第41話 大包囲網

 クリフ・N・バルザーは、ずっと兵器開発局の父の元に居たが、自分は、ファイター乗りだ。先日やっと父のカールからもオース元帥からも宇宙軍入隊を許された。乗艦を希望していた戦艦テンベルが、まだ、ドックに入って修理していたため、ファイターには乗れず、惑星ケレスから3万キロ離れたスペースコロニーで、オース元帥の下にいるツエッペリン大将の参謀長補佐見習いの閑職に甘んじていた。実際は、出世コースなのだが、クリフは、現場に出たい。ツエッペリン大本営大将は、父カールとも親交があり、クリフは、「急ぐな」と釘を刺されていた。

 そこに、緊急事態の指令が入ってきた。惑星ケレスを強行脱出した宇宙艇を撃墜しろとの指令だ。標的は、ロケット級を航行不能にして9Gで逃走中。もうすぐこのコロニードックを通過する。

 クリフは、作戦本部司令室に出頭した。巨大なオープンモニターと床に航路モニターがあるところだ。

「逃走機影出ます」

 オープンモニターに映し出された機影は、ずんぐりした船のような形をしている。船尾には、この大きさの宇宙艇には似つかわしくないエンジンが3基もついていた。 ここには、演習を指揮していたツエッペリン大将も自ら出張っており、全員に檄を飛ばした。


「ケレスで、逃亡した宇宙艇は一隻もいない。わしの言っている事が分かるな」

 全員立ち上がった。

「この宇宙艇を分析できるものはおるか」

 兵器開発局にいたクリフが前に出た。ツエッペリン提督は、話せと促した。

「3基あるエンジンですが、中央のメインと思われるエンジンは、プラズマエンジンであります。ファイターでしか、存在を確認されていませんが、この大きさだと、超ド級と、言うことになります」

「武器は」

 サーチしていた者が前に出た。

「レーザー機銃掃射4、マリーン魚雷2、未知のレーザー砲1、未知の主砲1です」

「これが宇宙艇か」

 ツエッペリン大将は、クリフを見た。まだ何かありそうだ。

「クリフ中尉、まだ何か有るのか」

「プラズマエンジンは、アクエリアスコロニー消滅と共に失われた技術です。ですから、スバルの設計者は、アクエリアスコロニーのエンジニアです」

「わかった、拿捕したい宇宙艇だ。どうだ、拿捕できる者はおらんか」

 手を上げる者がいない。ケレスに9Gのスピードをコンスタントに出せる戦闘宇宙船は、短距離型のファイターだけだ。高速艇もあるが、情報収集やいざというときの連絡がおもな任務だ。長距離用のファイターは、パワーグラビトンのクリフのために建造中だが、今すぐという訳には行かない。

「撃墜は」

 これに関しては、クリフと一緒に来ているテンベル副長のケビン・キャブラが手を上げた。

「包囲してしまえば、ファイターも出せます。相手のパイロットは、フリーハンドで操縦していますから、少し広範囲になりますが、可能でしょう」

「ケビン中佐、作戦立案は貴殿に任せる。島宇宙からは、出すな」

「はっ」

 作戦立案するに当たって、ケビン中佐は、スバルのパイロットが、ただ操縦するだけのパイロットではない事が分かっていた。最初に出会ったロケット級の戦艦を航行不能にしたからだ。その為、包囲範囲を自分の予想より、更に広げなくてはならなくなった。


 スバルにグリーンの秘話回線からケレス軍の戦艦情報がドンドン送られてくる。ニナがそれを8ビット処理し、MG2が航宇図にしてアランに流している。

 アランは、追い込まれていた。どう逃げても、手詰まりになる。

「厳しいな、一度隠れたほうが良くないかMG2」

「そうするんやったら、早ようしてくれ、M78と合流できんようになる」

「来てるのか」

 ニナが、嬉しそうに答えた。

「遅れたのが幸いしました。通信繋ぎます」

 ニナが、音声だけの秘話通信をONにした。長距離慣性G航宇に、慣れていないナオミは、このとき、重力ダンパーキューブの中でクララと一緒に目を回していた。

「ガンゾや、生きてるか」

「ガンゾ!」

「なんやマーク、クララちゃんは、無事なんやろうな」

「えーっと、気絶しているかな」

「あほ、なにしてんねん、お母さんも一緒に来てる」

「ちょっと熱を出しているけど、元気だよ、なっ、アラン」

 アランはオレに振るのかよと、言う顔をした。

「えーっと」

「なんやアラン、手詰まりなんやろ。MG2からの戦艦配置図見たで」

「ケレスの第三皇女すごい美人だって知ってた、ガンゾ」

「ミーシャやろ、有名やからな」

「今、乗ってる」

「スバルにか」

「偶然に、ね」

「お前ら何しとんねん」

 マークとアランは、苦い顔をした。

「それで、どうする」

「手詰まりなんだ。一度隠れる」

「そうやな、それやったら、惑星プルコバで落ち合うか。二人を引き取る」

「了解」

 惑星プルコバには、衛星が在る。そこに簡易のアンテナを打ち込み、スバルは、プルコバに重力機能で取り付いた。しばらくしてM78も、ここ、プルゴバにやってきた。宇宙艇M78は、スバルほどの重力機能がない。アンカーを地表に刺しホバリングしている。ニーナが艦を守りガンゾと、モリス・カガヤ評議員がスバルのデッキに降り立った。デッキから艦橋に入り2人を引き取る手はずだ。ガンゾとモリスは、動けないでいるクララを迎えに倉庫に向かった。アランを艦橋に残してマークも二人についていった。

 モリスは、クララと再会した。クララは、熱を出しているにもかかわらず、飛び起きて、母親に抱きついた。

「お母さん」

「クララ、もう離さないわ」

 二人は、抱き合って泣いた。

「感動の再会やね」

 ガンゾは、腰に手を当てて嬉しそうだ。

「オレ達いい仕事するだろ」

 マークは、腕組みして喜ぶ。

「ガンゾさん、マークさんありがとうございます」

 モリスは、涙を拭きもしないで振り返った。しかし、クララが、マークに又、予言をする。

「戦艦がいっぱい来る」

 クララは、マークの顔を真直ぐ見た。


 そのとき、艦橋とグリーンは、大変なことになっていた。アランのメイム2ndが振動し、メインの秘話回線を開くことになり、そこでメインに怒られたからだ。

「君達は、そこで何をしている」

「何って、潜伏だよ。手詰まりなんだ」

「ケレス軍の大包囲網が完成しつつある。何でその中心にいるのか教えてもらいたいね」

アランは慌てて、グリーンに叫んだ。

「グリーン!」

 グリーンは、そこで自分がはめられたことに初めて気づいた。

 母子が感動の対面をしている倉庫のコムリンクにアランの慌てた声が入った。

「マーク大変だ、囲まれた」

 ここにいる者全員が、デッキに向かった。

「アランどうなってる」

「すいません」と、MG2

「グリーンが裏をかかれた。あの戦艦座標は偽物だ」

「なんだって」

「ここに逃げ込むように仕向けられた。グリーン対国だ。考えたら当たり前さ。グリーンは、別ルートで検索し直して、新しい座標を送ってきた。後30分で包囲網が完成する。それも、大包囲網だ」

「M78捨ててスバルで逃げるか」

 ガンゾが提案する。

「スバルには撃墜命令が出ている。まだ、M78のほうが、安全ですよ」

 アランが肩を落とす。

「何だこのファイターの数は、100も出すなんて普通じゃあない」

 マークも自分の席で驚いている。モリス・カガヤ評議員が、決断した。

「私が交渉しましょう。これは、わたくしの問題です」

 しかし、クララは、ミーシャに抱きついた。

「お姉ちゃん、たすけて」

 ミーシャは、クララの真直ぐな眼を見て、決心した。

「私が、話しましょう。私がいれば、スバルを攻撃できません」

 全員一瞬フリーズした。

「オープンチャンネルで映像流せるで、グリーンの秘話回線で」

 MG2が答える。

「マークさんとアランさんは、隠れていてください。スバルだけのせいにしましょう。ガンゾさん達は、御自分の宇宙艇にクララちゃんを連れて行ってください早く」

 きわどいタイミングだ。

「周囲100万キロまで下がらせます。M78はもう出発してください。そうでないとサーチされます」

 これしかない、全員がそう思った。カガヤ評議員が、予定もなくこの、宇域にいるはずがない。交渉は成り立たないだろう。

「分かった。マーク頼む」

 ガンゾは、クララをエアーポットに入れ、M78に向かった。スバルに残ろうとしたナオミにマークが駄目だしした。

「おまえ、さっきクララと一緒に気絶してただろ。ガンゾと一緒に行け」

「でも、私も最後まで一緒にいたい」

「おまえの仕事は、クララを守ることか、それともスバルを守ることか」

 ナオミは、クララと共に、M78に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る