第8話 図書館

 ひどく暑い日だった。私は涼む場所を探しに外へ出た。あいにく、自室は屋根裏部屋でエアコンなどなく、扇風機も先日火を吹いた。貧乏学生の私は大学へと向かった。狙いは大学付属図書館だ。あそこなら、夏休み中に勉強しようなどという奇特な連中数人を除いて、ほぼ涼を独り占めにできるだろう。


 だが、その日は停電工事だったのである。図書館だけではなく大学全体が点検中だとのたまう張り紙を睨みつけつつ、私は構内を去った。


 ではどうするか。やはり、涼と静の二つを求めたい。ならば文化的施設に向かうに如くはなし。近所の公立図書館――市か県かどちらかが運営しているはずだが、私はそれについてはよく覚えていなかった――に行くことに決めた。


 あの図書館は素晴らしい施設で、古いながらもエアコンは新調してあるらしいし、何千万冊という蔵書を誇るとのことだった。意気揚々と私は公立図書館へ歩いていく。


 件の図書館前に来たとき、妙なことに気がついた。何か臭うのだ。しかし、今炎天下で身を焦がされつつやって来た私は躊躇している余裕などなかった。さっと件の図書館へと飛び込む。


「何だこれは!?」


 目にした光景、それは、何千何万という牛がみっちりと図書館内に詰まっているというもの。一体これは何であろう、と思っていると一つの言葉が脳裏をかすめた。

 汗牛充棟。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る