第162話 31. 伝説の勇者

 黒魔術デス、何回か壮太君やドミニクさんが死んでいるのをみて、痛そうだなって思ってた。


 だから、全身に力を入れて、丸まっていたのだけど…


 あれ?


 闇の精霊が来ない?


 私はそっと顔を上げて、あたりを見る。


 キラキラしたドーム型のバリアが私たち3人を囲っている…。


 これは??


「せ、聖なる剣だ!」


 エルフの誰かが叫ぶ。


 私の腰にある聖なる剣が、見たことないくらい輝いてバリアを張って守ってくれたのだ。


 ど、どういう事?


 聖なる剣の輝きが消え始めた。


 するとバリアも消え始めた。


「な、なぜ猫が聖なる剣を?!」


「あの聖なる剣は人間に盗まれたのではなかたのか!?」


「これがコルネリアの英雄、ベルギウス様の力なのでは?!」


「まさか、人間にこれだけの魔力があるわけがあるまい!」


「しかし聖なる剣が!」


 エルフ達は大混乱している。


「そなたたちの力はわかった。


 それだけの魔力の持ち主が、我らに攻撃しないとは、よっぽどの事情があると見た。


 一度話だけは聞こう。」


 一人のエルフが前に出て言った。


 あ、あれはこの村代々に伝わる、村長がもてる杖。


 あの人が村長さんなんだな。


 でも、私が生贄の儀式を受けたときの村長さんとは違う。


 お年で引退したのかな?


「しかし村長!獣など汚らわしいものが我が村に入るなど!」


「だまれ!これだけの魔力、我らに向けられたら、この村なんぞ一瞬で吹き飛ぶのがわからんのか!」


 今からは、丁重にもてなせ!無礼はゆるさん!」


 私自身にそんなに魔力はないのだけど、聖なる剣が私たちを守ってくれた。


●●●


 私たちは村長の家に連れていかれた。


「今までのご無礼をお許しください。」


 そういいながら、奥の部屋に案内される。


 忘れもしないこの部屋。


 真ん中に人が一人寝れるくらいの大きな石がある祭壇の部屋。


 間違いない、ここで生贄の儀式が行われた。


 あの冷たい石の感触、魂が体から強引にはがされるような、気持ち悪い感覚…。


 思い出してぞっとする。


 でも、私が生贄になたときは、何らかの手違いで、別の世界に飛ばされたんだと思う。


「フローマー様、どうしてあなたが聖なる剣をお持ちなのでしょうか。」


「にゃーにゃー。(答えてもいいけど、猫語、わからないでしょう?)」


「私たちにとっては、大変重要な事なのですが、猫族との会話はできないとは、なんとも不便な…。」


 こういうとき、ドミニクさんはあえて通訳しないところがさすがだと思う。


「その聖なる剣は、代々、我が村で守ってきたものでした。


 ところが数年前、突然人間が現れ、その剣を抜いて、姿を消してしまったのです。」


 そうか、そうだよね。


 私が勝手に持ち出したんだから、返さないと…。


 帰り道の戦闘は、ドミニクさんと、威力は弱いけどオステオスペルマムの剣でもなんとかやっていけると思う。


 私は聖なる剣を村長に差し出した。


「こ、この剣を返却するおつもりなのですか!?」


 村長はしげしげと聖なる剣を見つめて、そして剣を受け取らなかった。


「この聖なる剣は、フローマー様、あなたが持っているべきでしょう。


 さきほど聖なる剣によって、あなたは守られました。


 あなたは聖なる剣に選ばれたのです。


 あなたが伝説の勇者なのでしょう。


 我が村に伝わる伝説では、この世界がなんらかの危機に陥った時に、勇者が現れ、その剣を必要とするとの事なんです。


 もちろんその勇者はエルフだと語り継がれていたのですが…。」


 まぁ、私、エルフなんですけどね…。


 でも、いったい何と戦うために、私はこの剣を使うのだろう。


 ベルギウスが一歩前に出て、意を決したように話はじめた。


「村長様、お言葉ながら、今、コルネリアは大変な危機に陥っています。


 お耳に入っているとは思いますが、何らかの呪いによって、人々が消えつつあります!


 なぜ、猫のフローマーがこの剣を持ち歩いているのかはわかりませんが、僕は、偶然とは思えません。


 私は、コルネリア王、レオンハルト王から、その呪いの調査を求められており、このヴァルプルギス村まで、やってきたのです。


 どうか、知識を拝借させてください!」


「ベルギウス様、そういう事だったのですね。


 何も確認せず、先ほどは本当に失礼なことをしました。」


 ベルギウスは、杖と魔術書を村長の前に置いた。



 

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