十月二十日② (title : tide -umi- (written at 20170630))

 橙色に染まる地面を見ながら、わたしはただ歩いていた。

 すぐそばから聞こえてくるのは、落ち着いている波の音。


 幼いころから馴染みのあるこの街に、みんなは何を残していったんだろう。

 過ぎ去っていく時間と、漂ってくるかすかな磯の香りは同じくらいの重さ。


 まわりにはこれというものもないけど、たしかにあの頃の面影はある。

 それだけがただ、この街の片隅にいるわたしの心のよりどころだった。


 目が覚めるころにはまた、失ったものの数を指折り数える。

 いつものように息をついて、安心感をどこかで覚えていた。


 なくなっていくもののほうが、圧倒的に多い。

 そうじゃないと、この静寂さは幻だと思うし。


 いまという時間の尊さを誰よりも感じているのは、ほかならないこのわたし。

 あの頃の胎動taidohと、この街に流れている自然の音楽 t i d e は、よく似ていると思った。

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