第1章-4 それぞれの思い


どれぐらい歩いただろう


辺りは薄暗くなってた




突然、足を止めたリュウは私を真っ直ぐに見て話始めた



「ノン…ごめんな、お前、カズのこと好きだよな?

…でも、俺はノンの側にいたいんだ」



何をどう答えていいかわからず…ただ、俯いてた



「ノンはいつもカズのことを辛そうに見て、泣いてたよな?」



「私泣いてなんかないよ」



「心が…泣いてた…

俺にはノンの泣き声が聞こえるんだ。

耳をふさいで、聞かないようにしようとしても悲痛な泣き声が…聞こえてしまうんだ」


「なぁ、ノンすぐじゃなくていいから、少しずつでいいから、俺のこと好きになってくれないか?


ノンの中に俺はいないか?」




「…リュウ」




この人に委ねていれば、きっと辛いことも苦しいことも取り去ってくれる


そんな都合のいいこと思っちゃいけない

そう思いながらも……




リュウの胸に飛び込んでしまった




広い腕の中、リュウの少し早い鼓動が伝わってくる



大きな背中に必死で手を回し、精一杯の力でギュッと抱きしめた



リュウ、お願い私をつかまえてて



言葉にならなかったけど、何度もそう繰り返した





「ノン…好きだよ…大好きだよ」




リュウは私の首もとに顔を埋めるようにして囁いた



こんな心地いい声を聞いたことがなかった



幸せだった







【カズside】


同期のノンとかいうヤツ


シーズンに入って毎日、生活を共にするようになっても、特に意識することはなかった


女には不自由してなかったし、どこにでもいる平凡な女…そう思ってた



でも、何だよアイツ、いっつも一生懸命で、辛いことがあっても笑ってて…。

しんどくないのか?



気が付くとノンの笑顔を探している自分がいた



ノンの笑顔を見ないと苦しくて

ノンの怒ってる顔さえも愛しくて

ノンがいなくなると…

そう思うとたまらなく淋しくなる


これって、好きってことか?



でも、俺はアイツを悲しませてばかりで。


リュウに怒鳴られて目が覚めた


ノンの笑顔を守れるのはリュウなんだ


そんな風に思うことで俺は逃げてたのかもしれない



ただ、真っ直ぐに、見つめるだけで良かったのに…。





【リュウside】


俺はいつもノンを見てた


でも、ノンは俺ではなくカズを見てた


それでもいいと思ってた

ノンがいつか幸せになればそれで。



あの日、俺は自分を抑えられなかった



ノンの気持ちは痛いほどわかってた

誰よりも彼女を見ていたから…。




でも、どうしてもノンを奪いたかった


きつく抱きしめると消えてしまいそうな華奢な体


一生懸命伸ばした細い腕

頬に触れる柔らかい髪が愛おしくてたまらなかった


込み上げてくる熱いものを何度ものみこんだ




誰にも渡したくない

そう…

思ったんだ



どんなことがあっても、ノンの側にいよう

って…

思ったんだ

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