Another

プレイボール! II (前編)

 エメラちゃんからの提案で始めたスポーツ。その名も、エアリアル・バウンダー。

 見たことも聞いたこともない新感覚のゲームではあったけれど、あたしが思う以上に爽快なものだったのかもしれない。

 もっと大勢のプレイヤーがいなかったことが悔やまれる。

 それくらいフィールドは温まってきたといってもいい。


 ※ ※ ※


 試合は進んでいき、ルールにも大分慣れてきた頃合いだと思う。

 あたしたちのチームは八点、向こうのチームは十三点と形勢は不利な状況。

 このゲームのルールでは先に十五点をとるか、相手チームよりも七点差以上をつけることで勝利となる。つまり、あと二点とられたらあたしたちの負けだ。

 お姉様もこのフィールドの無重力具合もすっかり掌握してしまったようで、ゲーム開始時は身動きもろくに取れなかったのがまるでウソだったかのように機敏に動けるようになってきていた。

 プニーの方も最初よりもコツを掴めてきて少しずつ点もとれるようになった。

 もはや予断を許さない現状。

「じゃあ、いくでプニちゃん」

「はいっ」

 今は相手チームの攻撃。かなり陣地も狭まってきているので、スタートラインの時点でゴールの輪っかはどれも射程圏内まで入ってきている。

 それにしても、二人は普段割とソリが合わない感じなのに案外こういうところでは息を合わせられたりするのね。ちょっと意外ではある。

「そりゃぁ~」

 そうこうしているうちにボールが弾き出される。意地でもコレをスティックに掠らせでもさせないともう後がない。タッチさえできれば攻守が逆転できるんだ。

 さすがのお姉様も追いつく方向を狙って打ち込むわけがなく、かなりのカーブを描いてフィールドの端から攻め込んでくる。変則的な攻撃だ。

 ホッケーのように軌道を読んでいかないとボールまで追いつかない。

「ここですね!」

 しかも、そこからはプニーが上手い動きをしてくる。カーブして、壁をバウンドしていくボールの軌道を読み切っているのか、先回していく。

 ならプニーを追えばいいかと思えば、なんと小癪な、フェイントまで使いこなしているからややこしい。頭脳プレーも加わったコンビプレーだ。

 お姉様が変則的な軌道で攪乱し、プニーがフェイントを加えつつもボールを確実に捕捉していく。

 本当はこの二人、仲が良いのでは……?

 とはいえ、のんびりとしていたら負けてしまう。ゴールの輪っかは三つもある。どれを狙ってくるのか、はたまた表から来るのか裏から来るのか。

 バウンドするボールの軌道を読みつつ、ゴール付近をセーブしなきゃ。

 キーパーのジェダちゃんにボールの捕捉を任せれば攻守の逆転の際、陣地のボーナスがもらえるからそこを頼りにしたい気持ちはあるけれど、さすがにゴールとゴールの距離が離れすぎて同時に守ってもらうのは無理がある。

 いくらジェダちゃんでも分身はできない。ルール上、音速や光速を超えるような移動は制限されているらしいし、変に期待しすぎもよくない。

 さて、どうしたもんだろう。

 ボールはビュンビュンと飛び交い、バンバンと壁を跳ね返り、お姉様の手元にあるのか、プニーの手元にあるのか、目視で把握するのもなかなか大変だ。いつシュートを狙ってくるのか。

「ほりゃっ!」

 お姉様のスティックが振りかぶられる。

 ゼクは一つのゴールの前へ移動する。無難な判断だ。

 一方いちかばちか、あたしは障害物エリアへと突っ込んでいった。

 丁度プニーの死角の位置に入り込むよう、回り込んでいく。

 ボールは明後日の方向に飛んでいっているが、あたしの予想が正しければ……。

「あ、プニちゃん、あかん!」

「えっ?」

 どうやら気付いたようだったが、もう遅かった。

 プニーがスティックを打ち込んだ先、正確無比なバウンドの末、見事に遠回りしてきたボールがあたしのいる位置に飛んできた。

「もらった!」

 障害物の裏からゴールとは正反対の方向に目掛けてあたしのスティックが唸る。

 ボールはノーマーク地帯を突き抜けてぐいぐいと陣地の外へと飛び出していく。

 結構上手くハマったと思う。

 プニーは素直だからボールの軌道を読んで、先回りやフェイントをしつつ、お姉様の攪乱を上手の補助していたが、逆を言うとボールの動きの方に意識がいっていて、お姉様のショットの直後はあまりこちらの位置を把握していなかった。

 だから障害物に隠れていたあたしを見落としてしまっていたのだ。

 さらにいうと、プニーはお姉様と違ってやっぱり素直だから打ち込む方向が読みやすい。それほど変則的な打ち方もしないし、ゴールが固められていると強気に出られず、できるだけゴールに近づけたショットを正確に狙ってくる。

 ゼクがゴールに回っていったのもいい誘導になったようだ。

 さて、攻守交代。

 ボールは相手陣地に突っ込んでかなりの距離を稼いでいった。

 ゴールにはまだ遠いところだけれども、ここから逆転していかないとあたしたちに勝ち目はない。

「ゼク、もうアレ、狙うしかないよ」

「ああ、そうだな。だが、ついてこれるのか?」

「頑張るよ。だって、負けたくないもん」

 お姉様とプニーもナイスなコンビネーションだったけれど、こっちだって負けてない。攻撃側に回れば点はしっかり取れている。

「よぉし、気張っていこう!」

 スタートラインへと移動し、ゼクがスティックを構える。

 攻守が交代したとき、お互いの陣地の境目からリスタートとなり、攻撃側はそこからワンショット打つ権利を得られる。

 試合再開のボールが今、出現した。

 ゼクのスティックが華麗な軌道を描いてスウィングされる。

「ほわぁ~、ゼックンはんぱないなぁ」

「あわわ……急いで取りに行かないと。このままでは逆転されてしまいます」

 渾身の一撃によって叩きつけられたボールは流星の如く、ゴールに向かっていく。

 さすがにこのスピードにはお姉様もプニーも追いつけない。小細工なしのパワー全振りショット。トリック要らずの豪腕シュートだ。

 見とれている暇などない。全員がボールを追いかけてスタートを切る。

 お姉様のようなトリックショットでもなければ、プニーのような正確無比なショットでもない、ゼクのパワーショットは三つのゴールのいずれでもない方向に軌道がズレている。だが、これもまた計算の内だ。

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