迷い勇者は帰りたい
夕闇 夜桜
飛ばされて異世界
「どこやねん、ここ……」
召喚されたかと思ったら、勇者だ何だと説明されて、特訓して、仲間を得て、旅に出て。
ようやく魔王を倒したと思えば、ラスボス登場で、ほとんど瀕死だったのに治癒魔法で起き上がった魔王と共闘して、ようやく故郷に帰れるかと思ったのに――……
「何で、戦場のど真ん中? つか、絶対に別の世界だよね?」
どうやら、別の異世界に来てしまったらしい。嬉しくない。
だって、話してるの、英語とかじゃないし、一部何を言ってるか分からないし。
剣は持っていない。銃刀法違反で捕まりたくないから、置いて来ちゃったし(つか、別の異世界に行くとか、予想できるわけもない)。
魔法は使えない。禁忌の扱いに近かったら、すでにアウトだ(逆に科学関係も然り)。
「あ、詰んだわ。これ」
完全に手詰まりです。
もし、使えるというか、今この場で役立つとなると、今までの経験により得た危機察知能力と戦場のあちこちに散らばる武器ぐらい。
「っと!」
ずっと動かなかったから、良い標的にされたらしい。
どちらが敵味方で、どちらに付いた方が良いのかも分からない。
けれど、じっとしているよりは、動いていた方が良いのかもしれない。
「っ、アイ君、リーン。本当に誰か居ない……っ」
防壁を纏い、居もしない仲間を呼びながら、血糊の付いた剣を護身用に持っていたら、いつの間にか居たのだろう。背後から剣を突きつけられていた。
わぁ、大ピーンチ。つか、何故働かなかった。危機察知能力。
『防具も付けずに我らに勝てると思われているとは、
うん、何言ってるか分からない。多分、鎧とか防具関係のことだろうけど。
しかも、何か強そうだし、地位を金で買ったようなタイプじゃなくて、実力で得たみたいなタイプの人っぽい。
『何か言ったらどうだ?』
もうやだ。この状況。ニュアンスで判断するに、何か喋れって言ってるし。
そぉっと背後を窺えば、それに気づいたらしい剣の主が睨みつけてくる。
「あの……ッツ!?」
どうやら空気を呼んでくれない連中は、どこにでも居るらしい(いや、戦場に何求めてるんだっていう話だが)。
「全く――厄介なぁっ!!」
振り返ってはいないものの、目は向いていたからか、剣の
剣の主に突きつけられていた剣から上手く移動して、武器を振り上げていた奴らを薙ぎ払う。
「……面倒だなぁ。この状況」
『……』
頼るとしたら、こちらをじっと見てくる剣の主ぐらいだけど、何言ってるか分からないし。
――今は、見てるだけ、だよね? もしかしたら、逃げれるんじゃね?
そのためにも、まずは目線を逸らす必要があるけど。
試しにこのまま一歩、後ろに下がってみれば、相手も一歩前に出る。
「……」
うん、このままじゃ逃げられないみたいだけど、身軽さから行けば、不可能だとは思えないし――
「何より、この場から早く脱出しないと」
襲いかかってきた奴らを捌きながら、脱出方法を考える。
「このままだと、キリがない」
そもそも、魔法が使えないのが痛い。
――って、あれ?
さっきも使えるつもりで居たけど、使えないor魔力や魔法が存在しない可能性もあるのでは……?
せめて、誰かが魔法を使ってるのが見られれば良いんだけど、都合よく魔法を使ってくれる人なんて居ないだろう。
「マジで、どうすんのよ。この状況……」
本当に何で、こんな所に放り出された訳? 悪いこと、何もやってないよね?
そんな時、背後からカチリ、と音がする。
……あ、何かデジャヴ。
「……」
そっと目を背後に向ける。
突きつけられたのが剣かと思ったら、銃でした。
「って、銃!?」
魔法は分からないが、異世界だから、剣は分かるけど――
「えっ!? それって、科学系? 魔法系? つか、実弾・魔導弾どっち!? そもそも、それって魔導銃!?」
何だろう。仮にも敵から向けられているっていうのに、『銃』が在ると分かっただけで、テンションが上がるんですけど。
『……おい、シルヴィ』
『こっちでは、どうにも出来んぞ』
本当、何言ってるか分からないけど、それよりも、銃である。
銃があるってことは、仕組み次第では、科学系は存在しているって事だし、魔導銃系なら技術レベルは不明だが、魔法も存在しているって事だ。
しかも、今居るのは戦場だから、おそらく本物。形状から見て、銃剣でもない。
「弓もあるのかなぁ」
槍は使っている人が居たのを見たけど、弓は見ていない。
だって、矢はあったけど、クロスボウで放ったのかもしれないし。
でも、銃がある。
接近戦になったらアウトだけど、遠距離攻撃に関しては、魔法以外で銃系に勝るものは無い(はずだ)。
……まあ、勇者していた時は『剣』だったけど。
『……こいつ、連れて行くか? お前の銃で釣れば、一緒に来るだろ』
『それ、マジで言ってる?』
何やら話し合う二人。
ただ、ニュアンス的に、凄く
『密偵の可能性は?』
『そもそも、俺たちが何を言っているのか分からないみたいだが、そこはニュアンスで判断してるみたいだし』
『それが、演技の可能性は?』
『さあな。その可能性も有るが、お前はそいつの正面から見ただろ。その判断はお前に任せる』
主な話は終わったのか、こっちに目を向けられる。
『君さ、俺たちと一緒に来る? そうすれば、
やっぱり、嘗められている気がする。
『あ、駄目だわ。シルヴィ』
銃の主が剣の主を見る。
『仕方ない、か』
剣の主が、小さく息を吐く。
何やら不穏な空気がする。いや、戦場だから、不穏も何も無いんだけど。
「っ、この気……魔法!?」
剣の主から感じるのとは別の気――魔力。
魔法が存在していたことには喜びたいが、ヤバい魔法によって、こんな所で死ぬつもりもない。
「……っ、『この世界に存在する魔力たちよ。一度で良いから、我が願いを聞き届けよ――異界の勇者、
発動したのは、風と水の魔法。
ちゃんと発動したのは分かったけど、それじゃ駄目だ。威力が足りない。
『あ、おい!』
『ちょっ――』
「……」
焦ったような二人の顔を最後に、意識が途切れた。
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