第12話 キノコ

 部屋の隅っこに見たことのないキノコ――だと思われるもの――が生えていた。

 色は……エメラルドグリーンだ。形は赤ん坊の握りこぶしのよう。匂いはない。ときどきゴボボ、という音を立てる。触った感じはふにふにしている。

 珍しいので写真にとってSNSに投稿する。すさまじい量のコメントが付いた。その多くは早く除去するべきだというもの。私もそう思っていたので、ネットで駆除業者を探して呼び寄せた。

 業者は江戸時代頃の修験者のような風貌だった。早い話がうさんくさい。彼はヘラを持っていた。キノコらしきものの駆除は本場シエラレオネで修行したとのこと。ますますうさんくさい。

 ともかく、さっさとややグロテスクなキノコを取り除いてくれ、と頼んだ。山伏めいた男は怪しげに「コノキナンノキキニナルキーッ」と叫ぶと、ヘラで一気にキノコの根本を斬り裂いた。

 エメラルドのクズのような、何とも例えようのない芳香を放つ粉が部屋中に撒き散らされる。

「ん? 間違ったかな」

 業者は首をひねった。腹が立って家から彼を蹴り出す。エセ山伏を追い出して部屋に戻ると、床という床、壁という壁、天井という天井がエメラルドのこぶしで埋め尽くされていた。

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