紅色 ~傷~ 37
放課後。
夕方の時間帯。会社帰りのサラリーマン、コンビニ前でゲラゲラと大声でダベっている不良、ライブ帰りの売れてなさそうなミュージシャン、キョロキョロと辺りを見渡している和服ロリ、何か悩んでいそうな女子高生、ビルの屋上からニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている爽やかそうな雰囲気の道具箱を持っている青年、黒いフードを被り佇む女性、特売特売と呻きながら走り去った少年、街の住人に聞き込みをしている警官、そして──この超絶可愛い関西系JKこと時坂京。
今日もこの街はどこか可笑しいな、と思わせる独特の雰囲気を出しながらも皆それぞれ自由に過ごしていた。時坂京も同様に。
放課後そのまま繁華街に来たのでもちろん服装は制服のまま。赤色のチェック柄の短いスカートがゆらゆらと揺れる。
黒髪ボブで
変化していくこの街での日常を風景をカメラ替わりにその瞳でシャッターを押すように記録していく。
「おっ、京ちゃんじゃねェーか」
店の前でチラシ配りをしていた屈強な身体をしているガチムチ系の黒人男性に声をかけられた。
声をかけてきた男性は私のよく知る人物の、
「オッス。久しぶりやなマイケル」
手を挙げて挨拶する。
「オッス!オレも久しぶりだぜ京ちゃん」
マイケルも手を挙げて挨拶を返す。
マイケルと呼ばれる黒人男性は白い歯を光らせ、「中々店に来なくて残念がってたぞ。うちの店長が」
「それはそれは、お申し訳ないことしたな」
落ち着いた口調で言う。
この黒人男性──マイケルが働いている『ナックル』という名のハンバーガーショップの店長とは顔見知りで、前まではちょくちょくミコトと一緒に来ていた。
それもここ最近は立ち寄ることもなくなり、来たとしても店内ではなく、テイクアウトの場合が多い。
……ここの店長、私を視界に捉えるなり瞬間移動したみたいに
店長自身はとても良い人で、マイケルと同じくお節介焼きの信用に足る人物なのだが。やはりと言うべきか、この街に長く住んでいる人間はどこかその人独特の何かを持っているので、それは店長もマイケルも変わらない。
……こんな気さくで物腰が
黒人でガチムチだから、ホモ、ゲイと思うのは偏見だと訴えてやりたけど、マイケルは″ホモ″で″ゲイ″である事実は変わらない。
「今なら安いよ。ナックル限定ナックルバーガーがなんとたったの150円!どうだい京ちゃん、買っていくかい?」
声を張り上げ、顔を近付けてきた。
「……因みに、今日のナックルバーガーの中身は?」
恐る恐るマイケルに訊く。
返答次第ではこの場から退散しなくてはいけなくなる。
「確か……パテは今日採れたてで新鮮なカエルの肉。コオロギのバーベキュー和えに特製オレンジソースをかけてトッピングに輪切りのパイナップルにモッツァレラチーズ。最後にこの店自慢のマッスルな男たちによるナックルでの圧縮。ってな感じだが──」
「今日はやめとくわ!」
私は説明が終わって勧められる前にその場からソサクサと逃げる。
「あ、お〜い京ちゃん!」と叫んでるけど無視や無視。アレは悪魔の囁き声。振り向いた瞬間にあの世逝きや。
浮かぶのはマイケルの材料説明。
なんやあのごっっつおかしいとんでもハンバーガーは!?
なんでカエルの肉を使うん?そのまま普通の牛肉使ったらええやん!手間暇かけて肉ににせんでもええやん!コオロギのバーベキュー和えってコオロギさんが
昔、店長とマイケルに勧められて食べたナックルバーガーのことを思い返すと吐き気が催す。
あの時はヤバかった。
口に入れた瞬間に私の視界がシャットアウトしよって、目の前にはご丁寧にも川を渡るためのボートが置いてあった。
どうやったら、あんなビックリ
口の中で未知の物質が化学反応してたで。
店長には悪いけど今日のところは店に近付くのはやめておこう。
やっぱり命は大事や。
ナックルを後にした私は再び一人繁華街を彷徨く。元々何か用事があったわけでなく、寮に帰っても煩い寮監にべらべらと長い説教を喰らうのも嫌で、ミコトは用事があるって先に帰ってしまって暇になったのでこうして時間を潰していた。
……それにしても
ついため息が出る。
「(私は夜空君のことをよくは知れへん。きっと私よりも詳しく知ってる人もぎょうさんおるやろうし、『私の方がよく知ってる!』と張り合う気もないけど、夜空君という人間の側面が一つわかったような気がする)」
夜空君自身は気付いてへんかもしれへんけど、彼は矛盾を孕んでいる。
ミコトもミコトで他とは違う所はあるけど、ミコトはそのことをよく理解しているように見えた。
高校生になって初めてできた男子での友達。
これまで男子とは深く付き合っきあって来なかった経験がここで重荷となるとは、時坂京も神無月に妖精さんと呼ばれるがやはり一女子高生なのだ。
男子生徒との付き合い方。
いつもはノリとボケで半ば勢いだけで話せていて距離感というか話すリズムというか、波長を合わせるのが難しい。
「(そこら辺どっかに男子生徒の
そんな物がコンビニで売っていたらこんなに苦労することはないんやけどな……。
人の心は千差万別。
私が思っている夜空君だけが全てではない。
他人である私がとやかくおかんみたいにちまちまと説教かますのは何か違う気がする。
もっと相応しい人がいるはず……、と他力本願な考えに至るあたり、私は少なくとも夜空君とはまだ友達関係やないな。
神無月より自分自身にため息が出る。
「だからぁぁあ、何時間も待ったオレにこそ謝罪すべきだろ!あ゛あ゛あ゛!」
俯いていた顔を上げ、声を荒らげていた方へ顔を向けるとそこには黒髪天パの夜空君と被っている髪型の執事服の男──
「そもそもテメェが待ち合わせた時間に来なかったからオレがこんなにもムカついてんだろ?」
「何をほざくかと思えば。お主は何も何もかもわかっておらんようじゃの」
悪島の正面に優雅に日傘を差している小学生並みの身長のロリがいた。
「妾は王であり女王であり神であり神をも超えるキングオブゴッドゥ!である」
……このロリは人通りの多いこんな大所帯で何を叫んでんねや。
周りの人達も若干引いてるし。
気のせいではなく、やはりこの頭が痛くなる声は、
「しかし、その真の姿は幾千の夜を超え、喜劇と悲劇に苛まれ、それでも尚数々の伝説を築いてきた光と闇の境界線を統べる絶対的存在──″ディストピア=グルグウィンダー=デストラプティブ=ベンデッタ″!!」
と、恥ずかしげもなく自信に満ちた表情で豪語している。
漆黒の髪を掻き上げ、その場でワンターンくるりと回る。足をクロスさせポーズをとっている。洗練させたその動きには乱れはなく、一種のパフォーマンスにも見えた。
どうしてあのロリがここにいるのだろうか?
時坂京は知っていた視線の先で悪島と口喧嘩している年甲斐もなく厨二病を爆発させているロリを私は知っている。
……あんな厨二病ロリは一人しかいない。
「何言ってんだお前。自分の歳を考えろよ。そんなふりっふりの洋服着やがって、小学生気分かよ……ったく」
悪島は肩を竦める。
その表情は目の前のロリに呆れているんだと見て取れる。
厨二病ロリは不満げな顔をし、
「小学生じゃないわ!妾は今でもこれからもぷりっぷりの永遠の18歳だよ♡そこんところ十二分に理解しておくように。面接で問われるぞ」
「面接なんていうリアルな話はオレの目の前では遠慮してくれよ。わかってんだろ。……わかっててか。そりゃそうか。コレだもんな」
悪島は厨二病ロリを指差す。
「仕方ないか……」と執事服の男の諦めの言葉が聴こえた。……大変やな。悪島に同情の念を送った。
「コレとは何じゃコレとは。あ、ソレとかアレとかこのちっちゃいのとかならアリとかそんな屁理屈はなしじゃよ。妾のことはディストピアー様か主様かマスター、趣向を変えてお姉様でもありじゃな!」
ないわ!
私は呼んでもらってもええけどな!
「呼ぶわけねぇーだろ。そもそも本名でもねぇ名前を呼ぶのは産んでくれ親に申し訳ねぇだろ。あ゛あ〜ん」
「名前などタダの記号よ。大事なのは産まれた育だった者がどれだけカッコよく華麗に鮮烈に人々の記憶に残れる人間になれるかが大事なんじゃよ」
傘を畳み地面に叩きつけた。
傘の取っ手を腕にかけ、腕を組む。言ってやったといわんばかりのドヤ顔だった。白と黒模様のふりっふりの服が厨二病ロリの依然とした態度を強調している。
……相変わらずムカつく顔やな。
「このちっこいのは、また意味がわかんねぇ戯言を言ってやんがだ」
「あ、ちっこいのって言った!ちっこいのって言ったぞ!妾言ったよなちっこいのもなしって!」
「ふん、知るかよ。ガキの戯言なんかに興味はねぇーよ。現実味がねぇーよ。もっとマシなことを言えよ」
「言うようになったお主。昔は妾の言うことならなんでも聞く忠実な犬だったのにな。ほっほっほ、ペットの成長は飼い主としては嬉しいような
厨二病ロリはニヤニヤと薄笑う。
「……うるせェガキだな。音量下げろ。それとオレが忠犬とか嘘っぱちなデマを言いふらすなよ」
悪島は耳に手を当て声を遮断した。
「ふわぁ〜〜〜」と大きな欠伸をした。厨二病ロリは怪訝な目線を送った。
「なんじゃ大きな欠伸をして。若干じゃが隈ができてるぞお主。残業でもしとったか?しかし、お前の仕事には残業などは極力なしにしてるじゃろ?」
「お陰様でな。それには感謝してるがよ、そもそもこの仕事──アルバイトには残業なんてないだろ。残業という名のお前の『おもり』はあるがな」
お前のおもりかいな!
目元の隈もこのロリのせいやからかな?
「なんじゃと!?なんのことじゃ!?」
「昨日ダダこねて何時までゲームしてんたんだよ。誰とかな?ええ?」
「………………てへぺろこつーん☆」
キモいわ!実年齢知ってるうちとしたら、将来あんなロリババアにはなりたくないわ。マジでないわ〜やな。
「む、どこからともなく妾のことをロリババアとマジでないわ〜やなとか言ってる黒髪ボブの関西弁キャラのアホな声が聞こえるわ」
「私の心の声そんままやないか!?」
「お」
「……げ」
しまった。ついツッコンでもうた。
「やっぱり貴様かこのこけし野郎!」
「それはこっちのセリフや。その年になって厨二病なんて恥ずかしくないんか!このロリババア!」
その後も厨二病ロリと時坂は互いを罵倒し合い、つねったりひっぱたいたり、時には噛みついたりと散々だった。
「はぁー。まためんどいのが増えやがった。何なんだよこの増殖は。ちっこいのだけでもめんどくさいのにまた一人出やがった。ここは草原フィールドか?あ゛〜ん。スカポンたんの野生人間はゲットしても大して嬉しくねぇ。てか、邪魔なのによ〜」
悪島は我慢できずに胸ポケットから一本のタバコを取り出し、風に揺られないよう手をあて、ライターで火をつける。
「……ふぅ〜」
一服。
その一服がとてもうまく感じたのはたびかさなるストレスによるものだと感じた。
タバコを口にくわえ、天パの黒髪を掻き毟った。手には数本の髪が絡まっていた。
「やべ〜。オレ、禿げねぇよな?まだ25だぞまったくこの野郎……」と自分の頭皮の未来に危機感を抱いた。
二人の少女は喧嘩し合い、大の大人は自分の頭皮の心配している。とてもカオスだった。
とある屋上からこちらを覗き込んでいた男もこれには腹を抱えて笑った。
しかし、周囲の人々の認識は違った。
喧嘩し合っているのでも、大の大人が頭皮の心配をしているのでもなく、その背後、地面に突き刺さった逆さまの電柱、半壊した車、不自然にコンクリートに垂直に埋まったマンホールなど。
目を疑いたくなる光景があった。
周囲の人々はそちらの方に目がいき、大騒ぎしている彼らに目を向ける者は次第にいなくなった。
「……そんでよ、ちっこいの」
「ちっふぉいのいふなぁ!」
時坂と頬をつねり合いながら悪島の方に顔を向ける。頬は少し赤みを帯びていた。
「オレをこんだけ待たせて、本題に中々入らないし、もう帰ってやりたいが、これも仕事だからよ。要件は何だ?」
疑心暗鬼になっていた悪島は現実に戻り、この場に呼んだ厨二病ロリに訊いた。
「この離さんか!」厨二病ロリは私を無理矢理解き、
「言われずとも要件は話すわ。……妾とお主もまるっきり関係がないとは言えんからの」
「あ?」
それはどういうことだ?オレにも関係があるだと?暫し自分の記憶を振り返るが特に思いはある節はない。
「
「な!?」
驚きのあまり、足場が突然消滅したような全身を浮遊感が覆う。一体どういうことだ?
「草薙さんって?」
「……オレの同僚だ」
「妾の執事でもあるがの」
「その草薙さんが捕まったって……警察にってことやんな?ケイドロとかヤンデレとかやなくて」
「当然じゃろ。逆に妾がそのようなくだらぬ要件でこやつをわざわざ呼ばんわ。妾の誕生日会には招待するがの☆」
「どうでもいいからささっと続きを話せ!」
いつものやりとりを厨二病ロリとやっている暇は悪島にはなかった。友人とはいかないが今の仕事の簡単な手ほどきを受け、悩んでいたときに偶に愚痴を聴いてくれる良き同僚がどういった訳か警察に捕まったと聞けばじっとはしていられない。
「まあまあ落ち着けよ。ちゃんと教えてやるから。それとこのこけしが話に入ってこれなくて戸惑ってわ。自己紹介ぐらいしたらどうじゃ?名を知らなければうまく会話することもできんじゃろ」
「……それもそうだな。悪い、熱くなった」
悪島は頭を下げ、関係のない時坂に謝った。
「別にええよ。身内が大変なことに巻き込まれているやからな、しゃあないしゃあない」
知人が警察なんて通常ではありえない機関にいるのだから、心配するなと言う方が無理な話だ。
「それで執事服のあんたは誰なん?」
「オレの名前は悪島純一だ。アルバイトで
ば、バトラー?
この街にはそんなもんまでおんのか。
帰ったらミコトに話したろ。夜空君にも仲直り?の話題に土産話でしたろ。きっと驚くやろな。ツッコンでくる夜空君の姿が目に浮かぶようだ。
「バトラーって執事でありながら、バトルもできる格闘系執事の」
「格闘系でもないがな。オレがただ勝手にやってるだけだからな。褒められもんじゃねぇーよ」
「……バトルはすんねや」
執事という概念をバトル方向へと持っていくこのロリっ子も大概やけど、それに馴染んでいる風なバトラーも適応力高いな。
「ほら、ちっこいのあんたも自己紹介せんかい」
「妾の名はさっき言ったであろう」
あの、ディストピアなんかたらこうたらが名前っやっちゅうのか?やばいわそれは。色々な意味でやばいわ。
厨二病ここに極まれり〜!やな。
「絶対嘘やろ。そんなかっちょいい名前があんたなんかの名前とかありえへん。偽名を語るならもう少し短めのかっちょいい名前にしとくんやな」
「妾の名前はディストピア=グルグウィンダー=デストラプティブ=ベンデッタじゃ!何度言わせれば理解するんじゃ!」
長々しい痛々しい名前(笑)を言ってくれたのはええんやけど、そもそもな、
「前うちに名乗った名前とちゃうで」
「…………」
「ディストピアなんかたらこうたらっていう仰々しい名前やなくてもっと短かったで。それに片仮名やなくて漢字四文字での名前やったし」
「…………」
「最初出逢った時も確か、別の名前やったと思うし。名前をコロコロ変えるからこういった矛盾ができるんやで?」
「…………」
「厨二病はええけど、一貫性をもたせな長続きせえへんで。どうせその時観たアニメやらライトノベルやらに感化されてやろうけど」
「………」
「一々考えんのでめんどくないん?」
「…………て」
「ま、あんたが本名言わへんなら、これからも厨二病ロリやら年増ロリやら永遠の美少女(中身はロリババアで実際にお肌のケアが大変です♡)みたいに素晴らしい名前で呼んだるわ」
「て」
「ん?」
「てへぺろこつーん☆妾名前はアンドロメダ星雲から来た超越美少女ロリのミカエルだったちゃ☆よ・ろ・し・く・ね♪」
沈黙。
沈黙がその場を覆った。絶対零度の超極寒に人は息をしてはいられない。
「────ふん!」
「あたたただ!や、やめろ!無言で四の地固めなをするな!!い゛、い゛た゛い!!関節が関節がミシミシと悲鳴を上げておる!最近やっとカルシウム不足を改善した
路上で四の地固めをガッシリときまり、足をじたばたを泳がせる。傍にいる悪島も自業自得だろと厨二病ロリを助けるつもりはないようだった。
仕える執事にも見放させる自称美少女。
限りなく、到底悪島より年上とは思えないほどの子供っぽいさ。哀れであった。
「な、なんじゃと!?純一純一?汝は妾の執事じゃろ?」
「その前に一個人としてのオレの意見だ」
「……酷い。酷いぞこの執事!プリティーな妾をこんなお人形さんのように可愛い妾を見捨てやがったな!それでも妾の執事か!白状もんが〜!!」
「さっさと名乗らんかい」
「あ〜、ならオレが代わりに言うよ」
このままでは拉致があかないと思った悪島は厨二病ロリの本名を名乗ろうとした。
「や、やめんかバカモンが〜〜〜!!妾の真名はディストピア──」
「このちっこい奴の名前は
さ、埼玉?
あんだけご大層な名前を名乗っておいて……まさかのめっちゃありふれた名前やった。
「本名──
「埼玉財団って、あの?」
「ああ。あらゆる部門に手を出し、そのほとんどが人気商品になっている。まぁ、何でも屋って所だな。この前は何だっけ……あぁ確か、アメリカンホットドッグにケチャップ&マスタードをより簡単にかけることができる商品に挑戦だっけ?」
何やあらゆる部門って言ってるけど、変な方向にも手を出してへんかこのロリの会社は。
「って、名前が真名が″埼玉″。ぷっ」
「あ゛!笑いおったな!妾のこと笑いおったなこのこけし!」
「いや別に。まったくそんなことはあらへんよ。うん。痛々しいド腐れ厨二病ロリの名前が埼玉なんて、男勝りというか、なんとうかこう…………しょぼい名前で。ぷぷっ」
「やっぱり笑っておるでないか!う、うううう。だ、だから明かしたくなったのじゃ!」
周囲にはネガティブオーラが蔓延していた。
「そんな気にすることはねぇだろ。『埼玉』なんて苗字ざらにある。恥じることは何もねぇ」
「ざらだからいやなんじゃ!特別!特殊!そんな名前がいい!埼玉なんぞ名乗ったみよ。妾のこのロリ姿がこの声がこの溢れんばかりの絶対なオーラとベストマッチしてんじゃろ」
……ロリ体型なのは気付いてたんか。
「だからって、親から代々続く苗字を変えるってのはあまりよろしくないけどな。オレの苗字は『
「イヤイヤイヤイヤ。かっちょいいだろ『悪島』。悪っぽくて、キザな雰囲気が出て妾はいいと思うけどな。それに汝のその風貌とベストマッチ。申し分ない」
「私の『
「「いや、別に。面倒くさそう」」
ムカムカ。お前達後で面貸しや。めちゃくちゃしばいたるさかい。トンカチでそのド頭ぶっ潰してやるわ。
「とまぁ、こういうこった。ええと……時坂だっけ?」
そこで私はまだこのバトラーさんに名乗っていないことに気付いた。
「そういえば、妾もこけしの本名知らんの」
こけしって……まだその名前続いてたんや。
まぁ、本名名乗った所で別に私にデメリットは特に何もないけどな。あるとしたら、厨二病ロリ──埼玉霧依にまた名前でおちょくってくるかもしれないことだけやけど、その時はその時で私も反撃、めったうちにしたらええだけやからええか。
「私の名前は、この物語のメインヒロインの究極完全体美少女ちゃんの時坂京。よろしクリスマス〜!」
シャッキーン!
きまった、な。
私は完璧な自己紹介。完璧なダメ押し。これで私の存在が忘れられるという出会い頭こイベントは回避できたやろう。
チラッ。
「…………やっぱりそうなのか…………」
「え?」
やっぱりって何や?
私の想定してた空気とちゃう。
「やっぱり……そうだったのか」
「あ、あの、悪島……さん?」
ついバトラーから、悪島さんと敬語になってしまった。
「あ〜あ。スイッチ入ってしもうたか」
スイッチって何や!?
私気付かんうちに悪島さんの地雷踏み抜いてもうたか。だとしたらちょっとマズイかも。
「あ〜ああ。感ずいてはいたさ。ちっこい……霧依様とのくっだらねぇ喧嘩見てたらさ、そりゃあ〜まさかなとは思うさ」
悪島さん、今、ちっこいのから霧依様って言い変えたな。どんだけ言わせてんねん。
隣の霧依にじと〜とした視線を送る。
「な、なんじゃ」
「い〜んや、何もない」
「怖っ!?妾怖いんですけど!」
「私はあんたことがよりキモくなったわ」
〜ですけど、なんて今だに使ってる人現実で初めてやわ見たわ。
悪島さんに視界を戻すと、
「そうだよなそうだよな。ぶつぶつ……etc」
何か暗黒オーラ放っとた。
思ったよりこの人闇が深い!
「どうしてどうしてオレの周りの奴らはこう一癖二癖もある変人集団が集まるんだよ。日頃あの糞ガキとロリ……霧依様にちょっかい出されて、ストレスが溜まるのによ……」
あ、ああ〜わかった。この人苦労人や。それも類が類を呼ぶ者達が続々集まって連鎖が止まらんタイプの……。
「ええんか埼玉。アレ止めんで」
「埼玉言うな!いや〜ムズイの。ああなったら中々止まんくての。妾の声もそこいら蝉の鳴き声みたいにシャットアウトされるじゃ」
「つまり埼玉の声は蝉並のウザさと。鬱陶しくてたまらん雑音やとノイズやと」
「埼玉言うな!そこまで言っとらんわ!」
「尻を付け出されて目の前で屁をされる音と同じくらいやと」
「例えが最低すぎる!お前それでも女子か!」
「ええ〜。立派なjkやけど。それが何か?」
「自分でjkとか言っちゃうタイプきちゃった〜〜!!どうせ来年にはこちら側に来ることになるからの、精々今の内にjkでもビッチでもスケパンでも名乗っておくがイイわ」
オッホホホホホ。
高笑いする霧依。
このロリ、キャラぶれへんな〜。そこに感心するが、真似ようとかこらから役立てようとは微塵も思へんが。
「でもさ、このままやとさっきまでの草薙捕縛事件についてのストーリーが進まへんけど」
「oh……そうだったそうだった。妾、忘れっぽくての、ごめんね♡」
「よし。続きいこうか」
「妾を無視するな〜〜〜!!」
だって、一々ツッコンでたらキリがあれへんもん。ここは無視の一択。ツッコムなよプリティーな私。
「あ、バトラーもそろそろ現在に戻ってきなって」
「バトラーでいくんだ。妾ビックリで御座る」
ツッコまないよ。
「たくたくたくたくたくたくたくたくたくたくたくホントによ。これだからガキはロリババアは厨二病は関西弁キャラは……。どうせこれからも出てくんだろ色々と濃い奴が。多分、相手すんのオレ……なのかな……」
oh……これまた更に闇が濃くなっとる。
こういった時は、時坂家直伝の、
「冥府送りof the end『バイバイ僕の初恋』チョップ!」
「ぐふっ!?!?」
両手をクロスされた構えから殺気じみたものをおびながらも猛烈な勢いで意識を刈り取ろうと放たれた『冥府送りof the end「バイバイ僕の初恋」チョップ』は悪島の無防備な首筋にクリティカルヒットした。
「────はっ!?オレは何を。確か真っ黒な埼玉が作ったダークマターのみたいな得体の知れない、モザイクがかかったテレビ放送なら間違いなく規制が入るような、この世の淀みが圧縮に加えて凝縮さたような料理Xに似た底が見えない暗黒にいたはずじゃ……?」
やべぇーわ。
この人もう精神が真っ黒を通り越して真っ黒焦げの炭状態やわ。誰が彼に救いを……ほろり。
「前振りが長いわ、このド阿呆が!!!」
ふらふらの状態の悪島さんに霧依がドロップキックを喰らわす。
「──痛っ!?こんの、埼玉何しやがんだ!」
「蹴りたくもなるわ!草薙が捕まったからのここまでの流れが異様に長々しいわ!その間に妾がどんれだけ罵倒に加え暴力を受けていたと思う。め〜〜〜〜〜〜っちゃ、痛かったんだからな!!肉体的にも精神的にも!それに加え純一ときたら妾の真名をバラすわ、このこけしに妾が四の地固めをされている時も放置するわ、勝手にネガティブスイッチ押すわの長いんじゃよ!妾、さっさと言ってしまいたいのに。さっきから言葉が、喉元まで来てるのに。我慢する妾の気持ちを考えよ」
「草薙さんが捕まったってどういうことなんだよ!」
「無視!妾の長いセリフを無視ですか!」
「自己紹介もしたんだ早く話してくれ!」
霧依の肩をガシッと掴みゆさゆさと揺らす。
自分勝手だなお主、とぐぬぬと霧依は唸っているが、私から見れば仲むずましく想えるのは何故なのか。
「──ふん!わかったわ。話してやるかか肩から手を離せ純一。話すからさっきみたいなネガティブスイッチ入るなよ」
「ネガティブスイッチ?何だよそれ?新しいゲーム機か?ここ最近出たばっかだろ」
「そっちのスイッチじゃないわ!もう知らんからの!無視する。純一ことは無視する!話しが進まんからな」
……まあ、仕方ないか。
私もここのまま何も聞けずに帰ったらモヤモヤして寝付けなくなってしまうからな。
「ゴホンゴホン!さて、話題戻しじゃが、最初に言っとくとな、草薙は″連続傷害事件″の容疑者として捕まっておる」
「何!?」
「……」
霧依は腕を組み、う〜むと唸る。
「妾も
「それで俺を呼んだのか」
「うむ。草薙は純一のことを高く評価しておったし、個人的にも話しておいてやろうというご主人様からの慈悲でもあるぞ?」
「ふん。……まぁ、ありがとよ……」
悪島さん照れとるな。
「ホホホ。なんのものよ。純一はもし妾がこのことを伝えずにこの件を解決しておれば、怒ったじゃろ?」
「……時と場合、気分にもよるが……そうだな」
悪島は一呼吸置き、
「俺は嘘は嫌いだ。もちろん、良い意味での嘘はイイ。俺が嘘より嫌いなものは″伝えないこと″だからな」
どういうことやろ?
悪島さんの言葉には現実味というか、説得力あるように聞こえるけど、私にはその真意はわからなかった。
「知っておるわ。何度バカにされようと妾はお主達、──
埼玉は悪島のその言葉を受け、そう返す。
埼玉には伝っておるようやな……。
喧嘩しても主人と
私にはその関係が羨ましく想えた。
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