21話 不良版
あー、人違いじゃないかなぁ。
世界も広いことだし、同姓同名な可能性にも言及したい今日のこの頃。
帝は腕に風紀委員会のバンドをつけて、校門へと向かう。委員長代理、そんな役職を唐突に仰せつかって戦う相手はあの伊草だと言う。
その先には校門が見えないくらいの人だかり、誰もがそこから一定の距離を置いて遠巻きに見つめている。その原因は考えるまでもなくすぐに知れた。
校門を塞ぐ不良達。金属バットを始めとする物騒な武器を持ち、バイクに乗ったりして、その服装の荒々しさも相成って、普通の生徒には近づき難いだろう。いや、近づけない。
「退いてくれ」
生徒達の間を通り抜けて、一番前に出る。
あー、いますね。
学ランを着た女子生徒、織白伊草がそれはそれは堂々とした威圧感を、現れた帝に向けてくる。
この感じは前と変わりないが、あの風紀さんと呼ばれていた伊草は跡形もない。センセイもそうだが、この世界に来ると誰も彼もが劇的なイメチェンを遂げてしまうのだろうか。
「誰だお前?」
「1年D組、九条帝。この度風紀委員長の代理として・・・・・・お前らを潰しに来た」
「ああ? 何舐めた口聞いてんだ? この一年坊主が」
聞かれたのでそのまま、自分の情報を明かして帝は不敵に笑った。
主犯格然とした伊草と違い、相当小物臭いリーゼントの男子生徒が帝を睨みつける。
帝は先程急繕いで作ったハリセンをスラリと抜き払った。拳で戦うという選択肢は存在するが、それは倫理的に拙いらしいので、ビジュアル的に安心安全なハリセン推奨。
流石に耐久性方面では心もとないので、霊力を若干込めて強度を高める。もちろん、普通の人間には危険のない程度に加減をしてだが。
顔を思いっきり近づけてくる、所謂メンチを切るというやつだろうか。顔が近い顔が近い、手首のスナップを利かせて真下から顎を打ち据える。
フゲブ!? アホみたいな悲鳴をあげてそいつは意識を失って倒れた。哀れなり。
「てめぇ! やりやがったな!!」
それに反応して他の不良達もまたわらわらと帝へと詰め寄ってくる。思い思いの武器を構えた、数にして凡そ十数人。
「いやぁ、ここまでコテコテの不良だと逆に対処に困るな」
主にどう戦っても、絵面として面白くならないという方面で。せっかく公然と戦うことを許可されたというのに、これでは何のための好機だ。
案の定、気付いた時には不良達は一人残らず地面に倒れ伏していた。
そして最後の一人、腰に刀型の妖精、バリエを携えた伊草は元々そうよくなかった目付きを更に危ういものに変えて、帝のハリセンと手の甲を交互に見た。
手の甲、正しくは契約の紋章だろう。伊草もまた妖精師、常人とは違い霊力によってものを見る霊視という技を使える筈だ。
「なあ織白伊草・・・・・・どうする? ここで殺り合うか? それとも、場所を変えるか? ここじゃあどうせ『本気』も出せないだろ?」
「・・・・・・いいだろう」
物分りがよくて助かった。これでこんな人前で妖精の力を行使してくるような過激思考の持ち主になってしまっていたら、いかに帝であっても止められないことは目に見えていた。
中々リスキーな賭けではあったが、上手くいってよかったと心の中で安堵のため息を漏らす。
「場所は?」
尋ねられてふと思いついた場所。そこなら、どれだけ妖精の力を使っても問題ない。
「そうだな・・・・・・」
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