第8話 人と妖怪

 夢幻のまちには人里の他に妖怪の里がある。妖怪の里は人間の生活圏を離れた山奥に存在しており、商いを行ったりしている。人間は居ない。その妖怪の里の小さな飲み屋にて、カラス天狗の少女が酒の勢いで愚痴をこぼす。


「なぜ、仲間たちは戦わないッ」


 そして酒を飲む。少女が頭にきているのは、この夢幻のまちが人間主体で動いていること、それに対して何も行動しない妖怪たちのことであった。

 そもそも少女は今いる人間のやることなすこと、どこか気に入らなかったのだ。


「…そんなことはどうでもいいからさ…風華」


「何?」


  店にいる客は一人だけと思っていたために不意の返答と自分の名を呼ばれたことに驚き、声の方に顔を向ける。

 そこには、部屋の角目立たない席に、頭部に二本の角を生やした長身の鬼の女性が酒をつまらなそうに飲んでいた。風華は鬼の顔みるや、苛立ちが沸き起こった。


「どうでもいいことだと、弱者に好き勝手やらせることもかイバラキ。鬼は弱者が嫌いだろうッ」


 イバラキと呼ばれた鬼は何も言わない。風華は黙っているイバラキを無視し話続ける。


「特にアサキシとかいう奴は我々の存在をなめきっている」


 アサキシは妖怪を弱者として接している。それが許せなかった。その様子を見ながらイバラキは酒飲みながら「それで…何がしたいんだ」と適当に相づちをうつ。

 イバラキの言葉聞き、にやりと笑みを浮かべた。


「人里襲い、人里を制する。そして妖怪の強さを思いださせる」


 イバラキはそれだけかと聞くとそうだと風華は返した。イバラキはその言葉でため息をついた。そしていさめるように言葉を発する。


「それは無理だ、第一にそんなことをやったって」


「鬼のあんたが力を貸してくれば仲間ももっと集う」


 しかし、彼女の言葉にさえぎられ、ため息を吐き尋ねる。


「ハア…仲間いるのか…どれだけ」


 その問に風華は苦い顔をする。風華の作戦は無謀なものであり、賛同者は一人だけであった。そのため今に至るまで何もできてない。


「数が少ないかもしれないが、あんたが力を貸しくれれば」


「嫌だね…無駄なことだ…それに怖い」


 風華の頼みをあしらう。その言葉に風華は哀しみの目を向けた。


「あんたは鬼だ。強き妖怪だ。かつては人間世界に名を轟かしたほどのあんたが」


  風華は手を強く握りしめ、イバラキを見る。イバラキは目を合わさない。


「昔は昔さ、今は逃げた臆病者さ」


 イバラキは言い捨てた。その言葉に風華は拳を握りめ、捨て台詞を吐いた。


「わかったよ。あんたの力がなくたって人間なんて弱者、なんとかしてみせるっ!」


 風華は金を置き、扉を行き良いよく開け、飛び去って行った。鬼は一人なった。


「人間が弱者か…その人間に負けたからこの世界にきたんだろ…」


 そうつぶやき、イバラキはかつて人間につけられた右腕の傷跡をじっと眺めた。

 … ここは夢幻のまち、行き場をなくしたもの 不要となったものがくる世界。


―――


 朝の人里、管理所にて。


 所長室には、了、葉月 菫 アサキシがいた。アサキシに呼ばれ了達は来た。

 菫は寝起きなのか目をパチパチとしている。菫の格好はこの世界では珍しいTシャツにジーンズである。葉月は仕事中呼び出されたため可愛らしい店服のまんまであった。

 了はそんな二人を見て少し可笑しくなり笑った。


「急に呼び出してすまないな葉月。君の力も必要かもしれないんでね。 勤め先からは私が言っておく」


 アサキシの言葉を葉月は、聞き少しほっとした。仕事を抜け出して気が引けたのだろう。


「なーあ呼び出したのは仕事か」


 菫は眠気を抑えながら話を切り出す。


「そうだ、妖怪の里で一部の妖怪が人里を襲う計画が建てられてる話がここ管理所に来た」


 アサキシの話を聞き、3人は驚いた。アサキシは話続ける。


「その話を妖怪の里に行き詳しく調べ、真偽を確かめてくれ」


 その話を聞き葉月は怒りの形相になっており。やる気十分だ。菫は面倒そうだ。私はとくになかった。


「やってくれるな」


 アサキシの言葉に葉月は快諾し、了と菫はそれにつられ承諾した。


「では、行ってくれ三人でな」


 その言葉に3人ともげんなりした。


―――


空は快晴


 妖怪の里は人里の北に位置し田畑や林をぬけ、山道を通った山の奥にある。なぜ山なのかは妖怪に対する恐れを守るためである。 


 私はカードの力を使い飛び、菫と葉月はバイクに乗って目的地に向かっている。葉月は初めてバイクに乗り、楽しそうにしていた。風が心地良い。菫は呟く。


「妖怪が人里を襲う計画立てるなんてな」


「妖怪の里は一つのまとまりではないしなあ、そういった考えを持つ者もいてもおかしくない」


「了、それはどういうことだ」


 菫の呟きに私が答えると葉月が口を挟む。それを聞いた菫はそんなこともしらんのかーと少し小ばかにした。葉月は菫の言葉にムッとしたが妖怪の里ができたのは封魔隊が解散した後であったため、詳しい情報は知りえなかった。


「ぬぬぬぬ」


 困ってる様子を見て、私は助け船をだした。


「妖怪の里は人里と違い複数の団体で構成されている。力のある団体は河童組合、天狗連合 狐組 狸組などあってな、その中でも一番力があるのは天狗連合だな」


 葉月はそれを聞き「そいつらの中から…」とつぶやいた、しかし菫に否定される。


「そいつらは今回の出来事にかかわってないらしい、アサキシに出る前聞いた。それに今、了が言った団体は人間に比較的に友好的だ」


「襲おうとしている奴らを庇っているだけじゃ」


「かもしれんが、管理所に今回の話を持ってきたのがさっき言った奴らだ。ある程度は信用できるだろう」


 私は菫の話を補足する。


 「つまり、集団に属してない者、あるいは危険思想もっていたため追い出されたものか?」


 葉月はそう考えた。


「たぶんな、もしかすると全く知らない世界から来た奴かもしれんしなー」


 3人は考え込んだ。


「まっ行ってみなきゃわからんか」


 菫の言葉に納得し道を進む。


 そのとおり行ってみなくちゃ分からない。私はふとあることに気が付いた。


「そういや菫、武器はどうするんだ月の時に壊れたろ?」


 私の問いかけは葉月も思っていたらしく、不思議そうにしていた。


「新しいパワードスーツを持ってきたから問題ねー」


 パワードスーツに?マークを浮かべている葉月に了がお前が月で戦った機械鎧の事だと説明した。


「それはどこにあるんだ」


 葉月は疑問に思い菫に問いかける。菫はバイクを停め、腕にしている赤とグレーのブレスレットを見せた。


「これにむかって『装着』といえばスーツが現れ装備されているんだよ、原理は分かんねーけどな」


そう言いバイクを再び走らせる。


「やっぱよー私に怪我させた奴を乗せるのヤなんだけどー」


「私にはバイクなんてもの持ってないしな」


 葉月は菫に言い返し、私の方を見て「空も飛べないしな」口にする。

 菫は小言でバイクを見たとき驚いてたくせによと呟くそれに対してうるさいと返答する葉月。その対応が癇に障ったのか菫は舌打ちをした。いやな空気が漂った。


「おいおい 仲良くいこーぜ なあ」 


 このことで行く前にも散々もめた。二人を諫め、前に進むもうすぐ山の道に着く。

 山道の入り口には朽ちた鳥居と看板があり、内容は≪この先 妖怪 多数 出没≫である。調査するにしても妖怪のテリトリーに入るのだ、命の危険がある。


 私は二人に覚悟はいいかと尋ねた。二人は頷き、いざ進もうとしたその時、葉月が呼び止めた。

 呼び止められた私と菫は怪訝な顔する。


「菫、了、お前たちに聞きたいことがある。私が戦うのは妖怪が人を傷つけるから 許せないから戦う。お前たちはなぜ戦う」


 葉月の真剣な問いに菫が答える。


「この世界は多くの犠牲で成り立っている。もし世界が荒れることになれば犠牲が無駄となってしまう

そうならない様に私は戦っている」


 菫の思いは本物だった。その言葉に葉月は納得し、私の方に顔を向け尋ねる。


「そうか、了お前は」


「私は守りたいものは守るのと、困る出来事はなくした方が良い」


「なるほどな」


「つーかよー恥ずかしいこと聞いてんじゃねーぞ」


 菫は顔を赤らめ葉月に突っかかる、葉月はそれをいなす。


「月での出来事があったのでな、 人間性を確かめただけだ」


「テメーッ」


 葉月の言葉に切れる菫。私はそんな彼女を諫めようとする。


「葉月一言多いぞ 第一お前も問題あるだろ」


 了が葉月に苦言し、何とかしようにも菫はかなり怒っていた。


「バイクから降りろッ、ここから先は別行動だ」


「いいだろう、いざ困っても守らんからな」


 葉月はバイクから降り、獣道を歩く。私は慌てて声をかけた。


「おいどこに行くんだ 道はこっちだ」


 葉月は、止めようとするが止まらない。


「こっちの方が妖怪の気配がする」


 そう言って山の中に消えていった。


「まったくおい菫。…ええ…いない…だと…」


 菫は先に行った様だ。私はため息をついき、自分も妖怪の里へ向かった。


 了は妖怪の里に着いていた。 里は人里と作りが似ているが辺りを見渡しても人はおらず妖怪だけであった。また売っているものもガラクタから珍しいものがあったが、それらの差があまりにもひどく、どんな生活送っているのか分からなかった。


 了はすぐさまその場で情報収集を行いはじめた、その間なぜ人間がいるのかと不思議がられたが管理所からと伝えれば情報収集に協力してくれた。時間がかかったが大体は把握できた。


 今回の話はカラス天狗の少女の風華という妖怪が考えたらしい。理由は人間、弱者と共存したくない、どちらが上かはっきりしなければならないというものらしい、少し推測も入っているが。現在どこに居るのかわからない。


 性格は好戦的で自分より強い相手でも戦うほどらしい。闘いにおいても自分から先に進み使い魔を使役しないなど闘いにこだわりがある。その他に誰よりも強くなりたいと一部にこぼしていた様だ。しかし、天狗は社会的な妖怪で力はあるが、無暗に使わない、強気ものには頭をさげ闘いを避ける。


自分たちよりも弱いものに対しては尊大な態度に出る、自分たちで手を下さない。これが普通らしい。

彼女の考えと一部は相いれないものがあった。

 そのためか彼女は天狗仲間から厄介な存在として知られていた。


「次は風華とやら探さないとな…しかし 菫が居ないな」


 菫はバイクのためより早くこの場所につくはずだ。


「何かトラブルか」


――――


 少し前

 川辺をバイクで移動する菫。

 水の流れる音は心地よく、緑豊かな自然による美しい風景。心地よい風そのおかげか苛立っていた心が穏やかになりそうだった。しかし突如大声呼び止められる。


「おいッ!お前ッ止まれッ」


「おん?」


 心地よい気分を阻害されたため、イラつきながら声がした方を向くと川の中から白いバンダナ緑色の水中服を着た少女が現れた。菫の知り合いではなかった。

 何だお前と菫が問うと相手は河童と答えた。そして菫に対し、威圧的に話しかけてきた。


「アタイの名は迫水だ、人間ごときがここにきてんじゃねーよ」


 河童は大声で菫を威圧する。そんな迫水の態度にイラつきながらも菫は友好的に話を進めようとする。まだ相手が何もしていないからだ。河童と言えば人間に友好的なイメージがあり、尋ねる。


「河童は人に友好的な奴らじゃなかったか?」


「それは河童組合のやつらで、新参者の河童だッ一緒にすんじゃねーよ!」


 迫水の対応にまだ我慢して無視し、先を急ごうとした。


「私は妖怪の里へ行きたいだけだ。通る。何!?ッ」


 迫水を無視し通ろうとしたその時、菫の頭にめがけ大きな石が投げつけられた。

 何とか避けたもののバイクと共に転倒してしまう。もし石が当たれば死んでいただろう。迫水はそれを見て笑う。


「風華の言う通りだよなーなぜ人間がこんなに好き勝手するの見逃してのかなー仲間はよー」


 こけた菫を見てバカにしながら喋る。菫は立ち直り服についた汚れを落とし河童を見据え、叫んだ。


「河童…川に寄生するゴミヘドロ以下の分際でこの私に偉そうに喋ってんじゃーねーぞッッ!」


「なんだとッテメー!」


「お前は殺してやるゥーー」


 菫は怒声とともに殺意を向ける。河童は臆さず逃げもしない。


「こっちの言う言葉だーッ」


 河童も菫に対し殺意を向け、戦闘態勢に入った。


「装着ッ」


 菫の言葉に反応してブレスレットが光り、パワードスーツが構築・装備されていく。さすがの河童も面食らった。そいて光の中から現れたのは赤とグレーの装甲を纏った戦士だった。


「怖くねーし人の道具なんてさー」


 迫水の言葉には虚勢が含まれていた。


「それじゃ行くぞッ!」


 菫はスーツの腰部分に装着されているブレードを手に持ち、突撃する。


「速い!?」


 迫水は驚愕した人間が出せるスピードではなかったからだ。目の前には刃を振り下ろさんとする菫の姿が。危険と判断し迫水は水中深く潜り回避を試みた。


「オラッ!!」


 ブレードを叩き付けるが空振りし水を切っただけだ。攻撃の失敗に舌うちしたその時、水から手が伸び菫の足を掴み思い切り引きずり込んだ。突然のことでブレードは手放しまう。


「くそがァアアア」


 自動回避機能はこのスーツにはついてない。菫は水に引き込まれ、水中戦を強いられることになった。

川の中に入った菫を見て迫水は笑みを浮かべた。


「ここからが河童のステージだッ!」

「バカいうじゃねーぜッ」


 手を振りほどき迫水の顔に殴りかかるが受け止められてしまう。菫は舌打ちした。水中によってスーツの力が半減している。本来の性能ならば顔を砕いていただろう。そんな菫とは逆に、河童は水中にいることで力が増していた。


「せいやーッ」


 迫水は菫の腕を引き寄せ、菫の顔思いっきり殴った。左腕を掴んだまま何度も逃げられないように。


「グゥ」


 ヘルメットには亀裂が入り、迫水は勝利を感じた。菫を吐き捨てるように言い放つ。


「人間風情がこんなもんか」


「…なぜ足を掴んだままにしなかったんだ」


 菫のか細い声が聞こえた。水に引き込んだ時のことだ。


「そんなことしなくても勝てるからだ」


 迫水は笑い、菫は少し沈黙し言葉を発する。


「なら今掴んでる腕を…離してくれ」


 それを聞いた迫水は大笑いした。勝利の笑いだ。幸い、水中のため、声の音量は下げられていたのは良かった。そして私に対して、冷徹な判断を下す。


「いやだね、お前の言うことなんか聞くか」

「そうかい、じゃあ死ね」


 菫は迫水のその言葉で殺すことを決めた。


〔マキシマム〕

機械音声が鳴る。それは迫水にも聞こえ、不思議がる。


「なんだ今のはギャャャャャャ!!!!!ーーーーーーー」


 迫水は痛みで絶叫した。菫の左腕が赤く光っており、その左腕に触れていた自らの手が爆裂し大きな火傷と傷を負っていた。激痛が襲う。

 迫水はあまりの痛みに考えることができない。そんなスキを菫は見逃さない。


「ウバッシャアアアアアアアアアアアアアア」


 手を振りほどき迫水の体に拳を連打する。パワーが低下されているとはいえ無防備な状態では十分な威力であった。


「ゴブァッッ」


 迫水は水中から飛び出し、岸辺までぶっ飛ばされた。そして、水中というアドバンテージを失った。


「フン」


 菫も川から上がり迫水を見据える。迫水は痛みに堪え立ち上がる。叫び問いかける。


「なにした人間…何をしたんだッッ!」


「言わねーよ」


 菫は笑い、拒絶した。

 菫の左腕は赤く発光したままだ。菫が使用したこのスーツの機能は発光した部分に触れると、触れた物を爆発させる機能だ。

 この力は強力であるが連続で2回しか使えない。連続使用した後はスーツの機能が大幅低下してしまう。使用後は時間を置かなければならない


 菫は拳を構え、負傷した迫水を見据える。


「さあ、ここからが私のステージだ」


「うぅ…」


 菫の言葉に怯む迫水。


「マキシマム」

〔マキシマム〕

 音声入力したことで今度は右足が赤く発光する。


「ヴァ嗚呼アアアアアアアアアアアア」


 迫水はなけなしの力と意地で立ち上がり菫に向かい殴りかかった。


「……フン」


 菫は拳を避けカウンターキックを腹部に叩き込んだ。迫水の腹部は爆裂し口から大量の血が噴き出しあたりを染めた。


「ゴヴォ」


 迫水はそのまま地に倒れた。


「なぜ逃げなかったんだ、意地か?地上じゃ勝ち目はないんだぜ」


 迫水を見下ろすと血の池ができていた。菫の問いかけに反応しない、怪我による気絶の様だ。


「死んでそのバカなおせ」


「いい戦いだったがそこまでだ」


「!!」


 倒れた迫水の頭を踏み抜こうとした時、謎の声に動きを止められる。菫は新手の敵と警戒しながら声がした方に向く。そこにいたのは二本の角を生やした鬼の女性だった。右腕には古傷が見て取れた。


「テメェの仲間か」


この問いに違うと答える女性


「じゃあなぜ止める」


 話をしながらタッチパネルを取り出しバイクを近場まで呼ぶ。


「いいじゃないかあんたは勝った。 それ以上何を望む」


「勝ったんだからいいだろ、何を望んでも」


 バイクからメリケンサックを取り出し装備する。鬼は黙って見ている。


「なあ人間私と戦えよ、そっちが負けたら見逃すいいな」


「得がない」


「あるさ、勝ったら今回の騒動の犯人を教えてやる」


「…いいぜ」


「良し」


 鬼は喜んだ。菫の内心は冷や汗をかいていた。スーツの力を使った今、鬼と戦うのは不利だからだ。しかし自身の感からこの鬼も今回の騒動に関わりがあると感じた。そのため逃げたところで結局は戦わなければならない。また時間を置く事で人里に被害が出ることも考えれた。


 菫と鬼両者、間合いを詰める一撃で終わらせるつもりだ。


「オラッーー」


 菫の拳は鬼の頭に直撃した。頭からは血が一筋流れた。しかし、鬼は倒れず耐えきったそして、菫の胸部に拳を放った。拳は装甲を砕き、本体の菫にも衝撃を与えた。


「ガアアアアアアアアアアアア」


 菫は後方へ吹っ飛ばされる。地面に叩きつけられようやく止まった。スーツは大きなひびが入り、強制的に装着解除されていく。


「…」


 菫は命あるも気絶していた。


「いやーいい拳だった約束事守ってもらうよ、てか聞いてないか」


 そう言いながら倒れている二人にかまいたちの薬を与えると何もなかったように治った。


「さすが、かまいたちの薬。さてこの二人どうしようか」


 置き去りにするまずいと考え鬼はバイクを草陰に隠し、二人を背良い山にむかった。

 菫 戦闘不能


 一方 葉月は 道なき道あるき、山々を一望できる崖にきていた。


「ここから、中々の妖力を感じたが…」


 周りを見渡すと木々とその上から見下ろすカラスしかいない。カラスたちは葉月をじっと見つめている。それを葉月は不気味と感じ、一人呟いた。


「誰もいないのか?」


 その時、木々をそらすほどの暴風が葉月を襲った。突如の暴風に驚いたがすぐさま、飛ばされぬ様、刀を引き抜き地面に深く差した。葉月は暴風を耐え抜き、暴風は葉月が飛ばされぬと分かったのか、突如無風となった。葉月は刀を抜き取り、辺りを警戒する。


「いったい何…む」


 上空からカラスの羽が舞い降りてきた。上を見上げると、黒翼を生やし山伏の服装着た少女。しかし人間でない気配が漂っていた。カラス天狗であった。少女の目は葉月を捕らえていた。


「今の風、お前かッ!?」


 カラス天狗を見上げる葉月の声にそうだと答える。天狗は葉月を見下ろす。


「人間どうやら私の計画に気づいたようね」


「お前がこの騒動をおこしたッ!?」


「そうよ、何かある?」


 葉月の怒号に天狗は怯えず、見下した対応をとる。葉月は天狗を睨みつける。


「人に迷惑をかけた。 死で償うきは…」


「ないッ!」


 葉月の声には殺意がにじみ出ていた。しかし天狗の反応は、拒絶であった 天狗は翼を広げ、言葉と共に葉月に急接近してきた。

 葉月は即座に刀を抜き取り、振りかざす。しかし刀は天狗を斬れず、空を斬った。紙一重で避けられたのだ。攻撃を回避した天狗はすかさず葉月を殴り飛ばす。


「遅い!!」


「グ嗚呼」


 葉月はふっ飛ばされはしたが、体に仕込んである札ふだの力のお陰で少しは痛みを軽減できた。そして体をひねり何とか着地に成功し不要なダメージも避けた。しかし体の痛みより単純な速さで刀が追いついてないことに冷や汗を流した。立ち上がり再び構える。それを見た天狗は呆れていた。


「人間なんて、やっぱりこんなもんか」


「…」


  天狗の言葉に葉月は青筋を浮かべている。しかし天狗の話は止まらない。


「なのに、他の連中は人間との歩み寄りだとか・・・ありえないッ」


 天狗は猛っていた。かつての葉月の様に。


「御託は要らんッ」


「おっと」


 葉月は話を無視して、刀を構え天狗に向かい駆ける。天狗は再び翼を広げ空に回避する。刀は敵を斬りつけることが出来なかった。風華は地にいる葉月をあざ笑う。


「空も飛べない」


「それはどうかな」


 しかし葉月は余裕の笑みを浮かべていた。懐から大量の札を取り出し空一面に投げる。その行動に怪訝な顔する天狗。札はあたり一面にまで舞うと、葉月は霊力を使った。すると札は落ちることなく、ピタっとその場で静止した。葉月は札で足場を作ったのだ。


「行くぞッ」


 葉月は札を飛び移りながら天狗に襲い掛かる。札は葉月の重さも感じないかのように停止している。それ見ても天狗は余裕の表情を崩さない。攻撃を避ける自信があるからだ。ついに、刀が天狗の頭を斬断できる間合いに入った。そして刃が天狗に襲いかかかる。


「へぇ、でもっ!」


 天狗はまたもや紙一重で避け、手刀を繰り出す。


スパン


「…へ」


 手刀を繰り出した左手は葉月の持つ短刀に切断されていた。


「何度も同じ攻撃するかよ!」


 葉月は相手が攻撃を避ける事を考えて、逆に避けるが出来ない時、相手が攻撃する瞬間を狙い、懐からから短刀を取り出し、振りかざしたのだ。


「グギャ嗚呼あああ」


 天狗は怯んだ。葉月は霊力を使う、すると近くに静止していた札が天狗に襲い掛かった。

札のスピードでは本来なら天狗を捕らえることは不可能だが 怯み隙が生じたことで可能になった。札は天狗にまとわりつき力を弱らせていく。

 天狗は札を取り除こうとするが、もちろん葉月はそんなことはさせない。再び霊力を発動した。


「雷ッ!」


「翼がッ!」


 葉月の言葉により札に電流が流れていく。電流によって翼は破壊され飛ぶことが出来なくなってしまった。天狗は叫び声を上げながら崖の上、地に落ちていく。

 風を使おうにも札に力を吸われ使えず、やがて崖の上に落ちた。鈍い音が鳴った。天狗は痛みに耐え、うめき声を抑えながら立ち上がろうとする。天狗は空にいる葉月を見上げた。


「グゥオオ!!!」


 葉月は刀を構え天狗に向かって落下する。死の危険を感じ取り、天狗は転がり回避した。何とか避けれた安心感から全身から汗が噴き出し肩で息する。その様子をみて葉月は馬鹿にした。


「先ほどと、大違いだな」


「!!ッ」


 その葉月の言葉に怒り、立ち上がる。


「なめるな…人間…」


 天狗は右手に扇を出現させた。扇は風を纏い鋭い刃になっていた。葉月はそれを用心する。


「なぜ人を襲う?」


 唐突に葉月が話しかけたのは相手のペースを乱すためである。相手はそれを知ってか知らずか話す。


「なぜ?当たり前だろ、妖怪だからさ」


 葉月はそれを聞き刀に殺意を込めた。天狗は話続ける。


「なのに、ほかの連中は人と和解したから不要に傷つけるなだとか、時代錯誤だ意味の無い事をするな、挙句の果てに戦うなだと。それならばッ封魔と戦い死んだ者はいったいなんだッ!」


 その言葉に反応する葉月。 どこか思う所が似ていると感じたからだ


「時代錯誤と呼ばれても結構、私は人よりも強いッそれを証明する、戦いの中でなあッ!!」


 不動の覚悟だった。その覚悟を葉月は感じ取り、自分は封魔の者だ、と伝えた。その言葉に天狗は驚き、そして笑った。


「そうか…強いはずだ、だが負けんッ」


 封魔であることを知り怯えず、より闘志を燃やした。


「私の名は風華、お前はッ」


 風華は倒すべき敵を見据え問いかける。葉月も風華を見据え、返答する。


「私の名は葉月、来いッ!」


 名を聞いた風華は駆けた。そして葉月の首を狙うだが刀で扇ははじかれてしまう。だがそれを読んでいたかのように手がない左腕で脇腹を抉ろうとする。短刀での防御が追いつかなかった。


「シャア嗚呼!!!」


 天狗は吼えた。左腕は脇腹を抉り内臓を破壊する。これができたのは切断された骨の鋭さと天狗の力のなせる技だった。葉月は激痛で苦悶の表情をになる。しかし、


「…かかったな」


「!?」


 葉月は体に仕込んである札を起動させた。風華はすぐさま異変に気付いた。


「左手が動かん!?」


 左手を抜こうにしても、びくともしない、そんな異常事態から距離を取るために、左腕を右腕で切断しようとする。


 葉月は短刀で切り裂き止めようとするが、風華は切り裂かれても止めようとしない。そして何度も自分の左腕を引き裂いていく。あまりの痛みに涙を浮かべ始める。

 しかし、そのかいあってか左腕の拘束が少しゆるむ。そしてそのまま葉月の腹をけり脱出を試み様とする。だが、その試みは失敗に終わる。葉月が刀で逃げられない様、風華の背中から自分事突き刺した。

 大量の血が地面に広がる。 危険な失血量だ。葉月は叫ぶ


「これで逃げられんッ」


「だがお前はッ!?」


「勝つつもりだ」


 葉月は刀と札を媒介にありったけの力を使った。二人に大量の雷が降り注いぐ。


「ガガガガガガ」


「グググググ」


 雷は周りの音を消し光が二人を包んでいく。

 光が止み、そこにいたのは刀を引き抜いた葉月と地に伏している瀕死の天狗だった。


「なぜ、お前は…」


 疑問を口にする風華。


「それは私は自らの術によって自滅しない様に雷を再び霊力に戻していたからだ」


「そうか…」


 風華はそれを聞き笑い気絶した。葉月は刀を鞘にしまった。何もせずとも、あと少しで風華は死ぬだろう。葉月にはそれがわかっていた。


「眠れ…」


 気絶している風華に言葉かけ、葉月も怪我で地に伏した。葉月も自身の死を覚悟する。


「すごかった、すごかった」


「!」


 葉月は何者かの声に警戒を強め、立とうとする。声の方には河童と菫を背負ッている鬼がいた。


「争う気はないよ」


 そう言い菫と河童を下し風華に近づき「良くやったよ」声をかけながらかまいたちの薬を与えた。

すると傷は治り手も再生した。それに満足したのか葉月に向かう。


「お前はいったい?」


 葉月の問いに鬼とだけ答え薬を渡そうとする。葉月は驚いたが妖怪から施しは受け取らんと拒否する。

施しじゃない 闘いの褒美だ。そう言いながら鬼は葉月に無理やり与えた。葉月の傷も治り全快した。


「いやーかまいたちの薬はすごい、すごい」


 傷が治りケラケラ笑う鬼、不思議な空気の中、了が現れた。


「なんだ、当然雷が落ちてくるは、それで見にきたら。」


 了は場の状況に困惑した。地に寝ている3人、葉月に鬼。そんな了に鬼は笑いながら相手をし、喧嘩があっただけと了に説明した。了は鬼に対して、何者か尋ねた。すると鬼は笑いこう答えた。


「私か、人間を襲おうと考えた首謀者さ」


「!!」


 鬼の言葉を聞き、了はカードを取り出し身構えた。葉月は鬼の言葉に驚き、否定しようとする。


「了!違うそい」


「お嬢ちゃん内緒な」


 葉月の言葉を遮りそして、殴り気絶させた。了はただ困惑した。


「どういうことだ?」


「さあ?あんたが知れるのは、私に負けたらこいつらが死ぬってことさ」


 菫と葉月を指さす。その言葉からは殺気がにじみ出ていた。


「そんなこと言われれば本気でやるぜ…」


 絶対に助けるその思いを持ち、了は戦闘態勢をとる。鬼との戦いが始まった。了は<オーガ>カードの力を使い、鬼になって相手に向かう。


「鬼には鬼の力だッ!」


「変身したッ!?」


 イバラキは驚きはするが、怯まない。


「オラッ!」


「フンッ!」


 了は相手の顔狙い殴りかかる。しかし受け止められてしまう。拳を掴みながら話しかける。


「いい力だ、あんた名前は?」


 その問に了とだけ答える。


「そうかい、私の名はイバラキ、いい殺し合いしようッ!」


「!?」


 了は自身の危機を感じ右脚で前蹴りを放つ。


「痛ってなーーー」


了は驚愕した。直撃食らったにもイバラキは立っていた。


「次はこっちの番だッ!」


 即座に右脚を掴み投げ様とする。了は何とか振りほどこうとしたが、力負けしていた。

 私は鬼の力を得たなのに、奴の力は私以上かッ。

 了はその事実に恐怖した。


「ウオオオオオオオオオーッ」


 そのままイバラキは了を木々がある方に勢い良く投げ飛ばす。


「チッ」


 すぐさま鬼の力を解き、新たにカードを使用する。<グリフォン>了は飛行能力得た。そして力を使い衝突を防いだ。


「ならばさッ」


 了は空高く舞い上がり剣を構え速さを味方につけ、頭部を狙い斬りかかった。頭なら多少はダメージを受けるはずだッ。剣を振りかざそうとする。しかしイバラキは逃げもせず、逆に飛びかかった。


「嘘だろっ!?」


 了はその予想外の行動に攻撃が少し乱れた。剣は角に当たったが破壊できなかった。危険性はあるがイバラキは予想外の行動をし相手の攻撃を不完全な物にした。次の自分の攻撃の確実にするために。そして攻撃の失敗により了に隙が生まれてしまった。


「ハアッッ!」


「ギゃゃああああああ」


 イバラキの拳は了の腹を直撃した。叫びと共に勢いよくふっ飛ばされる。地面が迫ってきたがあまりの痛みに衝突を防ぐことができない。


ドオオオオオオオオオオオオン

 あたりに地面が砕かれた音が響き砂煙があたりにまう。


「死んだか…?」


 言葉と裏腹にイバラキは攻撃の構えを解かない。


 <ドラゴン>


「!!」


 砂煙からイバラキに向かって大量の水弾が襲い掛かる。


「これは、やばいなッ」


 直感で水弾が妖怪に対して危険と感じた。イバラキは即座に地面を引きはがし盾とし防いだ。


「次はどんなのを見せてくれるんだ」


 イバラキは了に問う。砂煙から現れた了は腹部に深手を負っていた。内臓が見え隠れしていた。攻撃を受けたとき変身してなきゃ死んでいたな。そんな考えと同時に了は焦っていた。了は思考する。


 私が持つ主力の3枚のカードが効かなかったのだ。ドラゴンは効き目はあるが決め手には欠ける。どうする負けるのか私は … いや命がかかっているんだ。菫と葉月を見る。


「あれ…やるか」


 了はカード3枚取り出し構える。その様子を見たイバラキは闘志が消えてないことを喜んだ。


「奥の手かい」


「まあな、負荷がすごくて普段は使えない切り札さ、だが今使うぜ…お前を倒すためにな」


 了は三つのカードを同時に発動した。


 <オーガ><グリフォン><ドラゴン>

 今までは連続発動で、体に負荷がかからない様にしていた。


「ウオオオオオオオ」


 了に3つの力が宿る。 そして体に鬼の角 グリフォンの翼 ドラゴンの手甲が現れた。

 了は雄たけびを上げイバラキに腹部にアッパー攻撃を行う。


「お前の力は…何ッ!!!」


 イバラキは受け止めれず空にふっ飛ばされる。


「まだだッ嗚呼ああああ」


 了の追撃はやまない。ガルーダの力で竜巻を発生させ、更に鬼の力で火を発生させ竜巻に加える。炎の竜巻がイバラキ襲う。


「クソォ」


 大量の空気を吸い込み、吐き出したッ。火の竜巻はかき消された。イバラキは何とか地面に着地しようとするが、バスッ謎の音とともに足に鋭い傷がついていた。これにより着地失敗し余計な隙が生まれた。


「これはまさかッ?」


 この傷はただの傷でなく聖水によるダメージも含まれていた。了は風の力で水弾に速度を与え、水の刃に変えたのだ。水の刃はイバラキに再び襲い掛かる。


「こんなものはさぁッ!!!」


 イバラキも負けじと猛火を吐き出し水を蒸発させる。水が刃になったとしても水は水、対処可能である。イバラキは今だ健在であった。その様子を見据える了。


「これでもか…ならこれで最後にしてやるぜッ」


 了は高く、空高く飛び上がり、やがて元いた山を見下ろす場所にまで来た。了は行くぞッと叫び翼を広げ急降下した。その速さは天狗の速度に匹敵した。そしてイバラキ目掛け飛び蹴りを仕掛ける。


「ウオオオオオオオオオオオオオオ」


 叫び共にグリフォンの風の力、鬼の力の火の力で爆風を起こし更に加速して行く。轟音を立てて急接近する了を見ても、地上にいるイバラキは逃げず右拳に自分の力全てを込めて迎撃準備する。


「私は…もう逃げん」


 やがて両者の間合いが交じった。


「デヤーーーーーーーーー」


「ウオオオオオオオオオ」


 鬼の拳、了の蹴りがぶつかり当たりに衝撃が響く。


「グオおおおお」


 イバラキの拳は破壊され、了の蹴りは腹を貫いた。大地に大きな亀裂が入り炎風が二人を隠していく。やがて炎風止み立っていたのは、右腕が破壊されたイバラキと了だった。


「了…お前の勝ちだ」


イバラキは了に告げ前のめりに倒れた。


「何とか勝てたか」


 そして了も疲労によって倒れた。了とイバラキの闘いは終わった。


―――



「どこだここ」


 了が目を覚ますと見知らぬ家にいた。体を見ると傷が消えていた。何らかの治療をうけたのだろう。


「や、目が覚めたかい、了」


 その声にドキリとして声の方に振り向くそこにはイバラキがいた。どこなんだここはと敵意を向けながら当然の疑問をイバラキにぶつける。イバラキは私の家だと了をなだめるように話す。了は目の前にイバラキが居ることで戦いの勝敗が気になり尋ねた。


「勝負はどうなったんだ?」


「あんたの勝ちさ」


 イバラキは酒を飲みながら話し始める。


「闘いのあと気絶した私たちは 気絶から目覚めたカラス天狗の風華にここに運ばれたんだ」


「そこからは私が話す」


 扉が開き、カラス天狗少女が入ってきた。了は何者か尋ねる。相手は風華と名を名乗り、今回の騒動の主犯だとも語った。それを聞くと了はイバラキの顔を見た。イバラキはがっくりと肩を落とした。


「あーあ、せっかく私のせいにしたのに~」


 イバラキはため息を吐く。自らが罪をかぶり、隠すつもりだったのだ。


「あんたにかばってもらう必要はない。私も葉月に負けた」


「そうか、葉月と菫は」


 了はイバラキに二人の安否を確認する。


「二人とも無事さ、外を見てみ」


 そう言い窓を指さす。窓から外を見てみると、河童の少女と言い争う菫と黙々と素振りをする葉月の姿があった。了は安どのため息を吐く。


「ほっとしたぜ。…なあイバラキ本当にあいつらを殺すつもりだったのか」


「…どうだろうね」


 イバラキは酒をあおり、はぐらかした。殺意はなかったのだろう。


「今回の事件の責はすべて私にあるすべての罰は私にしろ」


 風華は了に向かい命を差し出した。了はしばし、口を閉じ、考えた。そして風華に向かって穏やかに話した。


「…たしかにあんたは事件を起こそうとした。だが起こそうとしただけさ。起きていないそれなら罪もない」


 その言葉に二人は眼を丸くした。大なり小なりの罰を受けると考えていたからだ。


「しかし…」


 風華は困っている。死を覚悟していたのだから。


「しかしも何も菫も葉月も無事だし、気絶した私を殺さずに助けてくれたんだからな」


「それは戦いに勝ったからで…」


 風華はさらに困惑した。了は横になり、


「結果として誰も死んでないからいいのさ」


 そう言って寝た。


―――


 その後了たち3人は人里に戻った。


 管理所には何もなかったとだけ、報告した。その際、葉月が反対するかと思ったが何もしなかった。風華との戦いで何か考えることができたのかもしれない。良い方向に向かえばいいと考える。


 この報告にアサキシは怪訝な顔をしたが人里に何も無かったため、コレを良しとした。そして、了は管理所で倒れた。エルカード同時使用で体に無理が祟った。体に強力な負荷がかかったんだと診療所でわかった。


 診療所にて

「そんなことがあったんだ」


「うん」


 ろくろ首の妖怪ムクが了が入院したと聞いて見舞いに来ていた。そして今回の騒動の顛末を聞いた。


「誰も死ななくて良かったよ」


「葉月とえっと菫さんだっけ、その二人はここに来たの」


「あいつ等きたのは来たが…」


 了は来た時のことを思い出す。葉月は助けられたこと感謝し、私の果物を食べて帰った。菫は河童に対する愚痴と河童退治の相談だった。


「うーん大変だった」


「そっか」


 ムクは了の言葉を聞き笑った。


―――


 妖怪の里の小さな飲み屋にて、イバラキと風華が酒を飲んでいた。


「今日は大変だったな」


「ああ」


 酒を飲み今日のことを振り返っていた。風華は酒を飲む手を止め、あることを聞く。


「なぜ反対していたあんたが闘いに加わった。なぜ私を庇おうとした」


イバラキに疑問をぶつける。イバラキは恥ずかしそうに答える。


「初めは怪我人の回収だけしようとおもったが風華の闘いを見てな、この世界に来てどこか停滞していた私の気持ちを動かしてくれたから、かな」


 イバラキは右腕の傷を見る。人間に敗れたあの時から自分の気持ちは止まっていたのかもしれない


「それだけなのか」


「そうだな」


 酒を美味しそうに飲むイバラキ、それをみて風華も酒をのんだ。あの時と同じ酒なのにどこか違ってた。二人は夜遅くまで店にいた。

 ここは夢幻のまち、行き場をなくしたもの 不要となったものがくる世界。

 しかしどんな場所にも希望はあり楽しみもある。今を生きるのに大切なのは自分の気持ちなのかもしれない。

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