七話 杖を買うお話 其の二

冒険者ギルドを出て二十メートルほど進んだところに武器屋はあった。


ブロックで区切られた一区画に建っている建物。

建物全体の寂れた感じがなんとも趣深い。

店の顔となる看板には剣を交差させたものが取り付けられている。

気取った雰囲気のない店だ(武器屋だから当たり前なのだが)


さっそく入店してみる。


カラン コロン


木製の扉に付けられたベルが小気味の良いおとを出す。


「こんにちは、おじさん」


最初に中に入ったアリスが中にいた男の人に声をかける。

四十代といったところだろうか、かなりの大柄で冒険者ともあまり変わらないくらいだ。


けれども顔つきはどこか優しい雰囲気があり、アリスのおじさんという呼称は適当だろう。


そのおじさんがこちらに気づく。


「おう、どうしたんだい?アリス嬢ちゃん」


おじさんがアリスのことを愛称で呼ぶ。


冒険者にとって武器屋というのは親の顔よりもなじみの深いものなのだろう。

互いに仲が良くなるのもうなずける。



「杖を買いに来たの」


アリスがおじさんの問いに答える。


するとおじさんが冗談交じりに言う。


「アリス嬢ちゃんのかい? もしかしてジョブチェンジしたのかい?」


「違うわ、こっちの人の杖を買いたくて」


アリスが俺の方を指しながら言う。


その時初めておじさんがこちらに注意を向けた。


「そっちの兄ちゃんのかい?」


「ええ、そうよ」


「よお、兄ちゃん。兄ちゃんのジョブはなんだい?」


おじさんが気さくに話しかけてきた。


「えと、プリーストです」


「ほおー、男なのに珍しいな」


おじさんが物珍しそうに言う。


「まあ、そうですね」


よく考えたらアリスも女の子なのに攻撃系のジョブなのは珍しい。

このパーティーはかなり珍しいことになるな。


「まあいい、兄ちゃんに似合いそうな杖を持ってくるからちょっと待ってな」


そう言っておじさんは店の奥に消えていった。



少し待つこと五分、杖を数本携えておじさんが出てきた。


「持ってきたぞ。」


そしてカウタンターに並べた。


「これなんかどうだ。初心者には扱いやすいと思うぞ」


そう言って杖を一本差し出してきた。


一キログラムあるかないかと言ったくらいのほどよい重さに加え、握りやすい形状。

確かに初心者には扱いやすいかもしれない。


まあ、他のも見てみないと分からないな。


「ちょっと他のも見てみまs「これにします」


アリスが俺の言葉を遮る。


ちょ、俺の意思は?!


「おいアリス、なんでだよ」


「値段をよく見てみなさい」


どれどれ、えーと、3,500ルイス?!

確かさっきのクエスト報酬が5,000ルイスだったよな。


他の杖を見てみるとこの杖より高く、一番高いものは10,000ルイスを超えていた。


アリスが止めたのもうなずける高さだった。


仕方なく俺らは最初の杖を買い、武器屋を後にした。


「ごめんなさい、持ち合わせがなくて」


アリスが申し訳なさそうに謝ってくる。


「気にしないでよ。初心者が高いもの持っててもしょうがないし」


アリスがかわいそうだったので必死にフォローする。


「そう言って貰えると助かるわ」


なんとかフォロー出来たようだ。



「何はともあれこれからよろしくなアリス!」


「こちらこそよろしくカイト」


「?!」


「な、何よ。こっちじっと見て」


若干赤くなりながら俺の名前を呼んだアリスが可愛かった。



というわけで、アリスとの仲が少し深まった買い物となった。

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