18


目眩めくらましした シェムハザが戻って

スマホのビデオ通話の画面を、ミカエルに見せた。

でかいクマに、笑顔で抱きついてる 菜々が

『みしぇる、めるしー』と

キラキラした眼で 言ったりすると

「うん」と 画面に笑ったミカエルは

なんか 慈しみ深いの表情で

オレらが “おお... ” と 圧倒される。

ど天使の顔になってたんだぜ。


「俺、あれ 食ってみたい」

「ああ、イカ焼きな... 」


今は、オレの手 引っ張ってるんだけどさぁ...


「良い匂いがしますね」って、オレとミカエルの手は、見ないようにしてる 四郎が言うと

「うん、買いに行こう。食う奴!」って

アコが聞いて、上がった手を数えて

四郎と イカ買いに行く。


人混みん中を たらたら歩いて

スーパーボール掬っちゃ、城に送って

りんごとかフルーツの飴食って、余分に買っては

城に送りながら、夜店が出てる道の範囲の 半分くらいまで来たところ。


「なぁ、手ぇ繋いでたら イカ食えねーじゃん」


「食えるだろ」「ヨーヨーの手で」


泰河たちは、他人事だし

ミカエルやジェイド、朋樹を見てる女の子とかも

オレとミカエルの手に気付くと

“あら... ”って感じで、眼を背ける。


いや、別にさぁ、いいんだぜ?

天から リラ子が見てるかもしんねーし

泰河にも朱里ちゃんがいる。

朋樹やジェイドは マジ惚れされちまうし

もう、そーいう はしゃぎ方する気は ねーんだけど、すっかりイロケを無くす... ってのは

男として どうなんだよ? って 思

「ああっ?!」

「なんだよ、朋樹?!」


いきなり、朋樹っぽくない 大声出したと思ったら

円盤が 頭上に浮いてた。


「手から離れた感触 なかったぜ?

持ち直そうと思って、見たら無かったんだ」って

言ってるうちに

円盤は、ヴゥン って上昇して 消えちまった。


「ええー... 」

「半式鬼で追う... ?」


『いや、もう少し待とう。

また出現する可能性もある。

まだ、金魚を掬っていないだろう?』


戻って来たアコから、イカ焼き受け取る シェムハザが言うと、隣でミカエルが

「うん、俺 花火見たい」って 言うし。

ユルくね?


「バリと繋がってることは、師匠が調べてくれてるしね」

「そうだな。仕事って訳でもねぇし... 」


ま、半式鬼 付けてるし いいんじゃね? って

イカ食って「喉 乾いたよな」

「瓶のラムネあるぜ」って 買って飲んだり。


「びいどろ が、入っておるのですね... 」


夕暮れも過ぎて、夜店にライトが点いた。

煌々と明るく 賑やかな道で

ラムネの瓶のビー玉を見る 四郎は

本当に 楽しそうな顔してて

来て良かったよなぁ... って シミジミ思う。


「金魚だ」

「シェムハザの城で飼おう」


『幾らでも掬え。ディル、水槽の仕度を』

らしいし

「あっちにも、金魚掬いの店あるぜ」って

二手に分かれて、掬いに行くことにした。


四郎は、アコと 目眩ましのシェムハザ、

シェムハザが呼んだ ジェイドに取られて

泰河と朋樹、手ぇ離さねー ミカエルと

「四郎に、掬い方 教えたかったのによー」って

言いながら、金魚掬いの列に並ぶ。


「あっ、ボティス」


泰河が、焼トウキビ屋の方を指差した。

マジで ボティスじゃん。

隣には、榊の椿の髪飾りも見えるけど

ボティスは なんか、疲れてるようなツラしてるし。


「バラキエル!」


ミカエルが呼ぶと、ボティスは

店の人から受け取った 焼トウキビを、榊に渡して

こっちに 近寄って来る。

ミカエルが、オレと手を繋いでるのに気付いて

ニヤっと しやがってるけどさぁ。


「ボティス、おまえ何か 疲れて... 」って

朋樹が言ってたら

「彼氏、来て良かったじゃん」って、女の声するし。ボティスの背後から、シイナが顔を見せた。


「ホテル側から 夜店を回ったら、だな... 」


すぐに会っちまったらしかった。


「ふむ、共に 回っておるのよ。

これらは、婦女子 二人である故」


榊は楽しそうだけど

ボティスは、“分かってるよな?” って眼を

オレらに 向けて来た。

シイナの隣には、当然 ニナが居て

人混みに眼を向けてる。


「おまえら、デートのジャマすんなよー」


とりあえず言ってみたら、シイナが

「あんたも デート中みたいじゃん」とか

言いやがるしぃ。


「オレら、違うぜ」


ボティスから 眼を反らした泰河が、笑顔で言うと

朱里アカリサンが居ないと、そうなんだ」って

ヤラれてやがる。

そういう情報は、榊から回っちまってんな...


「まぁ、おまえら 二人で回っても

そうそう 声掛けられることは ねぇだろうけど... 」


片や、ワイン色のショートヘアに

左耳に二つ、右耳に 一つの 黒い軟骨ピアス。

首に目立つ 赤い花痣。

片や、シャツの空いた胸元から 色とりどりの花々。見えねーけど、実は舌にピアス。

声 掛けたら “は?” とか 返しやがりそうな

雰囲気だし。


泰河と違う切り口から いこうとした朋樹に

二人は、「うん、まぁね」

「分かってる 分かってる」って 軽く答えた。


「でも 結構、眼は惹いてるぜ?」


ミカエルが、ニナを見てた男を示すと

ボティスが 眼ぇ向けて、ニヤっとする。

男は “すんません” 風に ボティスに会釈した。

避けるよなぁ、こいつ。


確かに、やたら眼は惹くんだよな。

ニナ、かわいーし、シイナは 女からもさぁ。


「うん、けどまぁ

浴衣の女の子たちが、おまえの犠牲になるのもシャクだし、オレらと居れば?」


朋樹が言うと、シイナが やたらあっさり

「うん、あんたたちが いいなら」と 即答して

「アコちゃんとか、シロちゃんは?

あと、神父さんも... 」って 聞く。

シロちゃんて、四郎かぁ。仔犬っぽいぜー。

ボティスは、榊 連れて「じゃあな」って

歩いて行っちまったけどー。


「空きましたよ」と、店の人に言われて

「おお、四人分で」って、泰河が料金払って

ボウルと、薄い紙が張られた 金魚掬うやつを受け取る。


朋樹が シイナに

「あっちの店でやってるぜ」って 教えると

「見に行って来る」と、ヒールのサンダルで

人混み割って消えた。


「ニナは、いいのか?」


金魚 狙いながら、泰河が聞くと

「あっ、うん。掬うの 見てていい?」とか

かわいーこと言うし

「おう、もちろん」「見とけ見とけ」って 手招きされて、泰河と朋樹の間に入った。


「ルカ」


やっと 手ぇ離したミカエルは、ボウル持って

オレに ぴったりくっつくしさぁ...


「なんだよー。掬いづれーしー」


赤い 尾ひれヒラヒラのヤツ狙ってたら

「ニナって子... 」って、何か聞こうとする。


「ん? ああ、たぶんさぁ... 」と ヒラヒラ掬って

小声で答えようとした時に「何匹 掬った?」って

上からジェイドが 声掛けて来て、赤いヒラヒラは

ボウルに入らず、水ん中に逃げた。


「おまえさぁ... 」

「まだ、ボウル から

僕は 五匹掬えたのに。出目金ばっかり」


「おっ、じゃあ、お手並み拝見してやるぜ。

おっちゃん、代わってもいい?」


隣に居た泰河が、店の人に断って

ボウルと掬うやつ ジェイドに渡して

オレの方に寄った。


「二匹 掬ってるじゃないか。

泰河も出目金ばっかり」


「おう、かわいいからな」


「ニナは? やってみた?」


「え? ううん... 」


すかさず、「ニナ、やる?」って 聞いて

ボウルと掬うやつ回してもらうと

「じゃあ、泰河」って、ミカエルも泰河に回して

一緒に立ち上がるし。なんでだよ、ミカエル...


で、「俺、あれ食いたい」って

ソフトクリーム屋 指して、“ほら” ってツラで

手ぇ出すしよー。


「繋がないの?」


シイナだしよー。


「繋ぐし! アコたちは?」


「金魚掬い、二回目。

掬った金魚は、超能力で消えてるけど」


「そーかよ。

おまえもソフトクリーム、食うのかよ?」


「うん、パイン味。カップでね」


いいけどさぁ。

三人で並んでて、メニュー見たミカエルが

「あの、“トロピカル” ってやつがいい」って

フルーツがボコボコ刺さった、バカでかいやつを指した。


「あんなに 食えねーだろ」って 言ったら

「一緒に食えばいいだろ?

シイナも パインやめて、あれ手伝えよ」だし。


「じゃ、トロピカルでー」って 料金払って

ファミリーパックみてーな でかい紙カップに

何色かのソフトクリームと、フルーツが刺さってくのを、端に寄って待つ。


「それで、ニナって

アコが好きなのか? ジェイドなのか?」


「えっ、ミカちゃんって

意外と ヒト見てるんだ」


ミカちゃんて 言うな...

なっげー エクステまつ毛しやがってよー


「たぶん、ジェイド」って オレが答えたら

「それ。ルカちゃんさ、からかったり

わざとらしいこととかは、しないでよね」って

ツンとして 言いやがる。


「してねーしぃ。

おまえ、他のヤツ どう呼ぶのか 言ってみ」


「朋ちゃん、泰ちゃん、シェムちゃん」


ミカエルも「シェムチャン?」って

カタコトで 聞き返してるんだぜ。


「ジェイドは?」

「神父さん。慣れたら、ジェイくん。

ジェイちゃんって、変だし」


「ボティスは?」

「ボティスさん」


分かってんなー...

「私、人 見るから」つってるし。

ソフトクリーム渡される時に

「スプーンは?」って 聞かれて

「10本くらい」って 答えてるし。


「おまえは、ニナに 何か聞いてんのかよ?」


シイナは「ううん」って 言いながら

ミカエルが持ってるトロピカルソフトから

半分 凍ってるような、櫛形のオレンジを取った。


「でも、ココの... 鏡影? が 出た時に

教会に行ったじゃない?

あんたたちに、仕事依頼しに。

あの日から、ボーッとしてること多いし

アコちゃんにも

“教会に行ったら、神父さん居るの?” って

聞いたりして。

ニナは、知られたくなさそうなんだけど

まぁ、分かるじゃない。見てれば、だいたい」


ふうん... シイナにも話してねーんだ。

仲良くなって、まだ日が浅いから かもだけど。

ソフトクリーム食ってみてるけど、何味がイマイチ分からねー。ピンクと黄色んとこ。

ミカエルも 全色食ってみて、眉間にシワ寄せてるし。


「昼間 海で、アコちゃんが声掛けてきた時も

アコちゃんに会えたのも 嬉しそうだったけど

“みんな 一緒なの?” って 聞いてて。

だから、私まで ちょっと

あんたたちの 周り 彷徨くかもしれないんだけど... 」


「うん、いいぜ」


ミカエルが答えると、シイナは ホッとした顔を見せる。


「シイナ、少し変わったな」


天使顔の ミカエルの碧い眼を ぼんやりと見て

シイナは、一瞬 泣きそうな顔をした。


「おう、前に ホテルで話した時も思った。

まだ あんまり、かわいくは ねーけどー」


オレに眼ぇ移すと、シラケたツラになって

ソフトクリームのカップから 冷凍パイナップル

取ってるけどさぁ。


「百匹の 羊の話、あるよね? 聖書?」


「おう」


地下倉庫で、エマが シイナに話したやつだ。


「その中の 一匹だって、思うことが

どうして イヤだったんだろう... って 思って。

いろんなコトを、全部

自分とは 関係無い って、思ってて」


いろんな受け取り方があるよな...

ミカエルが、ソフトクリーム食いながら

「うん」って 頷くと

「私だけ、特別に ひとりだって 思ってて... 」と

少し 思い切ったように言った。


「でも、あの時

目が覚めたら、“起きたの?” って、ニナが居て」


シイナは、自分で首を切り裂いた後に

ココの首に 噛み付かれて、気を失ってた。

今 言ったのは、その後のこと。


「朋ちゃんに、怒鳴られて 腕切られたり、

教会で神父さんに、冷たい眼で見られたり、

あんたが、ホテルで私に “クソ女と思ってた” って 言ったり... 」


「おまえ それ、ムリねーだろ?

軽い逆襲かよ?」


黙って聞いてたらよー って、口 挟んだら

「いやいや、うん、わかってる」って

笑ってるけどよー。


「でも、朋ちゃんも あんたも、神父さんも

私が話すことは、ちゃんと聞いてくれたりして...

ココの話は、私にとって 大切な話しだったから」


「“嬉しかった” ?」


アコだし。四郎 連れて

目眩ましのシェムハザもいるけど。

「アコちゃん?」って、シイナが振り向く。


「シイナは、意外と 回りくどい言い方するけど

お前たちとも 友達になりたいんだ。

ジョオウサマ扱いしないから。

一匹の羊 っていうより、一匹の小娘コムスメ だけど」


振り向いたまま、シイナの背中 固まってるし。

アコ、だいぶ最初の方から聞いてたっぽい。


「なら、そう言や いいだろ?」

「けど、榊にも言えてなかったもんな」


泰河と朋樹も来て

「うわ、バケツみてぇの買ってやがる」

「半分 溶けてるじゃねぇか」って

文句言いながら、四郎呼んで 食い始めてる。

「もう、飲んだ方が早い」って

アコも参加してるけど。


『だが、そろそろ 崖に向かわねば。

花火が 始まるだろう?』


シェムハザが話すと

「今、何か 声した... ?」って

シイナが キョロキョロしてる。


「ジェイドはー?」って 聞いたら

「ニナが、あまりにも金魚掬えねぇから

爆笑しながらレクチャー中」って 朋樹が

金魚掬いの方を 指差す。


人が歩いてく合間に、しゃがんでる二人の背中が見えた。一度 並び直して、今からやるらしい。


「先に 向かいませんか... ?」


何味か分からねー ソフトクリーム食いながら

さりげなさを装った 四郎が言って

「おう、掬ったら来るだろ。出目金ばっかり」

「ビールは もう、コンビニで買おうぜ」って

移動を始める。


ミカエルが、“ほら” って 手ぇ出すし。

もう、これで いく気っぽいよなぁ。

あきらめて 手を取りながら

「行くぞ、小娘コムスメ」って 言ってやったら

「小娘って やめてくれる?」って 笑いながら

シイナも隣に並んだ。



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