46話 真実

 ・・・・・・この世界も、もうひとつの世界も、彼女が望んだものだ。


 山道を駆け抜けながら、帝は先程のリリムの言葉を脳内でリピートする。

 バイクはこの山の傾斜を超えるには向かない、よって自分の足で向かうしかない。自身の足で決戦の地にたどり着くのだ。


 ・・・・・・キミの来た世界は、キミたちのことを思って自分が死んでキミたちが悲しまないようにパンドラという存在ごと世界を造り替えた。回帰の力は自身を変えるためには使うことができないから。


 ・・・・・・この世界は、そんな彼女の内に秘めた感情の発露。キミたちと共に生きたかった彼女の生んだ理想の世界。しかしながら、この世界は再びパンドラという存在をも生み出した。始まりこそ彼女の理想だが、その終わりはもっと最悪になるかもしれない。


 ・・・・・・そのために、リリムはキミをこの世界に招いた。彼女の理想を打ち砕くために。一緒に他の子達も巻き込んでしまったのは予定外だったけどね。おかしいとは思わなかったかい? 元の世界であれほど関わった人たちがまるで自分のことを知らなかったんだから。それが彼女の理想、キミを独占したいという気持ちがそれを生んだんだ。でも、キミはもうひとつの世界のキミへとすげ替えられた。理想で造り上げられた世界はその変化に耐えきらなかった。彼女自身もだ。


 ・・・・・・そしてそれこそがキミの記憶を取り戻すための最終条件だった。この彼女にとってのあるべき世界が否定され、元の世界でのあるべきであったキミの記憶の封印を解くことが出来た。


『元の世界での回帰属性と、この世界での回帰属性は全くの同質・・・・・・となると、センセイのあの回帰属性はどうなるんだ? 俺の記憶でのセンセイは修復、回帰ではない。それともそれを吹雪が望んだってのか? それだけじゃない、この世界が否定されたら、ここはどうなる。あいつが造った世界を否定することは、何を意味している?』


 ・・・・・・そうだね、その前に回帰属性について少し説明しておくとね、回帰属性には大きく分けて二つあるんだ。ひとつは単なる属性。もうひとつは、血によって受け継がれる概念として。そしてその血を継ぐのが刀薙切家なんだ。吹雪ちゃんが存在しなくなる、それによって必然的に継承権はセンセイさんに受け継がれた。あとはキミたちとの接触で微量ずつ霊力を得て、目覚めるのを待つだけ。


 ・・・・・・ああ、そう。この世界がどうなるか、だよね。キミなら大方察しているんだろう? 消えちゃうよ。跡形も無くね。元より二つの世界は互いに支え合って保たれている。この世界はもうひとつの世界に飲み込まれるんだ。


 ・・・・・・二つの世界が入り混じっても元の世界にあったものはそのまま維持される。キミたちの場合は少し例外的な上書きだったけど、今回ばかりはそうもいかない。キミが今抱きしめているセンセイやこの世界で助けた綾乃ちゃんたちだって消えちゃう。更に吹雪ちゃんという存在が放り込まれることで過去が修正されてセンセイちゃんの回帰の力は失われる。そうでなくても、パンドラちゃんにセンセイちゃんが敵う訳もないでしょ? 元の世界は吹雪ちゃんからその力を奪ったパンドラによって再び書き換えられる。そうなればもうキミたちに勝ち目はない。


『おい待て、今のを聞く限りじゃ。今のパンドラには世界を変える回帰属性の力が完全でないように聞こえるんだが。世界を否定することはできても、造ることは出来ないのか?』


 ・・・・・・へえ、よく気づいたね。その通りだよ。世界を二分したことで回帰の力もまた二分された。多少の改変は可能でも根本から造り変えるようなことまでは出来ないんだ。


 ・・・・・・今パンドラは霊力の多いあの山の頂上で力を高め二つの世界の境界を破壊しようとしている。だからそれまでにキミは必ずパンドラを倒して。


『言われずとも、ハナからそのつもりだ』


 ・・・・・・知ってるだろうけど、パンドラは強いよ。キミだってその力の全てを出しても倒しきれなかった相手だ。


『だが、勝つ以外に道は無い。・・・・・・俺はどっちの世界のみんなも守りたい。もう二度と、失う経験なんてしたくない』


 ・・・・・・任せたよ。キミに世界の命運も、リリムたちの未来もキミの肩に全部かかっているからね。


『なあ、前から思ってたんだが、お前はなんなんだ。どこから来た?』


 ・・・・・・な、・・・・・・い、・・・・・・しょ! いつか会えるよ。キミが勝てばきっとね。


『はっ、そうかい』


 ☆  ★  ☆


「・・・・・・妹を頼んだぞ、九条」

「そういや、帝君には言い忘れてたんだけど、帝君がパンドラを倒したら吹雪ちゃんは解放されるけどその回帰の力はセンセイちゃん、貴女に受け継がれることになるから、それからどうするか考えといてね」

「そんなこと急に言われても・・・・・・どうするって具体的に何なんだ?」

「そりゃあ帝君を元の世界に帰すかどうかだよ。センセイちゃんだって帝君のこと大切に思ってるんでしょ? センセイちゃんが望むなら帝君を自分のものにすることだってできる。裏を返せば帝君を元の世界に帰せる。彼のヒロインたちの下にね」

「ばっ! 私はそんなこと・・・・・・」

「婚期逃すよ?」

「~~~~~~~~っ!?」 

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