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今日は、リラを店前まで送って

今 ジェイドん家。


「おまえ、やっと ちょっと

うるさくなくなったな」と、コーヒー持った

朋樹が、ほっとした風にオレに言う。


「おう、まぁなー」


リラが 仕事 終わってから 迎え行ったり

休みだと 買い物行ったり遊んだり

夜中 オレが仕事だと、昼間ちょっと 飯 食ったり。

かわいいよな かわいいよなって

普通に甘くやってってる。


「喪われた記憶というのは、わかったのか?」


教会から戻って、まだ神父服スータンのまま

ジェイドがソファーに座る。

泰河が「よう、お疲れ」って、ジェイドのコーヒーも持って、キッチンから戻ってきた。


「わかんねー。けど、泰河の記憶の蓋とは

違うみたいだぜ。

“違う印象” って、ハティが言ってたしさぁ」


「ハティやシェムハザも、記憶操作は出来るだろう?」


そう。ハティは、リン

悪魔に憑かれてた時の記憶を消したし

シェムハザも、魔人まびと探しした時に

タトゥまみれのジェイドの腕 見た人の記憶が

そこだけ後で消去されるようにした。


「術使いだもんな。どうやってんだろな?」


朋樹がわかんなきゃ、オレらに わかる訳ねーし。


「軽い喪失なら、催眠とかで思い出させることは

出来るだろうけど、逆に削除ってなぁ... 」


「脳に直接、術を作用させるらしい。

一部 破損させる。後に細胞は修復されるけどね」


ジェイドが答えたけど、なんか怖くね?


「繊細な技術がいる術らしいからな。

僕は扱おうと思わない。自信がない」


「泰河のは “蓋” だしな。

剥がしゃあいいんだろうけど」


けど、剥がれんよなぁ。

剥がし方わかんねー。


「悪魔の術じゃなければ、自然に失われたことも

考えられないか?」


「いや、“思い出せない” なら

記憶はある、になるだろ。

それなら、ハティはわざわざ “喪失した” って

表現しないんじゃないか?」


ジェイドと朋樹って、好きだよなー

こういう話。泰河、あくびしてるぜ。

まあ、二人が話してくれねぇと

オレも泰河も、あんまり考えたりもしねぇんだけどー。


「じゃあ、何かが記憶操作した ってことになるのか?」


「そう考えられる、って ことじゃないのか?」


ジェイドか着替えてきても、話は続く。

ジーパンにシャツ。まだ半袖。

オレ、こいつの右腕の

腕の骨とコブラ好きなんだよな。


オレと泰河は「腹減ったよな」って

言い出してるところ。


「何か食いに行くー? ピザでも取るー?」


「でも、もうすぐシェムハザ来るしな。

泰河。死神は いつも、同じヤツが来てるのか?」


流されたしさぁ。話は変わってるけど。

キッチン行って冷蔵庫開けたら

トマトくらいしかねーし。

切るのも面倒だから、そのまま食うし。

泰河が「オレも」って言うから、一個 投げる。


「おう。たぶん同じヤツだ。声 同じだしな。

ピストルの持ち主だった死神は

シェムハザも “悪魔や天使専門の殺し屋” って

考えてるしさ」


今度は、サリエルとかウリエル系の話だ。

ハティやシェムハザ、悪魔には

天使に 作用 出来ることが ほとんどない。

オレらが出来ることも少ないけどさぁ。

一応、下級天使にはゾイと、泰河のピストルが

対抗手段にはなる。


「そいつの召喚方法だよな」


「死神の召喚法もあるが、どの死神が来るかは

わからないしな。

天使や悪魔を喚ぶのとは違う。

作用もひとつだからね。“魂を刈る”」


「ピストルあるんだし

持ち主が来るんじゃね?」


「ピストルを召喚円に入れたら、他の死神に

ピストルだけ取られる恐れがある。

ピストルの持ち主だった死神の名前もわからないじゃないか。

名前が あるのかどうかも知らないが。

下手に召喚したら、僕らが刈られるぞ」


そうか。なんとなく、死神召喚て

コックリさんみたいなもんなのかなって思う。


例えばさ、“榊”って名前を呼べば

榊を喚ぶことになるけど

“狐狗狸” だと、何が来るかは わかんないんだし。



「来てみた」


アコだ。なんか、しょっちゅう来る。

しかもシェムハザより先に来た。


「ワインを買って来たぞ」って言うし

オレがソファー譲って、人数分 グラスを出す。


「今日は 六山 回って来た。マルコと。

玄翁以外の山神達に、初めて会った。

マルコが地界で用がある時は、俺がみるからな」


「そうか。一山の新しい蛇神にも会ったのか?」


グラスにワインを注ぎ分けながら

朋樹が聞く。


「会った。銀砂ぎんさだろ? 白の大蛇だ。

あいつは、柘榴の代わりにいるんだろ?

柘榴は いい女だ」


「ちょっと...  何か せよ」


ワイン入ったグラス取りながら、泰河が言う。


「“山神には手を出すな” と、マルコに言われた。

あと沙耶夏にも。残念だ」


「沙耶ちゃんて...  あたりまえだろ?」


朋樹が軽く驚愕気味だし。オレも ちょっと口開いたぜ。ジェイドは呆れ気味だ。


白尾ハクビも かわいかったけどな」


白尾までかよ。全部 射程内か、こいつ。

あぶねーよなー。


「節操ないな、おまえ。

よくそれでトラブルにならんよな」


「今、決まった女はいないからな。

遊ぶのも合意の上だけだ」


もう話には加わらないジェイドが

ワイン飲んで、美味いな って顔する。

白だ。確かに美味い。辛いやつ。


「ドイツワインだ」と、アコが

ジェイドの顔付き見て言った。

「ボティスも好きなやつだ。つまみはマリネ」


こいつも 結構 喋るよなー。

でも ボティスも こいつも、低くて静かな声なんだよな。騒がしい感じはしない。


「俺は、人生を聞くのが好きなんだ。

寝た後に ベッドでひとつ、その女の話をさせる。

疲れているが、リラックスしているからな。

話して眠るのを見るのも好きだ」


ふうん...


「まず食事する。その女の好物で。

最近、オコノミヤキを食った。うまかった。

で、寝る。望むようにしてやる。好きなだけ。

飲みたい物 飲みながら、寝そべって話をさせる。

眠ってる顔は、話の前より 少し幼い」


うん。トラブルにはならんかもな。


「罪だ、おまえは」と、ジェイドが言うと

「誉め言葉だ」って アコが答えた。


「“クダラナイ人生” だと言って話す女もいるが

クダラナイ人生は、ひとつもなかった。

お前達も聞いてみろ。寝た後」


「だが こいつは、決まった女性が出来ると

自分のしたいことばかりをして

自分の話ばかりをする。急に子供になるんだ」


シェムハザだ。

泰河がソファー降りて、新しいグラスを出すと

ジェイドがワインを注ぐ。


「お前達、食事は まだだな? ちゃんと食べろ。

ディル、食事を」って

ブイヤベースやらクロワッサンやら

魚のムニエルやらが テーブルに乗る。

やったぜー! 気ぃ利くよなぁ。


「いいだろ、だって俺の女なんだ。

俺が甘えるのは、そいつだけなんだぞ。

うまく転がされたいんだ」


「悪いとは言ってない。

お前の かわいいところだ という話だ」


悪くないけど、困ったヤツだよな、なんか。

こいつの女になるヤツは大変そうだ。

手ぇかかりそうだしさぁ。


「あっ、そうだ シェムハザ。死神のことだ。

召喚のように喚ぶ方法はあるのか?」


シェムハザが出て来るまで

へぇ... って顔して、アコの話 聞いてた朋樹が

いつもの調子を取り戻した。


「あるが、人間だと死ぬ。

特定の者を喚ぶ方法も あると思うが、知らん。

必要がないからな」


「そうだ。死神に魂を刈って 消滅させられたら

契約が取れなくなるじゃないか」


そうだよな。悪魔だし、こいつら。


「じゃあ、ピストル受け取った死神は?」


「いつも勝手に来ていた。俺の書斎に」


じゃあ、やっぱり来るの待つしかないのかな?

天使に攻撃を受ける時、死神は泰河の背に降りる。

でも、サンダルフォンが降りた時は

消えたんだよな。海でボティスが取られた時。

泰河には “御使みつかいが来る” って言ったらしいけど。


死神は、天の命によって

消滅させるべき魂を刈るらしい。

普通なら人間の。


泰河に降りるヤツは、天使か悪魔を刈る。

でも、サンダルフォンクラスのヤツには

敵わないってことなのか

サンダルフォンに 自分の存在がバレたくない

... のか?


わかんねーよなぁ。クロワッサンうまいぜー。


テーブルの皿が空くと、ワインも飲んでるけど

シェムハザがコーヒー頼んでくれた。

「昨日 焼いた」っていう クッキーつき。

チョコは まだかかってないけど、素朴な味でうまい。


「クッキーは好きだ。ココア生地のも うまい」


アコって、結構 子供だよな。

いや女系は別だけどさぁ。

ボティスが傍に置くのは なんかわかる。


「あっ、お前等、ボティスにピアスは買うなよ。

それは俺の仕事なんだ」


やっぱり、アコも彼女か。


「... っ!」


えっ? ジェイドだ。

そういう声、めずらしいな。


左肩 押さえてる って 見た時

オレのジーパンのポケットの中で

なんかが すっげー熱くなった。


ロザリオの十字架クロスだ。


ジェイドの肩のクロスは

火傷みたいに赤くなってる。


「合図だ... 」

「ボティスが 帰ってくる!」


教会に行こうと 立ち上がったオレらを

シェムハザが「待て」と、止める。


「なんだよ、シェムハザ... 」


テーブルに出した十字架が跳び

朋樹の腕時計に当たった。


「あっ... 」


朋樹は、腕時計の文字盤を見ていて

「戻って止まった」って言いながら

オレらに腕時計を見せた。


時計の時間は 8時。

今はもう、22時越えてるのに。


「“朝8時に開け”、ということだ。

榊を迎えに行け」とシェムハザが言い

ハティとマルコの名前を呼んだ。


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