14 ルカ


ニナとシイナは、今日は店が休みらしいけど

「じゃあ、夜からで」って言って

沙耶さんの店に来た。


もう 沙耶さんは、夜の占い時間で

頭に 蝶馬のエステルを乗せたゾイが

夕飯を準備してくれるし、オレと朋樹が手伝う。

「じゃあ 運んで」って言われる料理の皿を

運ぶだけなんだけどさぁ。


リョウジくんも 一緒に連れて来たから

一つ テーブルを借りて、四郎と座らせてみると

「かわいい感じの お店ですね」って 喜んでる。


もう四郎は、ゾイが沙耶さんに紹介してたけど

『本当に 天草四郎さん?!』って

沙耶さんは大喜びした。

記念館とか そういうのに行ったことがあるらしく

『ファンなの』つってた。


弁当のことも、沙耶さんから申し出てくれて

『じゃあ、私が作りたい。お弁当って楽しそうだから』って、ゾイが希望したらしい。


オレらに食事を出し終えたゾイが

「四郎のお弁当箱を買ったよ」って

でかい二段のやつ出してきた。


「ふうん」って言いながら

エステルに 店の鉢の花を 食わせてるミカエルに

「あの、ミカエルにも... 」って、頬 染めて

色違いの弁当箱 出してきたんだぜ。

今日は ゾイも沙耶さんも ミカエルシャツ着てたし、そらもう「うん」って ゴキゲン。


店には、弁当のレシピ本も何冊かあって

ゾイは楽しそうだった。いいよな、なんか。


「それで今日は、シイナの仕事に?」


サイフォンの支度をしながら、ゾイが聞く。


「そ。本当は朋樹とジェイドだけで

足りると思うんだけどさぁ」

「四郎が “見てみる” って言うんだよな」


四郎は、エマが関わった人たちに

責任を感じてるみたいだった。

アバドンがやらせたんだぜ っていうのは

解ってるんだけどさぁ。


「そうなんだ... 」と、ゾイが眼を向ける先の四郎は、リョウジくんと 楽しそうに唐揚げ食ってる。


けど、シイナは 四郎に

“あんたが生き返ったりしたから” って

ナイフ向けたりしたし

本当は 会わせたくねーんだよな...

四郎から見りゃ、シイナでも大人オトナだしさぁ。

オレらが護るけどもー。


なので、シイナが負担するのは

朋樹とジェイドのホテル代にしてもらって

料金と 一緒に徴収。オレらの分は オレらで出す。


『知らない人が 一緒だと、眠れないから』とか

言いやがったから、シイナとニナが 一部屋。

その部屋に、シェムハザお取り寄せのカメラ付けて、オレらは 別室。


沙耶さんの占いも終わって、今日のデザートは

ミカエルが好きな カスタードプリンだったし

「美味い」って ニコニコしてやがる。


「朝顔の種を買ったの。

エステルに 食べさせるんでしょう?」


「うん。沙耶夏も いつもありがとうな。

ファシエルのことも」


おっ、なんか カレシっぽいじゃーん。

ゾイがキッチンにいる時ってのが また良いぜー。

「まあ、こちらこそ!」って

沙耶さんが嬉しそうだしぃ。


「沙耶夏。マリネは成功であった」


カウンターに入って、沙耶さんに纏わり付く榊が言う。ボティスは「珈琲」って オカワリ要求するし、沙耶さん大変だよなぁ。


「うん、シェムハザさんも?」って

カップに注いでくれながら、小声で 榊に

「今度は、簡単な おつまみに挑戦しない?

ワインに合うものよ」って 言ったりして。

「ふむ!」って 喜んでるし。


「最近、少し 仕事が多いわね」


「そうなんだよな。

まだ、肝試しとか降霊とかの時期じゃねぇし

ネットでも何も流行ってねぇんだけどさ」


「そうよね... 」


沙耶さんは、何か気に掛かってるみたいだし

「どうしたの?」って コーヒーカップ持って

ジェイドが聞く。


「うん。お仕事の電話取るとね

依頼してくる方々同士には、何も繋がりはないのに、同じような印象を受けるの」


「ん? 同じような って?」


オレが聞いたら、ミカエルの向こうで 朋樹が

ちょっと引っ掛かる って顔した。


「人霊が多かったけど

妖物系も “元は人間だった” みたいのが

多かった気がするな」


「大抵、そんなんじゃね?」


何が 引っ掛かるんだろ?

“同じような”... ?


「ゴーストなどを使役する奴がいる、と

いうことか?」


テーブルから ボティスが言うと、沙耶さんは

「いえ、ハッキリはしないわ。

そういう感じがしただけなの」と 答えた。


「えっ、もしそうならさぁ

霊とか妖怪を使える奴 ってことー?

いんの? そんなヤツ」


「いても おかしくねぇだろ?

オレ、式鬼使うし」


「あっ、そっかぁ... 」


「依頼を受ける時は、私も気を付けておくけど

朋樹くんたちも、充分 気を付けて欲しいの。

どの方も、亡くなる方向に 誘われてるかたばかりだったし... 」


ハティ板を換金に行った時の、縊鬼を思い出した。あれも 朋樹の祓詞で、血を流して

“人に戻った” って、四郎が言ってた。


「奈落から?」「可能性はある」


「けど、蝗 見なくね?」って、テーブル振り向いて言ったら、ミカエルが、カウンターの方に

オレを向き直させて 花の鉢を指した。


蜘蛛だ。シルバーの。


洗い物済ませて、キッチンから出てきた ゾイが

「パイモンの蜘蛛だよ。沙耶夏を護ってる」って言った。そっか。こいつら、蝗 食うんだよな。


「最初は怖かったんだけど、慣れてきたわ。

ゾイの眼の色に似てるし」って

沙耶さんは、ムリに自分をゴマカしてる感があったけど、身は護られるしなぁ...


「リョウジくんは持ってるのか?」と

ジェイドが聞くと

四郎と楽しそうに笑ってた リョウジくんが

「はい。アコさんに貰いました」って 答えて

制服の 胸ポケットから、蜘蛛を出させた。


「橋田 涼三りょうぞうです」って

渋い名前付けて 飼ってるし、安心したぜ。


「リョウジくん、次男?」って 朋樹が聞いたら

一人っ子らしい。「父さんが “涼一りょういち” なんで」って

言ってて、“なるほど” ってなる。


「リョウジ、そろそろ送ろう」


シェムハザに言われて、四郎もリョウジくんも

名残惜しそうだったけど

「来週から シロウも学校だし、お弁当と 一緒に

おやつも持たせるよ。一緒に食べて」

「スマホは0時まで」って、ゾイと朋樹が言うと

「はい」って 笑って、椅子を立った。




********




シェムハザがバスで、リョウジくんを送る間に

四郎は ミカエルと、制服を着替えに行って

再び 沙耶さんの店に集合して、シイナが指定するホテルに向かう。


「駅前だろ?」

「召喚部屋から近いじゃん」


でかいグループのホテルだけど

地元だから ホテル泊まらねーし、初めて入る。


「予約は?」「夕方入れた。“ルチーニ” で」


シイナが、シイナとニナの部屋と

ジェイドと朋樹が 待機する部屋を

隣り合わせで取ってるけど、なんと最上階らしい。稼いでやがるよなぁ。


「“私、狭いと寝られなくて” と言っていた」って

ジェイドが ため息混じりに言う。

朋樹が予約を入れた部屋も 最上階のデラックスルーム。“泊まり” ってなったら、こんなだしさぁ。

慣れてきちまって 怖いぜ、もう。

けど、ボティスにシェムハザ、ミカエルもいるしな...


ホテルに入ると、四郎が “わぁ... ” って顔で

二階まで吹き抜けになった 高い天井を見上げてる。

「このような建物に入ると、儂も未だに

圧倒されるものよ」って言う榊も

四郎と並んで、シャンデリアライト見てるし。


シイナやニナと、ロビーで待ち合わせだけど

極力、四郎は会わせたくねーし

『カメラ着けるし、何もすんなよ』って 話しは

ボティスとジェイドにしてもらうことにして

二階に入ったショップを見に行った。


二階は、建物真ん中の床が無くて

一階ロビーが見下ろせる。

周囲に ぐるっとショップがある。


「もう、閉まり掛けてんな」

「九時近いもんなー」


服とかのショップもあるけど、別にいいし

期間限定らしい どっかの名産品とか売ってる店を覗いてみた。


「綺麗ですね」

「ふむ。ギヤマンであるのう」


海外製の切子ガラスのグラスを見てるから

「そんなん、欲しいの?」って聞いたら

二人とも、首を横に振った。


「輸入菓子コーナーもあるな」

「あ、カファレル」

缶入りチョコを手に取ってると、榊がカゴを持って来て、ミカエルと いろいろ入れ出した。


「あっ... 」


四郎が見つけたのは、ポルトガルのコンフェイトで、日本のより色鮮やかだった。

ビニールのフィルムに包まれたそれを

自分でレジに持って行って、今月の小遣いで買ってる。


「仕事の時は、仕事の経費で落とすんだぜ。

小遣い なくなっちまうぜ」って言ったけど

「コンフェイトは良いのです」って

ニコニコしてる。瓶の中に補充するらしい。

朋樹が “かわいいヤツ” って 眼を向けた。


榊とミカエルが選んだものを精算して

一階ロビーを見てみると

ようやく、シイナとニナが来たところのようで

ボティスとジェイドがいる方へ向かってる。


話しはすぐに終わったらしく、一階からジェイドが こっちを見て、上を指差した。

そのままエレベーターホールに向かうし

オレらも、予約した部屋に上がることにした。


最上階に着くと、シイナとニナ立ち会いのもと

シェムハザに取り寄せてもらった小型カメラを

オレと朋樹で、ベッド付近とか

テーブルとソファーが映る位置に取り付ける。


「シイナ おまえ、ニナに 何もすんなよ」って

言ってやったら

「別に 好みじゃないし」って

ふてぶてしく答えやがったけど、エクステ睫毛の眼が 不安そうに見えた。

ココの首は、何日か連続で出てるんだし

今日も 出る恐れが高い。怖いんだろな...


「寝ないで ちゃんと見てるんだよね?」


「見てるだろ そりゃ。仕事だしよ」


「なんで そんな言い方するの?

私、あんたに何もしてないよね?

今は 私の方が客なんだし、

店では、あんたが失礼でもガマンしたのに。

信用出来ないから聞いたんだけど」


ん? 確かに...


地下倉庫での、ココへの態度の印象とか

いちいち めんどくせーとこで

クソ女的に扱っちまうけど、

別にオレは、シイナに何もされてねーんだよな。

店では むしろ、オレの方が なヤツだったし。


「悪い。オレ、おまえに

クソ女って印象持ってるから、つい」


シイナは、ぽかん としたツラで

「え?」って オレを見上げたけど

「店での仕事のこと?」って 聞き直した。


「いや、仕事は何も関係ねーし。

おまえ自身の性質。

けど、客だもんな。オレが間違ってたし」


「おい、ルカ」と 朋樹が、オレの口を止めて

「仕事は ちゃんとやるから、信用してくれていい。シイナは よく覚えてねぇだろうけど、

店にも こっち系の仕事で行ったんだよ」って

説明する。


「それで、必要だったから霊視したんだ。

これについては、説明 要らねぇよな?

自分が孤独だからって、他人ひとに何をしてもいいって訳じゃねぇからな。迷惑だから。

何してきたか知ってるから、ニナが心配になったんだよ。ニナは、口説いても乗らねぇだろうから

シイナが意地になって、面倒臭いことしたら

ニナが困るだろ? それを見るのも嫌だしな」


オレを止めた割に、すげーこと言ってる気がするんだぜ。


「うん」


あれ? 頷いたぜ?

意外なんだけどー...


「さっき、神父さんにも 謝った。ロビーで」


シイナは、もぞもぞした感じで

話し始めた。


「今まで、誰も私に

そういうこと 言わなくって。

ニナは、私の手のひらに乗せられないのは

分かってる。

だから私、ニナといると、何か安心する。

私を、拒絶するんじゃなくて

ちゃんと “だめ” って断るから」


ニナはシイナに、“向き合う” ってことか。


「でも、ニナは私と

“一緒にいるのはイヤじゃない” って。

うん、だから、あんた達が 心配するようなこと

ニナにしないから。

“甘えるのはいい” って言ったから、そうするかもしれないけど」


「おう」「なら安心した」


ソファーに座って、オレらとシイナの話しを

見守ってた様子のニナに

「まあ、別室で見てはいるけどさぁ

何かあったら、スマホ鳴らして」って言って

朋樹と部屋を出ようとすると、シイナが

「神父さんは... 」って 呼び止める。


「私が、“ちゃんと話しをして、話しを聞けるなら”

教会に 話しをしに来てもいい って、言ったんだけど... 」


「ふうん、行けば いいんじゃね?」

「けど ジェイドと話すなら、ちゃんと素直じゃねぇとな。誤魔化しは効かんぜ」


「私、出来るって思う?」


おう? 自分が そう出来るかどうか

マジで不安そうだ。


こうして 落ち着いて、シイナを見てみると

前に会った時と、多少 印象が違う気がする。

エマやシェムハザ... のことは 忘れてても

何か 心が経験したこと が 残ってるのか

シェムハザが分けた魂が 影響してるのかもな...


オレは朋樹と眼を合わせて、朋樹に任せてみると

「オレも おまえみたいだったぜ。

今もまだ、大して変わってねぇけど。

したい と思ったら、そう すればいいし、

なりたい って思う風に なっていいと思うぜ。

“大切なのは、自分が自分を 諦めないこと”

らしいからな」って シイナに 言って

「戻ってカードやろうぜ。四郎も混ぜて」と

オレを連れて 部屋を出た。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る