外伝第13話 勇者小咄
魔王城からの帰り道、ナツはアキに声を掛けた。
「……アキ。」
「ぴゃっ!? な、なんですか!?」
せかせかと先を歩いていたアキの後ろから突如として掛けられたナツの声。
それに驚き奇妙な悲鳴を上げて、飛び退きながらアキは振り返った。
「いや、驚きすぎだろ。」
その反応にハルが突っ込んだ。
ハルが言った通り、突然声を掛けられたにしてはアキの驚き方は尋常ではない。
それもその筈、アキは単純に驚いた訳ではなく、ナツに声を掛けられたから驚いたのである。
普段口数が少なくあまり声を掛けられる事のない相手、ナツ。
そして、アキにはナツに後ろめたい事があった為に、アキは必要以上に驚き身構えたのである。
(も、もしかして先日のことがバレてるんですか……!?)
先日のこと、というのはナツが魔王とも話していた「預言者と話した」云々に関連する事である。
街中でナツが預言者の護衛についていたのを、勝手にカップルのデートと勘違いして、休暇中のアキが後をつけていた。
後に誤解に気付いたものの、ストーキングしていたのは事実であり、あの時から妙にナツの事を意識していたので、バレていたら恥ずかしい事になるという意識がアキを過剰に反応させた。
「……ずっと気になってたんだが……。」
アキはごくりと息を呑む。
いつも無表情なナツからは感情が読み取れない。
「気になっていた」というのがどういう感情での言葉なのかも分からない。
妙に会話に間のある事も相まって、悠久とも感じる時間の中でドキドキしながらアキが身構えていると、ナツは「ああ。」と何かに気付いたように目を僅かに見開いた。
「……そのペンダント、前は付けてなかったよな。」
「えっ。」
思わぬ一言にアキは間の抜けた声を上げた。
ペンダント、というのは先日のナツを付け回した休暇の際に一目惚れして買っていたものである。買って以降お気に入りとして身につけていたのだが、確かにこれを付けてからナツと会ったのは初めての事であった。
「こ、これですか? 先日気に入って買ったものですけど……これが何ですか?」
「……いや、会った後に何かいつもと違うなと気になってて。」
ナツはどうやらアキに何かいつもと違うものを感じ取って気にしていたらしい。
「わ、私の事をじろじろ見て間違い探ししてたんですか?」
「……いや、すまん。そういうつもりじゃなかった。」
実際のところは、先日のストーキングの後ろめたさや、魔王とした色恋沙汰の話せいで妙に意識してしまっている事から来るいつになく余所余所しいぎこちない態度がナツ感じた違和感の正体なのだが、細かい事に気付くようで鈍いナツは長考の末に「いつもと違うペンダントつけてるな」という間違い探しレベルの結論を出していた。
「……気を悪くしたなら済まない。似合ってると思う。」
ナツは前世の経験から、とりあえず褒めておけば後腐れはないだろうと褒める事で誤魔化そうとする。
「べ、別に気を悪くはしてませんけど……。」
「似合ってる」という言葉を聞いたアキは口元に手を当てて目を逸らす。
プライドが高く自身の実力に自信を持っているアキだが、実は褒められ慣れていない。ややこしい家庭事情やら交友関係のせいで真正面から向き合う付き合いが少ないお陰で、真正面から褒められると割と照れるのである。
二人のやり取りを見ていたハルは、「ふむ。」と顎に手を当て、何か感心したように口を開いた。
「お前でもお洒落とかするんだな。」
「お、お前でもって何ですか! そういうハルこそお洒落とは無縁なんじゃないですか!?」
「お前、お洒落した私を見たら多分腰抜かすぞ。女神様にお洒落を習ってるからな。」
「だったら勝負しましょうよ! どっちがお洒落なのか白黒つけてやりますよ!」
「えっ。それはちょっと……。」
「えっ。なんでそこで日和るんですか。」
「気合い入れてお洒落した姿見せるの恥ずかしくないか?」
「なんで急にそんな乙女みたいなところ見せてくるんですか……。」
最初は普段の喧嘩かと思いきや、思わぬところでハルが日和って妙な空気になるハルとアキ。
「逆にそんな態度取られるとハルのお洒落見てみたくなるんですけど。勝負じゃなくていいから今度見せて下さいよ。」
「えぇ……ちょっと……。」
「ご飯奢りますから。」
「それならまぁ……。」
ご飯には弱いハルがあっさりとなびく。
「じゃあ、空いてる日教えて下さい。都合の合う日に一緒にお出かけしましょう。」
「今のところ私はいつでも都合付くけど、女神様に確認してからでいいか?」
「別にいいですよ。私も前後できる予定しかないので。」
かつては犬猿の仲だったハルとアキが、あっさりと今度遊びに行く約束をする程に仲良くなっている。
その様子を見てナツは羨ましく思った。
(本音をぶつけ合える友人か。羨ましいな。あと、お洒落したハルか……見られるの羨ましいな。)
正直なところナツもお洒落したハルを見てみたくもあったのだが、流石に女の子二人の間に入っていく勇気はナツにはなかった。
(しかし、安心するな。あんな話を聞かされた後でも、こんなやり取り見せられると。)
世界の滅亡の危機と聞いても勇者達はマイペースであった。
ナツは話を聞いて不安を感じていたものの、この日常のような調子を見ると、どうとでもなると、大丈夫そうだと不思議と思えた。
世界は今日も滅亡が待ち受けているとも思わせずに平凡に回っている。
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