「おい... 」

「マジで円盤... ?」


まさか、飛ぶとか思ってねーし

朋樹の半式鬼も付けてねーし...


「ボティス、見た?」って ジェイドが聞くと

「見た」って、まだ ゴールドの眼を空に向けてる。ボティスも見てるし 現実なんだろーなぁ。


ザザ... とか 波が音立てて

シロムクが「キュイ」って 首 傾げるし

「... とりあえず、テントに戻る?」ってなった。


「しかし、あのような皿など

人等が作れようよ?」


砂浜を歩きながら、榊が不思議そうに言う。

ドローンか何かの動画でも観たんだろうし

作れねーこともないと思うけど

榊にしても 四郎にしても、ちょっとズレてると思うんだぜ。作れても、あんな半端な洞窟に置かねーだろうし。


テントに入ると、榊が 浮かせてた狐火を

シロムクが 不思議そうに見上げてる。


テーブルと テントの内側に張られた氷で

夜は、風で巻かなくても 涼しかった。


「暑き国の鳥であれば、ぬくい方が良かろうの」


化け解いた狐榊が、椅子に座ると

両前足の間に ムクドリが鎮座する。

やっぱ、生存本能 薄いんじゃねーのかな?


四郎が ムクドリの前に

ゴマフアザラシとクマのヌイグルミを置くと

ムクドリは、また 求愛ダンスを始めた。


「珈琲」って ボティスに言われるけど

ポータブル冷蔵庫 開けた泰河が

「無いぜ」って 答えてる。

シェムハザ、コーヒーは ホットでもアイスでも

淹れたて取り寄せてくれるもんなー。

いつでも淹れられるようにしてくれてるディルに

すげー 感謝するぜー。濃くて美味いし。


ボティスが、舌打ちでもしたそーなツラで

「アコ」って 喚ぶと

アコは、シャンプーらしき いい匂いさせて

「ボティス! どこに居たんだ?!」って

驚いた顔で顕れた。もう、水着じゃねーし。


「海の中を、かなり広範囲に探したんだけど

珊瑚礁は、どう探しても無かったんだ。

シェムハザとミカエルと、一度 テントに戻ったんだけど、テントにも砂浜にも 誰も居なかったから ホテルに行って、探しがてらに風呂に入った」


「ああ、多分 神隠しした時に

行き違いになったんだ」


アコは「なんで 神隠し?」って 聞いてるけど

ボティスが、シロムク指差して

「ミカエルとシェムハザは?」って聞く。


「風呂入って、部屋に戻っても まだ誰も居なかったから、一階のバーラウンジで飲んでる」


「えー、じゃあオレらも ホテルに行こうぜー。

まだ 水着だしさぁ」

「そうだね。榊に 神隠ししてもらえば、

冠白椋も入れるし」


「うん、ホテルに向かっててくれ。

珈琲買って来る」って アコが消える。

ボティス、アコ喚んでから “珈琲” って言ってねーのに、分かってるよなぁ。


「珊瑚は、こうして ありますのに... 」


水槽の ピンクと水色の珊瑚を見て

四郎が 不思議そうに言ったら

「もし 移動したとしたら、すごく遠くに行ったのかもしれないね。それこそバリ島とか」って

ジェイドが 肩を竦める。


ボティスが「行くか」と

氷テーブルの上に置いた 木彫り猫を取って

椅子を立った。


テントを出て、ホテルの前までは 神隠しせずに

歩いてると、人数分のアイスコーヒーと

四郎のラテ 買って来てくれた アコが戻って来て

一人ひとりに渡してくれる。


「その鳥、バリ島にしかいないやつだろ?」


人化けした榊が抱く シロムクを見て

アコが聞くし、「崖んとこに居てさぁ」って

宇宙人 見に行こうとした話とか

バリ猫拾ったこと、洞窟の中の閉じた門と、

飛んで行っちまった 円盤の話しながら

神隠しして ホテルに入る。


「へぇ... バリばっかりだな」


ボティスから受け取った 木彫り猫を見つめて

アコも不思議そうだったけど

「ミカエルとシェムハザに 話しとくから

風呂入って、部屋に居てくれ」って 言って

猫持って消えた。

相変わらず 仕事の動きには、ムダねーよなぁ。

まぁ、バリ猫もシロムクも、仕事じゃねーんだけどさぁ。


部屋に入ると、シャワールームの棚に用意された バスタオルで

ベッドの上に シロムクの巣みたいのを作って

「じゃあ、後でー」って

榊とジェイド置いて 風呂入りに行く。


あっという間に 深夜に掛かる時間だけど

風呂と 一階のバーラウンジとカフェは

24時間やってて 助かるんだぜ。


脱衣室で、シャツとか海パンとか脱ぎながら

「もう、人は少ないのですね」って

四郎がキョロキョロしてる。

ロッカーも、ガラスのドアの向こうに並ぶシャワー、黒い石の浴槽も 気になるみたいだ。


「大きな都には、湯屋なども御座いましたようですが、私は 京や大坂に登ったことは御座いませんでしたので、大抵 行水をしておりました」


「そっか。天然の温泉も、湯治のためだったり

藩主とか地位ある人が たまに入ったり... とか だもんな」


全身洗って、スッキリすると

長い髪を 女の子みたいに、くるっとやって纏めた四郎は、ボティスと 露天風呂に向かう。


「野槌が出た山の別荘でも、このように

外に湯船がありましたね」って、楽しそうだし。


「部屋のバルコニーにも 風呂あるからさ、

ミカエルが “入る” って言い出すと思うぜ」


泰河が言ったら「それも良いですね!」って

明るく笑った。


「うん。夏だし、海 見えるしなー」

「オレら、冬も入らされたけどさ」


「オレ、バルコニーの風呂

入ったことねぇんだよな」って 朋樹が言う。


「そうだったか?」


ボティスが聞くと

「おう。榊の赤襦袢 見ただけだぜ」って答えて

「充分だろ?」って 笑われてる。

赤襦袢、花札のイカサマにも使いやがったけど

いいんだよなー...


「では、共に浸かりましょう」って言う 四郎に

「おう、bain moussant にしてもらおうぜ。

泡風呂」って 笑った。朋樹、なんか柔いぜー。

バン ムソンって、発音 良かったしよー。


レンタルのランドリーバッグに

最初に着てた 水着やパーカー入れて

「洗濯しとく?」「ホテルに頼む?」とか

話しながら、部屋に戻ると

シェムハザが ソファーで、榊と 冷酒飲んでて

アコとジェイドは、もう すでに

ミカエルのバルコニー風呂に 付き合わされてた。

シロムクは、ミカエルの近くをピョンピョン跳ねてる。


「おっ、早ぇな。

オレと四郎で 入ろうと思ってたのに」


朋樹が言うと「ジェイドとアコと代われよ」って

ミカエルが言ってる。ミカエルは出ねーよなぁ。


「水は、バルコニーのクーラーにある」


シェムハザに言われて、朋樹が

「泡風呂に してくれよ」って言うと

シェムハザが指を鳴らす。


開いたバルコニーの窓から、ミントみたいな 清涼感のある匂いが入ってきた。夏用かな?

風呂に立ち出した泡は、薄い水色に見える。


ボティスは 榊の隣に座ると、一緒に冷酒 飲み始めて、バリ猫や円盤のこと 話してるけど

オレらは、青い瓶の水を取り寄せてもらった。

オレンジフレーバーのやつ。


でかい部屋で、ミカエルたちは バルコニーだし

あぶれずに ソファーに座れた。


「... バリで “門” なら、割れ門じゃないのか?」


「だが 閉じてりゃ、割れ門じゃあないだろ?」


シェムハザとボティスは、洞窟を塞ぐ門も

バリ島関連で 考えてみてるっぽい。


「割れ門って、何なんだ?」


青い瓶の水を 半分くらい飲んで、泰河が聞いたら

「バリ ヒンドゥーの寺院の入口にある

左右対称の門だ」って、シェムハザが

写真を取り寄せて、テーブルに置いた。


「あっ、何か見たことある気がする。

写真とかで」


何階分かの屋根がある塔が

中心からスッパリ 真っ二つに縦切りにされてて

左右に分かれて建ってる。


「バリ ヒンドゥーには、“二元論” という考え方がある。善悪、生死、男女... すべては必ず相反し

そのバランスによって、世界が成り立つ」


バランスが崩れると、良くないことが起こるけど

崩れなきゃ 世界が維持される。

陰陽思想と似てるよなー。


「そして、高い場所に神が居て

低い場所... 海などには 魔が居る。

中間である低地に 人が棲む。

バリの最高峰である アグン山は、神々が居る場所だ。もとい、サン・ヤン・ウィディが居る。

アグン山や バリの各村には、ブラフマーとヴィシュヌ、シヴァの 三神の寺院があるが... 」


サン・ヤン・ウィディ が

すべての神を 内包してるんだし。

アグン山が 神の座らしい。


「“メル” という、何層もの屋根を持つ塔が

この “アグン山” を 表している。

寺院の入口には、塔... 山が 左右に割れた門

... “チャンディ・ブンタル” がある。

この割れ門は、善悪や生死などの 表裏一体を示しているそうだ。先程の “二元論” だな。

割れ門を通ることで、神の世界に近付く。

だが 邪気のある者は この門を通れん... と 聞く」


「へぇ... じゃあさ、洞窟を塞いでたのは

割れ門 じゃなくて

“メル” ... 山の方なんじゃねぇの?」


バルコニー風呂から戻ったジェイドが

「四郎が撮ってきた画像を見て

“壁” が 塞いでいる、と 考えずに

“閉じた門” が 塞いでいる、と 考えたのは

どうしてだと思う?」と、青い瓶の蓋を開けて

泰河の隣に座りながら 聞いた。


「えー? なんでだろ?」


そうなんだよなぁ。“門” って思ったし...


「あっ!」って、泰河が

気付いた って感じの声を上げる。


「縦に 線が入ってたから だ!」

「おっ、それ!

門が閉じてる時の線が あったもんなぁ」


“アルダナーリーシュヴァラ”... 右半身がシヴァ

左半身が妃のパールヴァティ っていう

性力シャクティの完成の姿を彷彿とする。

像とか見ると、そりゃ カオスだけどー。


「あれって、割れ門なんだ。

なら、それが 閉じてた ってことはさぁ、

相反する ゼンアクとか ダンジョが 一緒になって山になった... 神が降りた ってことー?」


オレ、上手いっぽいこと言ったじゃん... って

シェムハザとボティス 見たら

二人共、オレ見て 無言になっちまったんだぜ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る