第6話 月の願い

 ―――夜の管理所 

 本来なら静かな管理所であるが今日は違った。ドタドタと騒がしい足音叫び声が管理所に響く。


「どこへ行った!!?」


「早く見つけろーッ」


 現在、管理所は不審侵入者によって大騒ぎであった。一人の職員が他の職員に伝える。


「奴は保管室から出てきたぞっー」


「何だってーっ」


「ま、不味い!!」


 職員達は心底焦った。保管室には特殊兵器、エルカード、マジックアイテムなどの危険物があり持ち出されたと考えたからだ。


「奴を絶対捕まえろーッ!」


 追いかける者達の足音が建物内に響く。侵入者はある部屋に逃げ込んだ。その部屋の扉には所長室と書かれてあった。職員が驚きの声を荒げた。


「やべーぞッ奴は所長室に行っちまったぞッ」


 現在、アサキシは診療所に行っており、この場にはいない。しかし職員たちはもし部屋が荒らされたのなら … そう考えただけで青ざめた。職員たちにとってアサキシは頼もしくあり恐ろしくもあるのだ。


「いやッ所長室は窓があるがッ!!ここは三階、そこで行き止まりだッーーーー」


 言葉を発して、扉を勢いよく開ける職員達。扉が開く音で侵入者は振り向いた。侵入者は人の姿をしていたが頭には兎耳が生えていた。人では無かった。


「もう逃げられんぞッ!」


「今だ!取り押さえろッー」


 職員たちは襲い掛かった。だが侵入者は光る玉を取り出し、窓から飛び降りた。そして一筋の光になって月へ飛んだ。部屋には職員達だけになった。


「何ものなんだ…」


職員達はただ困惑した。 


―――


 ―――昼 人里


 白いジャケットとに黒いスカートをはいた黒髪の少女、了は鍛冶屋にいた。

 この鍛冶屋は管理所公認で武器の製造が認められている。


「どうです。注文の品はできてますか」


 私の呼びかけに奥から、片目を隠し、赤い手ぬぐいを首に巻いた男装の少女が剣を携えて来た。


「できてますよ、はい」


「ありがとう。小鉄さん」


 小鉄から剣を受け取り状態を見る。剣は刃がなく実質鈍器に近いものであった。了は出来に満足した。それを見て、小鉄が刃の無い剣なんて頼まれたのは初めてだと了に言う。


「私はこれでいいのさ。刃があれば余計傷つけてしまうだろ」


「いや、十分危険ですよ…しかしなんでそんな物注文したんですか?私としては仕事が来て嬉しいですけど」


「まあ色々あってな剣を持つことにしたんだ」


 了は葉月との戦いの事を思い出す。武器が無くてえらく不便だった。剣を持つことで闘いの幅が広がるだろう。小鉄はその言葉に納得したのか頷き、納得した。


「そうですか。今日は他にご予定でも?」


「ああ、管理所に呼ばれてね」


「管理所ですか。昨日大変でしたものね…」


「?じゃあ行ってくるよ」


 小鉄の含みのある言葉に不思議に思いながらも、謝辞を述べ、了は店を出た。


―――


管理室 所長室

 コンコン、了はノックをし中に入る。


「失礼するぜ」


「ようこそ」


 了を迎えたのは青と白の袴を着た、アサキシである。彼女は了を見るや否や、話し始めた。


「さて、早速だが要件を話そう。管理所が昨日の夜、何者かによって侵入された」


「!怪我人は出たのか?」


 了は侵入者がここに入った事に驚き、負傷者が出たのかと心配する。また小鉄の言葉の含みがこの事件に関してのモノだと分かった。アサキシは首を振り否定する。了は負傷者が出てないことで、安どのため息を吐いた。しかし、アサキシの顔は険しい。


「出てはいないが、もっとひどくてな保管していたエルカードが盗まれた」


 エルカード、所有者に力を与える道具で、使い方によっては、大変な凶器に変わる。それが盗まれたのだ。了は今回の事件は深刻なものだと判断した。


「…犯人の目星はついているのか」


「ああついている。犯人はこの世界の者では無い。おそらく兎の妖怪で、月に関係するものだ」


「本当かよそれ…」


 深刻なモノと考えていたため、月の関するものと言うアサキシの言葉に思わず、疑いの目を向けたが、アサキシは本当の事だと返した。今一信じられないが、何故呼んだかについて尋ねる。


「エルカードの奪還だ。月にあれば月に行け」


 アサキシの言葉に了は思わず渋い顔をする。いきなり月に行け等言われたら、こうもなるだろう。アサキシは構わず話続ける。


「もちろん。奴らの仲間と思わしき者が潜伏している場所を見つけた」


「…私の他に行った奴はいるのか」


「菫すみれの奴が少し前に向かったよ」


 菫、了はその名前を聞き肩を落とした。彼女はやりすぎる傾向にある。


「そうか。行ってくる」


「受けてくれるのか。期待して待っているよ」


 アサキシの頼みを聞き部屋から退出しようと 扉に手をかけ出ようとした時、廊下から声が響いて聞こえた。誰かが無理にこちらへ、向かってきている様だ。


「申し訳ありませんが、今来客中でございまして…」


「私は今部屋にいる奴アサキシのことを知っている。問題ない」


 その言葉と共に扉が開けられた。目の前に現れたのは、刀を携えたポニーテールの少女、葉月であった。葉月を見て了は驚く。


「お前なんでここに!?」


「管理所が襲われたと噂を聞いてな。もしかすると妖怪の仕業と考え私も力になろうと考えここに来た」


 慌ててる了に対し、一方的に話をする葉月。おもわず葉月に対して文句を言おうとしたがアサキシが制した。

「うむ。封魔の者がいれば今回の事件早期解決するかもしれん。了と一緒に頼むよ」


 アサキシの言葉に軽く頭を下げる葉月。了はどうにでもなーれとなり、流れに身を委ねることにした。


―――


 了と葉月は管理所を出て、アサキシに教えられた場所、暗闇の森にいる。この森のどこかに侵入者の仲間がいるとされている。その仲間を探している途中、了は葉月に話しかけた。


「葉月お前は犯人が妖怪だったら殺すのか」


「そうだ。妖怪はすべて消えてしまえばいい」


 葉月の言葉には妖怪に対しての怒りが込められていた。


「…お前が妖怪に対して深い怒りを持っているのは知っている。でもな妖怪にも良い奴がいるんだ」


「そんな奴はいない」


 葉月はバッサリと切り捨てる。そう、うまくは納得はできないと思っているのだろうか。


「なあ、私とお前が戦った時の事を覚えているよな」


「忌まわしい記憶だ」


 問いかけに、葉月は苦虫を噛んだ顔になる。負けたことがよほど悔しかったのだろう。


「あの時お前は私の攻撃を受け、瀕死だったよな」


「ふん、あのとき殺しとけばよかったはずだ。何故助けた」


「私も助けるかどうか考え、襲われた奴に聞いた。そいつは、ムクは助けたいと言い助けた」


 葉月は困惑した。殺そうとした者に助けられたからだ。


「なぜそんなことを言ったんだ・・・」


「ムクはお前のことを友人だと思ってたからだ。殺されそうになったにもかかわらずな」


「…」


「葉月、お前が妖怪を憎む気持ちは分かる。だがな一度は妖怪に命を助けられたんだ。だからな一度くらいは妖怪を助けたらどうだ」


「…」


 了の言葉に葉月は何も言わず森の中を進む。


―――


 了と葉月は開けた場所にたどり着いた。そこには誰かいた痕跡があった。


「おそらく、ここらへんにいるだろう」


 葉月はあたりを見渡し気配を探る。


「わかるのか?」


「ああ。封魔に居たから、妖怪の気配がわかるんだよ…近くにいるぞ」


 葉月は刀を構え警戒する。葉月の言葉に私もカードを取り出た。居ることがばれたと思ったのか茂みの中から兎の耳を生やした人のような妖怪が二人、叫びながら飛び出してきた。


「先ほどの恨みーーー」


「喰らえやけがれ人ーーーー」


 戦いが始まった。


 ……… 数分後


「どうか命だけはご容赦を…」


「私らを助ける権利をやろう!!」


 涙を流し、命乞いをする二人の妖怪がいた。了は何とか落ち着かせ話を聞く。


「お前たちはどこから来た?」


 了の問いかけに口をもごもごさせながら「「月から」」と答えた。どうやら言いずらいことだったらしい。まあ月から来たなんて言えばおかしな奴らされるため、無理もない。やはりと言うべきかその答えを信じず葉月は怒り刀を向ける。


「月からだと嘘言うな!!」


「本当ですって…」


「本当だとも!!」


「落ち着け葉月この期において、嘘言う奴なんていないだろ。 お前たちは何者でどうして来た?」


「私たちは月の都に住む月兎と呼ばれるもので…」


「ある方の命でここに来た!!」


「ある方とは誰だ。なぜエルカードを盗んだ。あとけがれ人ってなんだ」


 葉月は刀を構え、脅しながら聞く。そのせい声が小さい方の一人がおいおいと泣き出してしまった。


「怖いよ…」


「泣かすなよ!!」


 もう一人のうるさい方の月兎は、葉月に抗議する。再び、何とか泣き止ませ話を聞く。了は泣き止ませている途中、何をやっているんだろうと謎の感情が浮かんだ。泣き止ませた甲斐あってか、声が小さい方は、了に対して心を少し開いたのか、話してくれる。


「名は言えませんがある方がエルカードなる物がこの夢幻のまちにあるから持ってきてほしいと…」


けがれとは生きる上で殺生をしたり、老いたりする者や罪を持つ事を受け入れた者の事だぞ!!」


 うるさい方の月兎が補足する。先ほどまで葉月を睨んでいたが、葉月が恐ろしくなって了の方を見るようになった。うるさい方の補足に頷く片割れ。


「穢れ《けが》人とはそういった人達のことを指します…はい…」


「なるほど…しかし生きる上で殺したり老いたりすることは普通ではないか」


 了の言葉にそんな考えだからと否定する月兎。


「それは穢れた地にいる者の言い分だぞ!!月は穢れてなく心穏やかに暮らせるぞ!!」


「ある方は夢幻のまちは最も穢れた場所でエルカードがそんな場所にあってはもったいないと…」


「前から夢幻のまちの事は知ってたのか」


 了の言葉にうなずく月兎。


「昔から夢幻のまちの存在は認知していましたが、最も穢れた地で接触してはならないと自分も穢れるらしいからと、今回はこの穢れたちにふさわしくない宝があると知り…」


「それで盗んだのか、お前たち月に住んでるやつらロクでもないな」


 葉月が口を挟む、その言葉に月兎のうるさい方が反論する。


「そんなことないぞ!!月は清らかなものしかいないぞ!!」


「なのに穢れている地には勿体無いという理由だけで盗んだ。やっていることは蛮族だな。輝夜姫もそりゃ戻りたくないと言うものだな」


「何だと!!」


 葉月の言葉に月兎のうるさい方がより声を荒げた。月に住むものとして彼女らにも多少の優越感、プライドがあるのだろう。声の小さい方の月兎がうなだれるように話す。


「輝夜様のときは大変でしたよ…」


「…輝夜姫の例えは冗談で言ったんだがな本当に月からか…」


 葉月は少し驚いた。幼少のときに聞いた物語の人物の名が出たからだ。了は、しかしなぜ、お前たちは帰らないのかと尋ねる。


「お前たちはどうして此処にいる?。盗んだ奴と一緒に月に帰ればよかったのに」


「私たちはこの夢幻のまちの調査を命じられたんです…」


「それにさっき変な機械にのった穢れ人に、月に帰る装置を無理やり使われてな!!今、月へ帰るまでの力がたまっていないのだ!!」

 そう言い光る玉を取り出し、了の問いに月兎が答えた。了は月兎が言った変な機械に乗った穢れ人について、思い当たる者が居た。


「変な機械に乗った穢れ人とは菫の事かな」


「菫、誰だそれ?」


 葉月は了の呟きを聞き不思議がり、説明を求めた。


「管理所で働いている奴で私と同じく、もめ事を解決する仕事をしている。特殊兵器をつかってな。乗っていたのはバイクという乗り物だ」


「バイク…」


 葉月は菫が乗っている乗り物を知らないため、首を傾げる。私は自転車に似た機械と説明した。葉月はそれを聞き、納得した。


「そうか。頼もしいな」


 そんな葉月の言葉を首を振り否定する。


「菫は自分以外が嫌いだしバカにして笑う奴だ。常識外の事はもっと嫌いで、何よりやり過ぎる奴だ。月で何しでかすか分からん」


 私は友人に対して、少し言い過ぎたかも知れないが、以前起きた事件を解決する際、必要以上な手荒な真似を菫は行った。


「そんな人が月の都に…」


「やべーぞ!!」


 月兎は話を聞き怯える。そんな月兎達に了は何とかすると安心させた。


「だがな、エルカードの事もあるからな、盗んで来いと命じたお方とやらに文句ぐらいは言わせてもらうぜ」


 そして月に連れて行けと月兎に言う。月兎は少し考え月の事を思い、了と葉月を月に送ることにした。

エネルギーの問題は葉月の霊力がエネルギーの代わりになった。二人は月兎から光る玉を受け取り使い方を教わり、起動させた。二人は光に包まれた。

――――



 ―――月

 二人は気がつくと四角い壁に囲まれた中華風の古都の大通りにいた。道の脇に生えている木々には美しい金銀の美しい果物らしきものがなっていた。しかしそれだけであった。都は不思議と明るかったが余りにも静かで、住む者の気配が感じられなかった。都は静寂に包まれていた。


 了は本当に月に来たのかと空を見上げる。しかし 空には星々が無かった。ここが月ならば、地球という星や輝く星が見えるハズである。


「ここは本当に月の都なのか?」


そんな疑問が脳裏によぎる。葉月はボーっとしていた。何かあったのかと思い、葉月に声をかける。


「おい、葉月どうした」


「い、いやなんでもない」


 了の言葉に葉月はハッとした。葉月は自分が月にいる事が信じられなかったのだ。夜空に輝くあの月に。了は葉月にどう行動するか話す。


「葉月、とりあえず二手に分かれよう。ここは意外にも広い。1時間経ったらここに戻ろう」


「わかった」


「それにエルカード及び菫を発見したら連れて戻ってくること。いいな」


「ああ」


「じゃ行くか」


二人は都を駆けた。


――――


 葉月は都の壁沿いを走っていた。

 しかしここが月だなんてな。

 葉月は走りながら思いを巡らせていた。幼いころから空にあった月、そこにいるのだ。葉月は少し笑みを浮かべた。その時。


「ぎゃあああああああああああああああ」


 誰かの悲鳴が聞こえた。葉月は何事かと思い、声がした方に急いだ。悲鳴がした場所にたどり着くとそこには、月兎らしき者が見たことない白色の機械鎧パワードスーツを全身に着た者に甚振られている場面だった。その近くには自転車に似た機械バイクがあった。


「おいお前何している!!」


 葉月は臆せず話しかける。機械鎧は葉月の方に振き相手をする。


「何だお前、月の者じゃねーな」


 年若い女の声であった。葉月は相手が正体不明の怪物でない事に安心した。


「私は管理所からの命で夢幻のまちから来た、封魔の者だ」


「そーかい遠路はるばるご苦労さん」


 機械鎧は葉月を茶化す。葉月は機械鎧によって顔が確認できないが一応、菫かどうか確認する。


「お前、もしや菫か、特殊兵器を使う」


「そうだけど、お前誰よ?」


 菫であることを確認し、今、何をしているか尋ねた。葉月は襲われている月兎を見る。月兎の口からは大量の血と歯の欠片が出ていた。足には蹴られた跡が青くなって残っている。


「何って、殴ってんだよこいつらきもいし」


「!?」


「だってよ、こいつら月の奴らは私たちの事を最も穢れた地に住まう穢れ人て見下しているんでね。そんな奴らが月にいて、私たちは、それを見ていた何て、ぞっとするぜ」


 菫は月兎を蹴る。月兎は悲痛の声を漏らす。月兎の顔は恐怖と血と涙が混じっていた。


「しかもこいつから襲いに来たんだぜ穢れ人めーってね。さらにこいつが盗んだ犯人だと言う。殴る蹴る権利はあるね」


 更に月兎を踏みつける。月兎は痛みによって叫ぶ。


「ぎゃあああああああ!!」


「やめろッ!」


 月兎への余りにもやり過ぎた暴行を見て思わず、声をかける。しかし菫は止めようとした葉月に対し、何を言っているんだと言った反応をする。


「止めろだと、封魔なんだろお前。ならこいつを甚振って殺そうぜ。こんな不快極まりない生ものを」


 葉月は封魔と呼ばれ、言葉に詰まる。


「助けて…助けて…」


 月兎は葉月を見て何度も懇願する。菫はそれを見て助けるわけないと囁く。


「なあ、どうする?」


「私は…」


 月兎を見る。そして脳裏に了の言葉がよぎる。一度くらいは助けたらどうだと言う言葉が。

 葉月の沈黙にイライラしている菫。


「どうすんだよ」


「…だけ」


「なんつった?」


「一度だけだッ!」


「あ~?」


 菫は言葉の意味が怪訝な顔になる。葉月は月兎に向かい叫ぶ。


「一度だけッ助けてやるッ」


 言葉と共に菫に上段斬りを仕掛ける。

 菫は悪態をつき、月兎を放置し後方へジャンプし回避する。葉月の行動に菫は怒っていた。


「何なんだテメェはよ!!」


「うるせーうるせー!!」


 葉月は月兎に向かって逃げろと指示した。月兎は感謝の言葉をかけ、遠くへ逃げた。場には葉月と菫だけになった。菫は葉月に問いかける。


「なあテメェ、封魔の者なんだろなぜ逃がした」


「わけがある」


「わけね…フンッ封魔の奴らはイカレてるからな、それでか」


 菫の挑発的な発言は葉月をイラつかせた。

「だってそうだろ、不確かな妖怪なんて存在と戦っている何て、傍から見たら滑稽だぜ」


「貴様ァ」


「で今は仲良しこよしなんて、可笑しいよな」


「私は違う!妖怪なんて滅べばいい!!」


「でも今助けたァ」


「グググ」


 葉月は歯噛みした。菫の挑発は続く。


「封魔の奴らは親しい奴らが殺された者たちが、殆どなんだろ。死んだ奴らが報われないよな」


「それ以上言うなッー!!!!」


 葉月は攻撃を仕掛けるも菫はそれを避ける。そして葉月から離れ再び話しかけた。


「お前、妖怪はどんな存在だと考えてるか、もう一度教えてくれよ」


「要らない奴らだッ!!!」


 葉月は怒りを含め答える。菫は笑い、言葉を発する。


「だったら、要らない奴らに殺された奴は大したことないゴミってことだよなァ」


 葉月はこの言葉で激怒した。


「オオオオオオ」


 葉月は雄叫びを上げ、菫に向かい駆ける。それは葉月が想定した速さより上であった。


「クソッ!」


「デャ嗚呼アアアアアアアアアアアア」


 菫の体を斜め右に斬る。ギャンという音と火花が散った。鎧は切断までいかなかったが大きな斬り傷ができた。菫は驚愕した


「嘘だろ!?」


「まだだっ!」


 葉月は装甲が薄い関節部分を狙い斬ろうとする。その時。


〔オートモード〕


 謎の音声共に菫が葉月の間合いから遠くへ一人でに吹っ飛んだ。菫は急な動きによって発生した衝撃によってダメージを負う。それにより一瞬だけ動きが止まる。


「何だ今のは!?」


 葉月は菫の行動に頭が冷え、警戒しつつ刀を向ける。


「クソックソ」


 菫は内心悪態をつく。

 本来なら逆上させて隙を作り一撃で終わらせるつもりだったが、考えがあまかったな。

  菫は立ち上がり腕につけてあるタッチパネルを操作する。そして音と共にバイクが菫に向かい自動でやって来た。菫はバイクに設置されているブレードを取り出し、地面を斬りつけ、葉月を見る。


「さっきまでは、気絶程度許してやったが・・・ぶっ殺してやるよ」


 菫は葉月に対して明確な殺意をぶつけた。私にはパワードスーツの特殊機能の自動回避機能がある。いくら封魔であろうとな。菫は勝利を確信した。

 葉月は刀を構えつつジリジリと距離を詰める。菫も葉月に向かい歩を進める。やがて両者の間合いに入った。


「チィ!」


 刀を先に振りかざしたのは葉月だ。あまりの速さで菫は対処できない。そう菫は・・・


〔オートモード〕


 菫の鎧は菫の体を急速に動かし、紙一重で避ける。


「グギャアッ」


 菫はその分のダメージを受けたが、葉月の隙は作れた。そして逃さずブレードを叩き付けた。機械鎧パワードスーツもあって人間以上の力が出せる。普通の人間なら一刀両断だ。


「ガアアアアアッ」


 しかし、葉月は切断されなかった。なぜなら月に行く前に用心して服に結界を施していたのだ。それにより、地に伏せるだけですんだ。しかし菫の追撃は続く。


「オアアッ!!」


 菫は葉月の腹を蹴とばそうとする。が、その瞬間葉月は札ふだを投げ、菫に向かって投げる。普通ならば、攻撃中に受ける攻撃は回避することが困難である。しかし。


〔オートモード〕


 体を僅かにズラされ、簡単に避けられてしまった。菫の蹴りが葉月の腹に直撃し、葉月は蹴とばされてしまう。 葉月は勢いよく吹っ飛び壁に激突した。葉月の血が壁に彩られ、地に倒れる。

 菫は攻撃を避けることが出来たが、無傷とは言えず、自動回避によって苦痛の声を上げる。


「…」


 葉月は倒れながらも考えを巡らせた。

 どうして避けられる。オートモードとやらの力か、しかし奴はそれを使うとそれの代償か動きが鈍くなる。現に奴は私に追撃ができたはずだがしてこない。菫は私を蹴とばした位置に止とどまっている。やはり使う度、体に負担をかけてしまうのか。

 葉月は刀を杖にし立ち上がる。


「イライラさせやがる…」


 葉月が立ち上がるの見て菫は少し焦り始める。 

 封魔の奴まだ生きてたのか … 私は自動回避のおかげで体の負担がひどい、次で決着をつける。自動回避はあと一回だけだ。


 菫の考えをよそに、葉月は刀を鞘にしまい、さらに札を貼り付ける。札の力と霊力のによって、刀は雷を帯びていく。葉月は呟く。


「勝機は…ある」


「クソクソが、イライラさせやがるなァ」


 葉月の行動に心底苛立つ菫。しかし菫にも勝算はある。

 居合切りを狙っているが私には自動回避がある。避けてぶっ殺してやる。

 菫は葉月に向かい走った。パワードスーツのおかげで人間以上の速さだ。


「…」


 葉月は構えを保ち、無心になっている。そして両者はデッドゾーンに入った。


「…!」


 鞘から刀が引き出される。

 勝った!菫は心の底から思った。しかし刀は菫を襲わなかった。襲ったのは雷の光であった。


〔オートモード〕


 光を攻撃と誤認識し回避行動をとってしまう。そして肉体にダメージを受ける。菫は罠に仕掛けられたことに気付いた。


「しまったッ!!!」


 次の瞬間、襲ったのは光で無く刃であった。


 ギギギギギギギ…キン


 音を立て火花が散った。葉月は菫の体を真一文字に斬った。


「ガア嗚呼ああーー!!!」


 菫はうめき声を上げやがて倒れた。


〔武装解除〕


 装甲は切り裂かれ、鎧は音声と共に消えた。中から現れたのは黒髪に金髪が混ざった少女であった。菫は死ななかったが痛みによって気絶している。葉月もまた戦いの疲れからか地面に腰を下ろす。


「あとは、了にまかせるか」


―――


 そのころ、了は宮殿らしき建物にいた。


「誰もいないのか」


 さきほどから探索しているが、人っ子一人いやしない。


「ん、なんだこれ」


 了が見つけたのは大きく描かれた絵画であった。読み込んでみると何処かの国の女性が何かを飲みそれによって月にいるらしい。


「私は馬鹿だからこれ以上は分からんな。しかしこんな物誰が…」


ゲコ・・ゲコ・・ゲコ


 不意に後ろからカエルの鳴き声が聞こえた。何故月にカエルの鳴き声が聞こえたのか、驚きと共に振り向くとまさしく、一匹のカエルが居た。私はは驚き、カエルを凝視する。


「!?エルカードッ」


 カエルはエルカードを銜えていた。しかも盗まれたカードであった。


<ヒューマン>


 カエルはエルカードを使用した。すると辺り一面光が走った。たまらず目を閉じる。やがて光が止み目を開けるとそこには、美しい黒髪、透き通った肌そして高貴な身分でしか着れない衣装、絶世の美女がそこにいた。私は困惑しながらの話しかける。


「何なんだお前、カエルの精霊か」


「違います。私の名は嫦娥じょうが。月を表す者」

 嫦娥とは中国神話に登場する伝説上の人物である。了はこの事は知らない。


「表す者…」

 私はいぶかしんだ。嫦娥は話始める。


「その昔、私はある事によって不死の霊薬を飲みました。それにより生と死の穢れから解き放たれました。しかし私が薬を飲んだ罪は重く、蝦蟇カエルさせられました」


 ホホホと笑い口を隠す。


「そして私は、月の内側に身を寄せました。カエルになる前に都を建設で来ててよかったです」


「ここは月の内側だったのか。どおりで星が見えないわけだ」


「カエルにされ、失意の日々しかし希望が生まれました」


「エルカードか」


「そうエルカード」


 嫦娥はニコニコしている。この笑顔を男性が見れば間違いなく彼女に味方するだろう。しかし了は女、どこでそれを知ったと、冷静に尋ねる。すると嫦娥はここでと返す。そんなわけあるかと了は否定した。

しかし、嫦娥は本当のことですと、言う。そして語り始めた。


「本当ですよ。いつものように涙でくれた日々を送っていると、目の前にあとじと名乗る方が現れました。」


「何!?」


 あとじの名が出たことで、奴は月にさえ、現れるのかと了は、大変驚いた、

 了の驚きを無視し、あとじについて語る嫦娥。


「彼女は私にエルカードの力をみせ、そしてカエルから人間へ戻るカードがあると言いました。そしてそれがある地、夢幻のまちにあるとね」


「それで月兎に盗ませたたのか」


「ええ、私を憐れんで手伝ってくれる子たち」


 目を細める嫦娥、恩を感じていた。


「なぜこの都に人がいる気配がない」


「穢れ人を嫌って建物に結界を張り閉じ籠っちゃったのよ。私はいいけどね。貴方達には都合が良かったわね」


「ふーんそっか、嫦娥、エルカードは私たちの世界の物だ。返して貰いたい」


「聞こえ無いわ。穢れた者の言葉なんて」


「何だと」


 嫦娥は侮蔑を含んだ声で拒否した。嫦娥の態度の了も険しい顔になる。嫦娥は手に持つエルカードを見ながら話す。


「夢幻のまち、そこは掃きだめが集まる世界。そんな所にこんな素晴らしい物があるなんて、それだけで罪よ、だから…」


「渡さないと言うわけか」


「勿体無いもの、私が持ってなきゃね」


 両者の間に、不穏な空気が漂った。


「なら力づくで取り返すぜ!それと言葉の撤回もな!」


 了は剣を構え、襲いかかる。しかし嫦娥、余裕の表情である。


「あら、怖い」


 嫦娥は斬撃を宙に浮き躱し、そして宮殿から空に向かって、飛び出す。嫦娥はやがて、古都を見渡せる位置に来た。


「やはり、人の姿は良いわ。自分が素晴らしい存在だと分かるもの」


 嫦娥はそのまま古都を見渡した。しかし、エルカード<グリフォン>の力で翼を生やした了が嫦娥に対して、突撃を仕掛ける。嫦娥は了が翼を生やしたことに、まるで催物を見るかの驚いた。


「あら、貴方、妖怪だったの」


「返せッ!!」


 了はスピードを出しキックを放つ。しかし嫦娥はそれをヒラリと難なく避ける。


「私が参ったと言えば返してあげるわ」


「そうかいッ!」


 了は反転し剣をでの攻撃を試みた。嫦娥は笑みを浮かべ迎え撃つ。剣は先ほどとは違い、嫦娥の頭を砕いた。顔は粉砕され血が飛び散る。了は思わず、


「やりすぎたか!?」


 そんな言葉と裏腹にまだ終わっていないという気持ちであった。そしてそれは正しかった。


「!!」


 嫦娥の頭は一瞬で元に戻ったのだ。了は驚愕し、嫦娥はそれが見たかったと言わんばかりの表情を見せる。


「言ってなかったかしら、私は不死なのよ」


「そうだったなあクソ!」


 悪態をつく了を笑いながら、嫦娥は服の袖から新たにカードを取り出す。


<ガルーダ> 炎の翼を得る 

 カードが発動したと共に嫦娥の体が炎と共に爆ぜた。そして再生する。


「うおおおおお!?」


 了は爆風によって地面に叩きつけられる。了は飛んでいる嫦娥を睨む。


「グウ。それは盗んだカードじゃないな」


「ええ、あとじにもらったのよ防犯用としてね」


 嫦娥の背には光り輝く炎の翼が存在した。了はその姿を嫦娥の容姿もあってか美しいと一瞬だが思った。しかしその考えはすぐさま消え去り、戦いの思考へ戻る。了は再び空を飛び嫦娥に接近する。先ほどと変わらぬ攻撃と判断した嫦娥はつまらなそうに言葉を発する。


「バカな子」


 嫦娥は炎の翼を使い炎風を起こし、自らを守る。しかし了は嫦娥の言葉を否定する。


「そうかな」


 了は新たにカードを発動する。<フェイク>翼は消えるが勢いのまま突撃する。了は二人に分身した。そして分身を盾にし、炎風を防ぐ。さらに分身を踏み台にし、嫦娥に迫る。流石の嫦娥もこれには目を剥く。


「デヤーーーーー!!」


 剣を左手で逆手に持ち、了は嫦娥の頭に突き刺した。剣は嫦娥の頭を貫通している。しかし嫦娥は死なず、余裕を保っている。


「無意味なことをッ!!」


「意味はあるさッ!!」


<ドラゴン>


 分身を消し新たにカードを発動した。剣を持ってない右手にドラゴンガンドレッドが出現。

 再生中の嫦娥の腹を右手で殴りそして、ドラゴンの口が開き食らいついた。嫦娥の腹は食い破られてしまった。


「グ…」


 嫦娥はイヤの予感を感じ何とか離そうとするが剣とガンドレッドが離れさせない。


「炎でなら!」


 嫦娥は爆風によって引きはがそうとしたが火の勢いが弱くなっており、出来なかった。


「な、なぜ!?」


「悪いな。ドラゴンの力は水を操るそれに…」


「?…ゴバア!?!」


 嫦娥の口から大量の水が吐き出た。ドラゴンの口から大量の水弾を撃ち込んでいたのだ。不死者故の慢心だった。嫦娥は劣勢に追い込まれた。


「落ちろッー!!」


 了は嫦娥を下にし地面へと落ちる。嫦娥は空に飛ぼうとしても大量の水によって意識が集中できない。

そして地面に落ちた。嫦娥の体は落下のダメージで凄惨な状態になっている。しかし嫦娥は不老不死、再生していく。


「これで終わりだ」


 了は再生していく嫦娥の体に大量の水弾を送り込む。これによりいくら再生しても水による溺死、大量の水による内臓圧迫からの内臓破裂。

 そして大量の水による再生の阻害。嫦娥はもはや身動きが取れなかった。了は嫦娥に問いかける。


「嫦娥、何か言いたいことはあるか」


「参ったわ…ごめんなさい」


 それを聞き了は剣を引き抜き、カードも解除した。了は立ち上がり服の汚れを払った。


ぐす…グス


「ん?」


 了は嫦娥を見た。嫦娥は大粒の涙を流していた。


「せっかく人に…戻れたのに…」


「…」


 了はそれを見て少し考える。そして嫦娥に提案した。


――――


 夢幻のまち 暗闇の森


「どうなるかな…」


「さあ!!」


 月兎たちは空を眺めながら時間をつぶしていた。途中、人狼やろくろ首にあったが何とか元気にしていた。

「早く帰りたいな…」


「そうだな!!」


「少しまってくれないかしら?」


 月兎たちは突然の声に驚いた。声の方に向くとそこには了、葉月、菫、嫦娥がいた。驚きで声を上げる。


「嫦娥様なぜここに!!」


「少し話がありましてね」


 嫦娥の様子は落ち着いてた。月兎たちは嫦娥に何もなかったことを安堵した。隣にいる了は葉月の怪我について尋ねる。


「なあ葉月その怪我って」


「ああ菫と戦った」


 了の言葉に葉月はバイクの上で気絶している菫を指さす。

「助けた月兎が怪我の手当てをしてくれた」


 葉月の体には包帯がまかれていた。了はそうかと答えると、葉月は、だが妖怪すべてに気を許したわけではないと、ぶっきらぼうに話す。葉月はそう言うが妖怪を助けたことが、了にとって嬉しかった。もしかしたら、葉月は妖怪を許し、少しでも歩み寄れれば、ムクとの関係も良くなるだろうから。


「私を半殺しにしておいてかあ?」


 話している横で目を覚ました菫が茶々を入れる。


「まあ、お前はやり過ぎたみたいだし」


 了はそう言って菫をなだめる。そして嫦娥の方を見る。


「では嫦娥さん管理所へ行きましょうか」


――――


 管理所 所長室

 了と嫦娥が今回の騒動を話した。アサキシは黙って聞いている。


「それが嫦娥さんが盗んだ理由ですか」


 アサキシは口を開き納得する。嫦娥はその言葉に肯定し、頭を下げる。


「何のつもりですか」


 頭を下げる嫦娥にアサキシは冷たく言い放つ。


「どうか、ヒューマンのエルカードを譲ってくだいませんか。勿論ただとは言いません」


「なんだと」


「それは月の情報・技術の一部提供そして友好です」


「ふん。悪くはないな」


 嫦娥の言葉に思案するアサキシ。


「望むものは人になるエルカードだけです」


心からの願いだった。アサキシは少しの沈黙の後、


「…分かった、譲渡しよう」


 譲り渡すことに決めた。嫦娥はその言葉に喜びの声を上げた。


―――


 その後

 嫦娥と月兎は月に帰った。そのうちまた来たいとのことだ。葉月と菫は診療所に通院することになった。怪我がひどかったらしい。

 夜

 私は月を眺める。


「月の内側といえど、あそこに行ったんだよな」


夜の空に浮かぶ、月を見つめる。月は変わらず美しくあった。

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