夕方から夜は、17時過ぎから 20時くらいまで

駅の中央口、西口と東口に分かれて蝗探し。


この時が 一番、蝗が見つかる確率は高い。

人 集まってくるし。


今日は、ジェイドとオレが東口。

改札に向かう人をオレが見て、改札から出てくる人を ジェイドが見る。


ジェイドの頭の上で ほけっとしてるように見えたアンバーが、よれよれと飛び、券売機にいた男の背中から 黒蝗を取ってきた。


「アンバー、やるじゃん!」

「すごいね! いい子だ、アンバー!」


片手にアンバーを乗せて、白いたてがみの額を撫でるとキスもしてる。

アンバーは 普段、普通の人には姿が見えないようにしてるから、今ジェイドは、空気を撫でて キスした風になった。アブねーし。


オレが 一緒にいるからまだ、なんか ふざけてるか

そういう小さいパフォーマンスに見えるかもだけど、一人でやってたら危険な外国人に見えるんだろうな。お構いなしにやってそーだしさぁ。


アコ喚ぶと「見つかったのか」って

目の前に出現する。


今日も黒髪をハーフアップにしたアコは

最近 スーツをやめて、レザージャケットの中に

黄色シャツ、パープルのチェックの膝下パンツ、

編み上げブーツ という、きれいめストリートロックな感じだ。

けど、ベルゼの血を ハティが練金して作った虫籠を持っている。


「黒ばっかりだな。さっき浅黄も見つけたぞ」


アンバーから黒蝗を受け取って籠に入れると

すれ違った男に「止まれ」と 軽く命じる。

肩に黒蝗が乗ってた。


アコは それを、さりげなく取りながら

「知り合いに似てたけど違った。悪い。

もう行け」と、男を改札に通らせた。すげー。

なんか なめらかだ。動きにムダねーの。


「俺も待ってる間に探してるけど

やっぱり もっと、探す奴の数が欲しいな」と

蝗を篭に入れてる。


「寒いだろ? 珈琲 買って来てやるよ」と 消え

再び カップの珈琲を持って顕れて オレらに渡すと

「お前には これ」と、アンバーにロリポップを

剥いて渡し

「泰河達にも珈琲 持っていく」って 消えた。


「こういう小さい仕事でも、出来る人は違うね」

「あいつ、軍の副官だしな... 」


コーヒー 飲みながら、またしばらく探すけど

なかなか見つからねーし

眼だけ動かしながら「なぁ」つってみた。


ジェイドは「ん?」って、出口側 見ながら

オレが切り出す前に「ゾイのことか?」って言うし。


「なんで わかるんだよ?!」

「おまえの顔で」


いや、顔 見てねーじゃん。いいけどさぁ。


ゾイは、たぶん ミカエルが好きだ。

で、ミカエルが接近すると、何故か 中身の天使の姿に戻っちまう。

堕天扱いだから、翼は ねーんだけど。

中身は 女の子なんだよなぁ。


「おまえ、たまにゾイと聖書の話とかしてるじゃん。戻っちまうことも知ってたのかよ?」


これさぁ、朋樹いると なかなか聞けねーの。

ゾイを “オレの式鬼” って言う朋樹は

いつの間にか、ゾイを妹みてーに思っちまってて

最近 式鬼飯してたんだけど、他の式鬼に

“おまえら、ゾイのこといいのか?” って 真面目に

確認してやがってさぁ。

他の式鬼は、若干 “ええ... ” って 雰囲気で

朋樹の背中に消えた。


ミカエルは、なんか意識してそーに見えるけど

“誰にも元の姿を見られたくないなら、俺が護ってやるよ。俺は同じ天使だから平気なんだろ?” って

天使としての使命感に燃えてる。


自分のせいで戻っちまうことには、いまいち気付いてねーんだよな。

ゾイは言えねーし、朋樹は戻させまいとするし

オレと泰河は、もうなんか そわそわしてるとこ。


「まあ、それに近い話はしてたけど

ゾイは 誰にも知られたくなかったからね」


「あっ、マジかぁ...  で、なんで戻んの?」


「ハティが “魔法” を掛けたようだよ。

心に身体が準じるらしい」


「おおおっ、それで ミカエルで戻んのか!」


ふう とか、軽いため息ついたジェイドが

アッシュブラウンの髪の下の ごく薄いブラウンの眼を オレに向ける。


「おまえ、蝗探ししてるのか?」


「してるしぃ。アンバーもいるしさぁ。

ミカエルの方は どうなんだろな?

おまえから見て、どう思うー?」


「うーん... 意識はしてるんじゃないか?

でも、ミカエルが それに気付くかどうかは見守るしかないだろう?

おまえも泰河も、無闇に そわそわするなよ」


「なんでだよ、だって ゾイかわいーじゃん!

おまえ なんで普通なんだよ?」


「朋樹がムッとするし、面倒臭いじゃないか。

ゾイも別に、今以上を望んでる訳じゃないし」


「えっ、そうなのかよ?!」


「“ミカエル” だぞ?」


ジェイドは呆れた顔で オレを見やがった。


「天の軍の英雄だ。

地上でだって、彼の名前を聞いたことがない人の方が少ない。

ゾイは、ミカエルを遠目に見てる天使の 一人だった、と言ってた」


「えー、けどさぁ、今はもう そんなの良くね?」


「僕がじゃない。“ゾイが” 恐れ多い と言っているんだ。僕だってまだ、“あのミカエルなんだ” って思うしね。

恋心を抱くことすら、自分で信じられないようだよ。全天使の憧れなんだし」


“マシュマロ!” って言ってる くせっ毛ブロンドが頭に浮かぶ。うん...


ジェイドが すたすた歩いて行って

「失礼」って、相手には何も理由は言わず

黒蝗を持って 戻って来た。


相手は、振り向いたら でかい外国人だし

“なんだったんだ? 人違いか?” くらいで 駅を出て行く。


麗人 って呼ばれるツラしてやがるし、スプーンで人の眼 抉るよーには見えねーもんなぁ。

見かけで得してやがる。


アコを喚ぶ前に 朋樹から電話がきた。


「今日は もう切り上げるぜ。

20時から召喚。駐車場集合」だけで、通話は切れる。

慣れてるけどさぁ、ヒスイには ちゃんと

“また掛けるからな” とか言うんだぜー。


アコ喚んで、蝗 渡したら

「パイモンに渡してくる。召喚だろ?

終わったら 鍋やろう」って消えた。




********




召喚部屋で、召喚円絨毯やら 印章、客に出すドリンクの準備。


浅黄は里に帰ったけど、もうシェムハザが来ていて、テーブルで ボティスとワイン中。


「今日、誰 召喚?」

カウンターでグラス用意しながら

泰河に聞いたら、ゴールドの印章 見せてきた。

金てことは、爵位は王だ。印章の名前は...


「べリアルかよ... 」


モレクの儀式で知ったけど、べリアルは

人の性的な理性のタガを外すのに長けてて

オレは ちょっと震えた。


別にさぁ、やばいことさせた訳じゃないんだけど

人間に同性愛や獣姦を教えた っていうのも頷ける。愛とかじゃなくて、単なる欲として。

しかも たぶん、タブーとかないタイプだ。

 

隣で朋樹が「依頼の客は、儀式参加者らしいぜ」って、オレらの分のコーヒー淹れながら言う。

マジか...


「じゃあ また、何かの議員希望?」


べリアルは、聖職や議員の地位にしてくれて

友や味方からも、敵からも好かれるようにする。

望むなら、使い魔もくれる。


「いや、現市議会議員」


うわ...  よく儀式に参加したよな...

ここら辺か、一の山の向こうくらいに住んでるんだろうし。

儀式の山って、すげぇ離れてる訳じゃねーのに。


「じゃあ、聖職者になりたい ってことなのか?」


朋樹からコーヒー受け取りながら ジェイドが聞くと、朋樹は

「そうなんだよな。実家が寺らしい」と

泰河とオレにも コーヒーを出した。


「じゃ 別に、辞職すりゃいいんじゃねぇの?

で、知り合いの寺とかで修行させてもらって

いつか実家の寺を継げばさ」


泰河が言うのに頷いてると

「依頼人は、親と仲悪ぃらしいけど

“謝らずに迎い入れられたい” んだってよ。

出来れば親に “継いでくれ” って 頼まれたいみてぇだな」って、どうでも良さそうに説明した。

オレらも 特に感想ねーし。


「それで、魂を賭けるのか... 」

「そういうヤツだからなんじゃね?」


コーヒー持って、テーブルの

ボティスとシェムハザんとこ行ってみる。


「おまえ、またなんか交渉すんのかよ?」と

ボティスに聞くと

「火葬許可証のない遺骨の受け入れ」つった。

ああ...  いつも、遺体 焼いちまうもんな...


そのことかと思ってたら、違うらしく

魔人たちの遺骨らしい。


「役所関連のデータや書類などは、術で偽装すれば良い。火葬した遺骨の埋葬はそれで済む。

場合によっては、人の手が届かん場所に 散骨や埋葬をすることもある」


完全犯罪、って言葉が 頭に浮かぶ。

怖ぇけど、オレらが やってることなんだよな。

後始末をシェムハザたちが やってくれてるだけで。


「だが魔人には、人間の社会生活を好まぬ者もいる。

人間に管理されず、これまで通り ひっそりと暮らしたい者もいるようだ」


シェムハザは、あちこちに散って暮らす魔人たちに、“子供に教育を” と勧めて回ってるようだ。

またクライシのようなヤツが出てきても、恐怖支配なんかも受けないで済むように、魔人社会にも 法と秩序を作ってほしい と思っているそうだ。


けど、そう考えない魔人たちもいる。

悪魔にも人間にも 自分達に立ち入ってほしくない、って。


で、仲間が亡くなった時は、山深くに埋めるらしいけど、開発に遭うと その墓も無くなってしまう。

それは悲しい... と聞いたから、まずはちゃんと墓に手を合わせられるようにしてみて、少しずつ地上の社会に 馴染んでもらってみよう ってことらしい。


「要らん世話かもしれんが、葵や葉月は学校へ通いたがっていた。

新しい世代の者達からでも、まず学び、魔人間まびとかんでも、良い関わりを築いてほしい」


なんか すげー、シェムハザ。パパは違うよなー。


「今後 何かあれば、魔人にも協力を要請する」


ボティスは やっぱりボティスだよなー。


「けどさ、この契約って、べリアルじゃねぇと ダメなのか?

他にもいるんじゃねぇの?」


オレと同じく、べリアルちょい苦手の泰河が聞いてみたら

「使役契約は結んでいるが、なるべく借りになる要素は残さん」って答えた。

こないだの儀式で働かせたから、契約 紹介して

機嫌を取っておくらしい。


「さて、そろそろだ」って 言われて

ボティスとシェムハザのグラスを片付けると

朋樹が 一階のエントランスまで、客を迎えに出る。


「あっ、スーツじゃなくていいのかよ?」と 聞くと、「構わん。だが、気は使え」ってよ。


客が到着すると、高そうなブランデー 選んだから

それ出して、まずボティスが交渉開始だ。


「お前の両親を懐柔し、すぐに寺を継げるようにしてやる。火葬許可証のない遺骨を埋葬させろ。

墓は こちらが費用を出す。

条件を飲めば、契約の執行まで10年のところ

期間が お前の寿命まで延びる... 」


まあ、これ 断るヤツって 今まではいなかったし

こいつもすぐに受け入れた。寿命は惜しいよな。


死んだ後のことの自分のことって なかなか考えねーから、願いが叶うなら契約はしたいけど

契約執行までの期間が短いから、召喚を戸惑うヤツもいるだろうしさぁ。


なんか怖い条件 出したボティスと その見た目に

完全にビビっちまった依頼主を、召喚円絨毯の円の中に立たせ、べリアルの印章を持たせると

「あなたは、一切 話す必要はありません」と

ジェイドが隣に立って 注意をした後に

ボティスが「べリアル」と喚ぶ。


召喚円の向かいの 三角形に、炎の馬 二頭が牽く

炎の馬車が出現した。


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