第60話02.異世界へ転移〜魔法使いのおばさんに遭遇。モンスターより危険かも!?〜

 僕は歩けなくなってから何日も自分の部屋に閉じこもった。


 周囲に興味の目で見られるのが怖くて、自分の部屋から出られなかったのだ。


 どんなに優しい言葉をかけられても、僕の不幸を喜んでいるように思えた。



 なのに、今は守ってくれる両親もいなくて、ひとりぽつんと、森の中にいた。


 自分の部屋にいたはずなのに…。


 正しく言うと、僕は一人で森の中に


 立っている?!

 歩けないはずの僕が?!


 信じられない想いにとらわれ、一歩、一歩、足を出してみる。


 歩ける!

 僕は歩ける!



 そうか、これは夢なんだ。


 夢の中でくらい、いっぱい立って歩こう!今のうちにいっぱい走っておこう!



 僕は久し振りに走った!


 風が顔に当たって気持ちいい。


 血が体を駆け巡るこの感じがたまらない。



 僕は走った!走った!走った!


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 森の中を思う存分に走ると草原に出た。


 シロツメクサがあたり一面に生い茂っていて、僕はその上に寝転がった。



 太陽の日差しも気持ちいい、青い空も気持ちいい。


 歩けるって素晴らしい。



「おや、君はもしかして、現実世界からきた人かな?」


 突然、見たことのないおばさんが僕の顔を覗き込んだ。



 全身紫色の布で体をすっぽり被い、まるで魔女みたいな感じだ。


 この年のおばさんでも仮装ってするんだ…。


 しかも、どでかい箒も持ってるし。


 掃除のおばちゃんなのかな?



「ここは昼間はそうでもないけど、夜になるとモンスターが出て危ない。


 とりあえず、うちに来ないかい?」


 夢の世界といえど、モンスターは怖い。


 でも、怪しげな知らないおばさんについていくのも怖い。



 モンスターとおばさん、どっちが危ないか…。


 おばさんの方が危ないな。きっと。


「は?知らないおばさんについていく訳ねーだろ。


 僕はあっちの方に用事があるんだ。僕に構うんじゃねーよ。」


「お前さん、いったい何を言っているんだね。


 この先はずーーーーーっと森だよ。


 なにもありゃしない。つべこべ言ってないで、後ろに乗りな。」


 後ろ?


 怪しげなおばさんは箒にまたがっている。


 ま、まさかと思うが、その箒の後ろ?


 おばさんは、両足を地面から離したけど、その場で浮いている!!!!



 ここは夢の世界に違いない。


 そして、僕は箒で空を飛んでみたいという興味心にそそられてしまった。


 モンスターより危険と思った怪しげなおばさんの箒にまたがった。


 箒はみるみる高度をあげ、あっという間に、森の木々よりも高くなった。


 箒の上はものすごく不安定で怖い。


「すぐに到着するから、しっかり私につかまってな。」


 おばさんに抱きつくなんて、おぇー…なんて思っている余裕はない。



 とにかくバランスがとりづらい。


 必死にしがみつくしかない。


 目をつぶった方が、動きがわからなくて危険だ。


 僕はしっかり目を開けて、おばさんにしがみついていた。



 箒で空を飛んだは良いが、バランスをとるのに必死で、落ちそうで怖くて、楽しむ事は全くできなかった。


 箒に乗ったのを後悔する。



 地面に到着して箒から降りた。


 緊張と恐怖で汗ビッショリだ。



「あっはっは!怖かったかい?男の子なのに情けないねぇ。」


 おばさんはマルゲリータと名乗った。


 顔はどう見たってアジア人だが…。


「ここが私のうちだよ。入りなさい。」


 すごい豪邸だった、


 僕もCMに何本か出て、親に家を買ってあげた。


 それなりの立派な家をプレゼントしたが、そんな比じゃなかった。


 マルゲリータは、僕に客室を1つ与えてくれて好きに使って良いと言ってくれた。


 シンプルなベット、机、クローゼットが置いてあり、少しの間お世話になるには十分だった。日の光も入り心地よい部屋だ。


 部屋は気に入ったし、ここがどこか分からない以上、お世話になるしかない。


「あ、ありがとうございます…。」


 マルゲリータとも、仲良くやるしかない。


「さて、お前さん、現実世界で一体何があったんだい?」


 僕の現実世界?

 僕は最低だった。


 少なくとも今は思い出したくない。


「言いたくないなら、まぁいいさ。


 お香を焚いてこっちに来たはずだ。いいかい。よく聞くんだ。」


 マルゲリータはしばらく僕の顔を見て、それからゆっくりと、念を押すように言った。


「死にたくなかったら、二度とこっちに来てはいけない。


 お香はすぐに捨てるんだ。」

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