閉ざされる未来 (6)

『単刀直入に申し上げますと、我々とは縁もゆかりもない場所です。それどころか町外れに位置していて廃墟も同然の無人センターでした。実質的に被害者はゼロ。爆破の前と後でも盗難されたものは確認できていません』

 ニュースでもそんな詳細までを取り上げていなかったが、いつ、どうやってそこまで調べ上げたのかは今は触れないでおこう。

「ただ爆破されただけなのか」

『そのようです。事件によって大規模の封鎖が始まっていますし、そちらの方が目的かと思われますね』

『僕たちがヘルサから出られなくなるということですか?』

「だが、仮にも俺たちはコードZだ。任務の優先順位も考慮して免除される場合もあるだろう。それに、証拠がないようでは拘束する権限も……」

『あのですね、ゼクラさん。何も残っていないんですよ。誰が何の目的で爆破したのか。何を用いて爆破したのか。コードすら検出されていないんです。我々が関与していない証明にはなりません。偽装の線で疑われるでしょうね』

 コイツ、ジニアの正論を秒で論破しやがった。

「ということはなんだ。俺たちはここで足止めを食らうということか?」

『少なくとも、こっち側は大丈夫ですよ。無事に『サジタリウス』号に着きましたので。問題はあなたとジニアさん、そしてゾッカさんです』

 ザンカとズーカイの後ろに『サジタリウス』号が映る。じゃあお前ら二人だけで任務を続行だな、なんてことにはならないだろう。ザンカもズーカイも戦闘要員ではない。逃げるだけが関の山で、応戦ができないとなれば結末は見えてくる。

「ゾッカの居場所を割り当てる手段はないのか?」

『先ほども言いましたが、できません』

 なんでいつもコイツは肝心なときに……。

『ふむ。ちょっと調べてみましたが、隔離リストの中にゼクラさんは含まれていないようですね。どうやら事件より後に訪問されたことが証明されているので、緩和されているようです。もしかして先ほど機械民族と接触しませんでしたか?』

「ああ、ここに来て直ぐに声を掛けられたよ」

 頭サイズくらいのボール型の機械民族が飛来してきて、俺に賞賛の声と報酬を送ってきたのはほんの今さっきの話だ。わざわざ現れて何やらじろじろと見定めていったのは事件との関連性がないことを確認するためだったのか。

『記録にも残ってましたね』

 ついでとばかりにザンカがその場面の映像を流す。端から見るとちょっと分かりづらいな。俺の頭上にボールが飛んできて、去っていくだけの一瞬の光景だ。

「逆を言うと、なんだ。ジニアとゾッカは隔離リストに含まれているのか?」

『ええ、ばっちり。あの二人はこの街から出ていく権限を剥奪されています』

 なんて厄介なことだ。結局、俺には休まる暇もないのか。

 ジニアがいなければ『サジタリウス』号の修繕やメンテナンスがままならないし、ゾッカ抜きでもそれは同じこと。

 このまま惑星『セレーネ』を発つという選択肢などない。

「分かった。とりあえず俺はジニアと合流する。ゾッカのことはその後だ」

 今の状況は正直なところ、何も分からない。

 ゾッカは何を考えて、何をしているのか。だが、何か理由があるはずだ。

 突然俺たちの前から姿を消したのも、きっと事情があるに違いない。

「ジニア、聞こえるか。応答してくれ」

 再びジニアに向けて通信。

『さすがに聞こえてるぜ。面倒なことになってるみたいだな』

 返事はかなり早かった。まるで大体のことを知っているかのように言う。さっきまでの通信を傍受してたのか。

「お前は何処まで分かってるんだ」

『言いたかないが、ゾッカが消えた時点でオレも怪しいとは思ってたよ。ったく、お前に感化されてるのかもな。さっきっから機械民族にもマークされてるしよ』

 向こうは最初から怪しんでたのか。だったらそう言ってくれればよかったのだが、いや、言えるわけがないか。共に戦い抜いてきた仲間が、突然姿をくらまして何やらよく分からないことをしでかしているなんて。

『だが、オレにもアイツの考えてることは分からんのはガチだ。急に消えやがって。何をおっぱじめようってんだか』

「それで、お前は今、何をしているんだ?」

『んー、探索。爆発現場に来てみたんだがよ、これが何もねぇのよ。ぜぇーんぶ瓦礫ばっかでよ。何が爆発したのかも分かんねぇ。痕跡すら消える爆弾だなんてアイツ、いつの間にこんな技術を身につけやがったんだか』

 かなり先行されて動いていたようだ。もう現場にまで駆けつけているとは。

 しかし、また奇妙な話が出てくる。

 爆破の痕跡もないなんて、意味不明にもほどがある。

 ゾッカの技術力は何かがおかしい。秀でているという意味では俺もジニアも認めているところだが。ズーカイが言っていたように、禁忌クラスの次元の違う未知の技術だ。だが、かといってゾッカ自身の能力は高すぎるということもない。

 これではまるで、そう本当に異次元から出てきたみたいだ。異次元からやってきて異次元の技術を兼ね備えた何か。高度な技術を持っている割に知識量も何故か乏しいところもあった。前から不思議には思っていたのだが、何か秘密を抱えているのか。

 俺は今、何に直面しているのだろう。

 アイツは、ゾッカは日頃、何を思って俺たちと行動を共にしていたのか。

 そして、どうして今、このタイミングで離脱なんてしたんだ。

 考えて分かるのか? 考えれば答えが出てくるのか?

 思い出せ、アイツが口にしていた言葉を。アイツが何をしようとしているのかを。


『私にとって、変革こそ、ファクター、なの、ダ』


 いつだったか。ゾッカが言っていた言葉を思い出す。

 正直そのときも何を言っていたのかよく分からなかったし、今だって何を意図した言葉なのか分からない。翻訳機の故障とさえ思ったくらいだ。

 変革? 変革とはなんだ。俺たちにとっての変革とは一体何を意味しているんだ。

 分からない。全く分からない。だが、ゾッカが考えている根底には、何かの変革が関わっている。今はそう考えるしかない。

「ともかく……ジニア、俺も今からそっちに向かう。何か分かったことがあったなら直ぐに知らせてくれ」

『ああ、了解。へへっ、妙なことばっかだぜ』

 愉快そうな笑いを添えて、通信が一旦切れた。

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