第37話 マルゲリータ邸〜異世界で会社のおじさんに偶然遭遇?そんなバカな!〜

 目が覚めた。


 自分のアパートでもなく、王女の部屋もない。ここはどこだろう。



 体のあちこちが痛かった。

 そういえばモンスターに襲われたのだった。

 痛いって事は夢じゃ無いのかな。



 知らない男の人がいて、私の目が覚めた事を喜んでいる。


 男の人はベルギウスと名乗り、悪い人ではなさそうだった。



「昨夜、あなたが倒れているところを、シルヴィオ様がお助けになったのです。


 シルヴィオ様は、大賢者マルゲリータ様のご子息であります。」



 大賢者マルゲリータ。


 そういえば白魔術の授業で聞いたことがある。


 エルフ以外に人間も魔術を使えることができ、そのような人たちは賢者という職業についているそうだ。


 なかでもマルゲリータ様はレオンハルト王国一の賢者だとか言っていた。



 太陽の高さを見ると、お昼頃かな。


 きっと、私が居なくてお城は大騒ぎになっているだろうなぁ。


 お父様とお母様、怒っているだろうな…。



「今、シルヴィオ様を呼んできますね。


 あなたが目覚めるのをとても楽しみにして居たんですよ。」



 そう言ってベルギウスは部屋を出ていった。



 すぐにドアが開き、ボロボロのスーツを着た男の人が入ってきた。


 スーツは現実世界の洋服なのに、なぜこの異世界で?


 しかも顔をよく見ると…



 鈴木ーーーーーーー!!!!!?



 私は心の中で叫んだ。


「あ、あなたがシルヴィオ様ですか?!」


 会社の、隣の席の鈴木さんにそっくりだ。


 そっくりどころか、メガネをかけてないだけで、鈴木さんに間違いない。


 ワイシャツには赤ペンのシミがあるし、間違いなく鈴木さんだ!


 私を迎えに来たの?

 なぜここに?


 ま、まてまて、私は外見が現実世界と全く別人だから、きっとまだバレてないはず。


 落ち着けー、私、落ち着けー。


「私はティファニーと言います。昨夜は命を救っていただいたとの事で、なんとお礼を言って良いか…。」


 昨夜のモンスターを思い出し、鈴木さんにあんな恐ろしいモンスターを倒す能力があるなんて信じられないけど…。


 外見は違うかもしれないけど、私が小鳥遊たかなしだってバレる前に、コルネリアに帰ろう。


 うん、すぐ帰ろう。



 私は急いで、自分自身に大回復の白魔術をかけた。


 痛いところは一つもない。すっかり元気!もう走れるくらい元気!


 さすが私。

 詠唱時間さえしっかりあれば、ばっちりなのだ。



 鈴木さん、いや、シルヴィオと話すのはなんだか憚るので、ベルギウスに別れの挨拶をしよう。


「昨晩は泊めていただき、ありがとうございました。


 これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいきませんので、そろそろ帰ろうかと思います。」



 ぐぅうぅぅ



 その時、恥ずかしいくらい大きな音で、私のお腹が鳴ってしまった。


「ちょうど、お昼ご飯ができあがったところなんです。


 ご飯を食べてから行かれてはいかがですか?」


 コルネリアでなく、レオンハルトの食事?


 珍しいものが食べれるかもしれないという興味心もわき、なによりもお腹が空いているので、食べさせてもらう事にした。



 ベルギウスはとても面白い人だった。


「マルゲリータ様は大賢者なんですけど、虫が苦手で、芋虫見たら貧血で倒れてしまったんですよ!白目向いて!」


 白目を向いたマルゲリータ様の真似をするベルギウスがおかしくて、ご飯を食べながら大笑いした。


 なんて楽しい人。


 それに、フローマーがめちゃくちゃ可愛い。


 大きい猫だけど、撫で撫でするとゴロゴロいうし、私の言葉は理解しているようだし、一緒にいて優しい気持ちになれる。


 いつまでもここにいたい気持ちになるが、やはりシルヴィオとはここに居るのはとても気まずい。


 それにやはり、コルネリアに帰らないとね。


 夜の道を歩くのは怖いし、明るいうちに帰らないと。



 帰り際に、ベルギウスがシルヴィオの目を盗んで伝書鳩をくれた。


 鳩の足に小さい筒が付いていて、たぶんここに手紙を入れるのだろう。


「もし良かったら、文通でもしませんか。照れくさいので、シルヴィオには内緒です。」


 異世界では文通は鳩でするの?メールが無いってとても不便なのね…


 鳩ってちゃんとここに戻ってくるのかな?

 かなり不思議だったけど、強引に渡されてしまった。


「こんなに楽しい食事は本当に久しぶりでした。


 ベルギウス様もシルヴィオ様も本当にありがとうございます。


 この恩は一生忘れません。お二人の未来にエルフ神の加護を。」


 楽しかったけど、二度と会いませんように。


 伝書鳩は頂いたけど、手紙を出す事は多分無いな。


 ベルギウスはとても良い人だったけど…。


 ごめんね。


 だって、この異世界で会社の人になんて、しかも鈴木さんになんて、絶対会いたくない。

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