もの細い木に成長して

二人を取り込もうとする。


朋樹あいつ、近くに居るぜ。

これ、距離があると 使えねぇ術だからな』


泰河が言うと、朋樹が 舌打ちして

『ルカ、風で 撒いてくれ』って、形代かたしろを渡してきた。


『撒いた方向で バレんじゃねーの?』って答えたら、ミカエルが『肩に掴まれよ』って言う。

『おう』って、肩に 腕を掛けると

俺の腰に 腕 回して、真上に飛び立った。

『ちょっと! 怖ぇんだけど!』

『カタシロ 撒けよ』って言われて 撒いてる間に

沐浴場の 向こう側に降り立つ。


自分たちを取り巻きながら、背丈以上の高さになった 細い木々の間から、朋樹を探していた 四郎と泰河は、『さんみげる、ルカ!』と、オレらに気付いた。


『退屈になったから、出て来てやったんだぜ?

木を傷付けるのは シノビないのか?

えらいけど』とか 話してる内に、

逆っ側を 朋樹とシイナが抜けて行って

するすると 木が戻り出す。


『朋樹、離れたな』『囮なのですか?』


で、また 人形ヒトガタだらけ。

対処せずに、四郎が消えたのを見た ミカエルが

オレを掴んで 飛び立った。

預言者だろうと、四郎は飛べねーし。... けど


『おい!』『四郎?!』


空中に顕れて、そのまま落ちる四郎が 伸ばした手を、ミカエルが焦って 空いている手で掴む。

四郎は『確保 致しました』って、笑ってるけどさぁ。無茶するよなぁ。


白い焔の模様が浮いた 右腕の手で、人形ヒトガタの額に触れて、どんどん形代かたしろに戻しながら

『朋樹たちは?』と、泰河が オレらに聞く。


『庭園だろ?』


腰帯の結び目を、横から前に 戻しながら答えたら、後ろから『いや』と 朋樹が答えた。


人形に紛れて 居たらしく、オレら四人の足に

呪の蔓が巻き付く。

けど オレが、地の精で 拘束してやったんだぜ。


『分かった。降参』


朋樹とシイナが 腰帯を戻して、オレらも 一緒に時間まで庭園でくつろいで、象の像に向かったら、

ジェイドとニナが 楽しそうに笑って居てさぁ。

仲良くなったみてーなんだよなぁ。

ボティスたちとも会って、遺跡 出たとこ。


考えてみりゃ、今までジェイドが ニナと話したことって、そんなに ねーもんな。最近 仕事で関わった子だし。


「なんで、こんな事になってるの?

あの海が バリ島の遺跡に繫がってるなんて」


泰河と朋樹が買って来た マルタバ摘んでみながら

シイナが聞くけど

「さぁ」「その調査」って 答えた。


榊と四郎が、一口サイズのケーキを 二枚の皿いっぱいに盛って来て、一枚をミカエルに渡し、

もう 一枚をテーブルに置くと

爽やかな花砂糖の匂いさせた シェムハザが顕れて

憮然とした顔で 空いた椅子に座る。

ケーキ見て「ディル、珈琲」って 取り寄せてくれてるけど。


バンを借り、ようやく駐車場に停めたが、

バイクが多く 平気で前に入ってくる。

お前達は 運転しない方が良い。

アコは今、現金を換金している」って

朋樹が買って来た ビールを受け取って

マルタバを摘んだ。


「先程 言うておった、ヘヤオイル とは?」


ケーキ食いまくる榊が、シイナに聞いてる間に

ジェイドとニナが戻って来て、一つになった空いてる椅子に、ニナを座らせた。


「シイナの分も買ったからね」って 言うニナは

膝に置いた紙袋に手を載せて、楽しそうな顔してる。ジェイドと、オノボリサン シャツ見て

嬉しかったんだろなー。かわいいしぃ。


隣に座ってる シェムハザが、ニナの顔見て

“なるほど” って 表情になった。

ジェイドは 別の椅子持って来て、オレに

「詰めろよ」つって、泰河とオレの間に 入っちまったけどー。


「じゃあ、コスメは私が買う」


ニナに答えた シイナは、榊に向き直って

「ヘアオイルは、一回ずつ使い切りのもので

日本にも入ってるんだけど... 」と、女の子な話し してる。オレも、リンの土産にしよかな...


ショルダーバッグ掛けて、レモンフレーバーの瓶ビール片手に 歩いて来たアコが

「駐車場の外の木陰に、妙なヤツが居たぞ」って

眉をしかめて言った。


「アコ」「座る?」って 聞いたけど

「うん、こっちでいい。もう出るだろ?」と

オレらの隣のテーブルの椅子に座った。


テーブル二つに 神隠し掛けて占領してるし

店で食ったのは、ビールとケーキだけ。

チップも置いてるけど、支払いも日本の札だし

換金の手間 掛けさせるよなー。

もうちょい迷惑料支払って、早めに出た方がいいかも。


「悪魔?」


ケーキ食い過ぎた ミカエルが、シェムハザに

珈琲のおかわり貰いながら、悪魔のアコに聞く。


「うん、悪霊ブートか何かだと思う。

痩せてて青肌。黒い腰巻きだけ。牙が出てた」


そいつは 木陰から、駐車場で 車を乗り降りする人たちを 覗き見てたようだけど、手を出したりは

してなかったらしい。


「まぁ、そいつが 何かしてても

俺等は 手は出せないけど」って、アコが

マルタバ摘むと、シェムハザも

「出すならば、助ける人間の方と

契約することになるからな」って

ビールを口に運ぶ。


アコもシェムハザも、悪魔だもんなー。

オレらといる時は、日本神たちも知ってるし、

相手が蝗系... アバドンが差し向ける 奈落の使いだから、問題にならないんだけど、

下手に 異教の悪魔に手を出すと

皇帝側と 異教の悪魔側で、問題になったりするらしい。


「俺等は、人間本人と契約を交わして 魂を獲る。

下級の奴等は、それが出来ないから

憑依したり 騙したりする。

だから こいつ等が、天に囚われても 祓魔師に祓われても、俺等 上級の奴等にやられても 自業自得。

問題にはならない。

でも、異教には 異教の法がある。

対処するのも、異教の善神や信徒... 祓魔師みたいな奴等になる」


「だが、お前達に手を出すことがあれば

こちらも手を出すことは出来る。

ルカと泰河には、ハティが印を付け

皆、ミカエルの加護のクロスがある。

シロウは、天の預言者。

“ハティの所有物だ”、“ミカエルに雇われた” と

押せるからな。

ミカエルの加護がある者に、手を出すような

酔狂な者もおらんだろうが... 」


「でも 俺は、見掛ければ 介入出来るぜ」


ミカエルが、濃いコーヒー飲みながら言った。


天使なら、異教の悪魔を滅しても 問題にはならない。“人間を守護した” っていう 正当な理由があるから。


けど、人間には 自由意志がある。

だから やっぱり

「その人間が、悪魔や悪霊と契約してなければ

... って ことになるけど」って ことらしい。


「人間のオレらなら 問題ねぇよな。

同種で助け合うだけだし」


朋樹が言うと、ボティスが

「本来、そうあるべきだろ。

地上は人間に与えられているのだからな。

ミカエルが降りているのは、奈落の絡みがあるからだ。今は、預言者である四郎の守護者 だという

理由もあるが。

上級の者等も、天の命で地上に降りる。

守護天使等は、人間の自由意志を尊重し見守る。

手出しは許されん。

見えんところで、悪魔と小競り合いはしているが、もし、救いの手を差し伸べてばかりいれば

人間は すぐに堕落する。魂の成長は望めん。

父もモーセに伝え、聖子も 覚者も

“隣人や友... 人間同士で 手を差し伸べろ” と 言っている。幾世紀経とうが、なかなか浸透せんが」と 話して、コーヒーを飲み干した。


「そうだよな... 」


泰河が、自分に向けたような ため息つくけど

オレも 申し訳ないような気分になるんだぜ。

“自分がされて イヤなことは、してはなりません”

とか

“困っている人には、手を差し伸べましょう” とか

子供の時から 教わってもいるのにさぁ。


「しかし、天主でうす様やゼズ様は、私共を 諦められぬのです。雲の中に 虹を顕せられる」


アイスラテ飲みながら言った四郎に

ミカエルが頷いて

ジェイドも「そうだね」と 同意する。


「誰かが窮地に立った時も、もちろんだけど

まずは 日々、そうあること。

しっかり考えて判断する前に、口を開いたりしない... とかね」


ジェイドが神父顔になると、耳 痛ぇんだぜ。

シイナも 似たよーなツラしてるけどさぁ。


「でも、見掛けた何かが 仕事に関するようなことだと、通用すんのか? とは 思うよな。

昨日の緑女は、ジェイドが詩篇 読んでも

動じてねぇように見えたしよ」


「魔術の国でもあるからな。

黒魔術ブラックマジック白魔術ホワイトマジック。“バリアン” が扱うが

日本のように 独特の術だ。陰陽が近い... という

印象はあるが、俺等も よくは知らん」


「バリ ヒンドゥーには、仏教も習合している。

経も いくらかは効く と見ているが... 」


「とにかく、そろそろ移動する?」と

アコが、ショルダーバッグから マネークリップに挟んだ札を出して テーブルに置くと

「榊、店員が 瓶と皿を下げに来るまで

神隠し掛けてくれ。チップだ」って 言ってて

「ちゃんとしてるよね」と、ニナが感心する。

オレらも思うんだぜ。


「じゃあ、行くか」と

みんな立って、駐車場に向かった。





















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