第170話 06.別の世界

「ど、どういう事でしょう、これは。」


 ゲールノートはしりもちをつき、魔法陣の真ん中の煙を見ながらほうけていた。


「だから言っただろ!別の世界に飛ばされてしまう恐ろしい魔術だと!


 国の王子が今二人とも行方不明なんだぞ!」


「ま、まさか本当にこうなるとは…。」


 ゲールノートは信じられないみたいで、周りの草むらなどを探し回っていたが、王子たちを見つける事は出来なかった。


 あたりまえだ!


 二人は別世界に行ってしまったのだから!



「もどって来ますかね?」


「知るか!」



 私たちはその場で途方に暮れた。


 戻ってくるとしたら、消えたこの場所なのだろうとは思う…。


 完全な予想だけど…。



 なすすべもなく、ゲールノートと二人で焚き火を囲んで、夜が明けるのを待つしかない。


「彼らは帰ってきますよ。きっと。」


「な、何を根拠に?」


「この魔術を使うと、別世界に行ってしまうという記述が魔術書にあるのですよね?


 つまり帰ってきた人がいるから、記述されているのです。


 帰って来た人がいなかったら、別世界なる存在も分からないではないですか。」


 確かに…そうだけど…。


 

 でも、今の私たちができるのは、ただ待つ事だけ。


 帰ってるかもしれないけど、それがいつかも分からない。


 今はレオンハルト王国の森の中だし、いったん朝になるのを待つしかない…。


 朝になっても戻らなかったらどうしよう…。


 

 あぁ、私はなんと愚かな事をしてしまったんだ!


 自分で自分が心底嫌になる。



 朝、日が昇った。


 ふと目を開けると、目の前にディートとアクセルが倒れていた。


「ディート!アクセル!」


 私は二人を激しく揺さぶった。


 生きてる?生きてる?何ともない?


 二人は目を覚ました。


「あぁ、マルゲか。床に寝たからか体が痛いな。」


「いててて、おはよう。」


 二人とも、どうやら何とも無さそう。


「あんたたち、馬鹿じゃないの!私がどれだけ心配したと思ってるんだ!


 だから危険な魔術って言ったじゃないか!」


 私は二人の肩を、ぶったたきながら、泣きじゃくりながら言った。


「ごめんよ。マルゲ」


 ディートが泣きじゃくる私を抱きしめた。


「ディートが、もういなくなったのかと思って…。」


 ディートの胸の中はあたたかい。よかった。


 暖かさが生きているって実感を与えてくれる。



「ごめん。マルゲ。君をあなどったいたよ。本当に別世界は存在するんだな…。」


 私が落ち着くと、二人は別世界、ニホンという国について話し始めた。


 町には土や木はほとんどなくて、夜光虫でも夜光草でもない光源があり、それが何色もあって街を輝かせていたそうだ。


 四角いものに車輪が4つついたものが、馬もなしで道を無数に走っているとの事だった。


 人々は、剣などの武器を装備している人は誰もおらず、手には10cmくらいの四角いものを皆手にして、ずっとそれを眺めている者、激しく画面を叩いている者、耳にあてて話している者、すごく不思議な光景だったそうだ。


 二人でぼーっと立っていると、体格のよい男が二人話しかけてきたそうで、ケーサツという職業の人だそうだ。


 ミブンショーやジューショなどという物を聞かれて、答えられずにいると、四角い箱に車輪が4つついたものに、乗せてくれたのだそうだ。


 馬よりもずっと速くて、かっこよかったと二人は興奮していた。


 その後は、檻に入れられて、ただ朝まですごしたとの事だった。


「別世界は存在するんだな…。」


「また行こうぜ!」


「絶対ダメ!


 待っている間、どんなに心配したかわかってんの!!!!」


 本当になんという事をしてしまったのだろう。


 私は馬鹿だ!激しく後悔した。


 やっぱりこの魔術書は、人目にさらしては絶対にいけない!


 

★★★


 何かがおかしい!と、ベルギウスは思った。


 これは、ヴァルプルギス村にあった禁忌の魔術書のことじゃないか?


 マリアンネがヴァルプルギス村から持ち出したはずだが、これではまるでマルゲリータが持ち出したようだ。


 なにか、すごく根本的なことをまちがっているような気がする…。



 それに、レオンハルト王(ディートリッヒ3世)と、コルネリア王(アクセル16世)も、この魔術を使ったことがあるなんて!!!


 そして僕たちの現実世界に来たことがあるとは!!!

 

 どおりで異世界の人間なのに、僕の話をすんなり受け入れるわけだ…。



 ちょっとまてよ、呪いによって消えた人を覚えている人は、僕、マルゲリータ、レオンハルト王、コルネリア王、この4人だけだった。


 なるほど、現実世界に行ったことがある人は、記憶が消えないのか。

 

 現実世界の存在を知っているから、現実世界と異世界を行き来している人の記憶が消えない…、そういう事か。

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