第24話 夏祭り
その夏最後の祭りの日だった。
俺は佳奈を誘って、近くの神社まで行くことにした。
LINEで呼びかけると二つ返事でやって来た佳奈。浴衣が似合っていた。
きれいだった。だけど、どう褒めていいかわからない。
月なみに、きれいだ、とだけしか言えなかった。それでも佳奈は喜んだ。
参道には、やりすぎなくらい派手な屋台が並んでいる。
俺と佳奈は射的に興じたり、焼きとうもろこしなどを買ったり、金魚すくいに苦戦したりしつつ、境内を目指す。
「吉郎は東京に行くんだよね?」
佳奈が尋ねてきた。
「ああ」
俺は短く答えた。今、ここで言うべきだ、という心の声が聞こえてきた。
「いいなあ、楽しいこといっぱいあるんだろうなあ」
佳奈は笑って羨ましがる。俺の心は、今でもいいだろう、と言う。
「仕事のためだから、あんまり楽しみにばかりかまけていられないよ」
俺は言った。心は、今言わずしていつ言うのか、と叫んでいた。
だが、言えなかった。
その後も寄せては返す波のように、俺の勇気は退いたり満ちたりしていた。佳奈は祭りを満喫しきっている。
「佳奈……」
ほんの小さな声が出た。佳奈が振り向く。
「なあに?」
瞬間、太鼓の音が響いた。意を決して言う。
「佳奈、俺はお前が好きだ。誰も代わりにできないくらい、お前が好きだ」
微笑みながら佳奈が近づいてきて、俺の目の下を拭った。
「泣かないでよ。私も吉郎のことが好きだよ」
「……良かった」
俺は、これでいいんだと思った。
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