第2話 アウトロー
何でも屋は、どんな仕事なんだろうと思い巡らしていたマークにマスターが耳打ちしてきた。
「おい、あの娘か」
マスターが目配せした。グラッパの入り口で、きょろきょろしている娘がいる。身長に似つかわしくない大きなボストンバックを引きずっているワンピースの女の子だ。御のぼりさんですと言わんばかりの格好だが、観光客が多く来店するグラッパでは、誰も気に止めない。ナオミは、マークを見つけたのか笑顔で、大きく手を振った。
荷物は、置いて来いと言ったのに
マークは一瞬顔を覆って他人の振りをしようとしたが、思い直してナオミにこっちに来いと合図した。ナオミは、元気よくうなずき、はしゃぐようにやって来た。
「もう、マーク。荷物持ってエスコートしてくれてもいいじゃない」
マークの横にちょこんと座ったナオミは、マークを見上げて怒るでもなく、ニコニコしながらいつものように腕をつかんできた。
「よう、あんたがナオミさんか。可愛いじゃないか。なあ、マーク」
「あっ、キンダダさんですね。マークがお世話になってます」
こら、オレの心を読むな
いいじゃない、どうせちゃんと教えてくれないんだし
二人は、心で会話していた。ナオミは、テレパスだ。今のところ聞こえるのはマークだけだが、その性でマークは、ナオミの親から絶大な信頼を得ている。
「何だ、マーク。いつ俺を紹介した。いいところあるじゃないか。ナオミちゃん疲れてないか、飲みたいもの言え、おごるから」
「本当ですか、じゃあオレンジジュース。キンダダさんいい人ね」
「ワハハハハハ。飯も食ってくか」
「キンダダ、もうすぐ商談だぞ」
「わるい、わるい。そうだった。ナオミちゃん、いつでも来てくれ歓迎するぞ」
キンダダは、ナオミの三倍はある手を出してきた。ナオミも、うれしそうに握手を交わす。
「じゃあ、毎日来ていいの?」
「いいぞ」
「やったー」
「おまえ、ここで、毎日飯食う気か」
「だって有名だもん、グラッパの食事」
「ワハハハハハ」
和やかなカウンターとは違い、アウトローたちの席は、ざわついていた。マークがゴウのところの者だということは、知っている。しかし何だ?この可愛い娘は。特殊能力者か?などと、ひそひそ話を始めた。アウトローといっても、まったく女っ気の無い職場ではない。しかし、あのカウンターに座れるのは、普通の人間ではないというのが通例だ。死にたがりか、特殊能力者ということなのだが、そこに、可愛いのが、ちょこんとやって来た。
気になってしょうがない。
みんなで話し合った結果、一番丁寧に話すやつが代表になって、ナオミに話しかけることになった。若いボウイが選ばれ、ナオミのところにやってきて、睨んでいるように見えるキンダダをものともせずナオミに話しかける。
「あの、お嬢さん。俺たちマークと一緒で、資源を運搬してる者でさ」
「資源だとよー」
「わはははー」
アウトローの席から、笑いが漏れる
「あんた、ダダ者じゃないと見た。どうです、歓迎するから、こっち来ないか」
普通の娘なら、即座に断っただろう。キンダダとまでは行かないが、いかつい野郎ばかりだ。
「マークとも仲良くしてくれるの」
アウトローの席から野次が飛ぶ
「おうよ。今日、始めて会ったけど仲良くするぜ。なっ!」
と、ボウイの船長ホーガンが、みんなに振り返って手を上げた。
「オー」と、同意の声が上がる。
「マークはまだ、ゴウの所の見習いなんでさ、同業者なんだ。仲良くするさ」
いぶかしげな顔をしていたナオミだが、うなずいているキンダダを見た。
「わたし、ナオミよ。あなた達いい人ね。お言葉に甘えて歓迎してもらおうかしら」
「本当か。やったぞ。交渉成立だ」
「オー」「ヨッシャー」と、アウトローの席から歓声が上がる。
「マークいいでしょ」
「いいもなにも・・これから仕事だしな」
ナオミは、実家の親父の友達である、おっさんたちと仲が良い。あの、は茶めちゃなおっさんたちに比べればなんでもない。ナオミは、アウトローのおっさんたちに、ちやほやされだした。
「なんだってー 一人でここまで来たんかい」
「15歳なんかー」
「テレパスだって。やっぱり普通の人じゃないと思ったよ」
などと、騒ぐ。
おいおい、ほとんど、誰にも話したこと無い話をぺらぺらと
マークの顔は、無表情だ。平気そうな顔のマークに、アウトローたちは気を良くした。調子に乗ってナオミを誘う。
「ナオミちゃん、今度オレの船に乗らないか火星観光、任せとけ。すごいんだぞ、南極」
「こら、抜け駆けはいかんな」
「こいつの船はくさいぞ、掃除してから言え」
「ちょっと、やめなさいよ」
「ナオミさん、俺の船で行かないか」
「いや待て、俺の船だ」
いつもの喧嘩が始まった。あきれたキンダダが、止めに入った。
「おーい、アマンダ来てくれ」
「なんだい、騒がしいね」
カウンターの奥から、ものすごい美人で、ものすごく大人っぽい女性が出てきた。
「あの子がナオミちゃんだ。火星に着いたばかりだ。腹へってるだろ、飯、食わせてやってくれ」
「あいよ」
アマンダは、カウンターをくぐり、ナオミの所にやって来た。アマンダが、カウンターをくぐるとアウトロー達からざわめきが起こる。
「アマンダだ」
「アマンダが来た」
アマンダが怒ると店の手伝いをさせられる。ここの連中は、皆、その洗礼を受けていた。
アマンダは、マークを一瞥してニコっと笑い、アウトローたちに向き直った。アウトローたちは、息を呑んでアマンダを見る。
「あなたがナオミさんね、かわいいじゃない。ちょっと、あんたたち、この子に変なことしなかったでしょうね」
ナオミは、こくんと頷いてみせる。
「アマンダ、そりゃないだろ」
「そうだぞ、俺たちゃナオミちゃんと仲良くなろうとしてたんだ。そうだろ」
「そうなんだ」「そうだ、そうだ」と、口々に話す。
「じゃあ、なんで騒いでたのさ。ナオミちゃん怖かっただろ。こんなやつら放っといて、こっちで、食事しない」
ナオミは、又、頷いているキンダダを見てニコッと笑った。
「はい、お腹ぺこぺこです」
「おい、アマンダ。そりゃないだろ」と、騒ぐアウトローたちを尻目に二人は、カウンターの奥に入っていった。
「おまえたちがバカ騒ぎするからだろ。見ろ、他の客がびっくりしてるぞ」
「キンダダ、分かったよ」
などと、気の抜けた声を出した。
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