隠された記録 (3)

「よぉ、ゼクラ。何の用だ? へっへっへ」

 愉快そうな笑い声に出迎えられる。相変わらずの溢れんばかりのスクラップにまみれて、ジニアとゾッカがテーブルに向かって工具を片手に熱心なご様子。

「今ゼクラ、さんの、持ち帰ったパーツを、見ているところで、ス」

 何処から何処までが機械パーツなのか、あるいは自身の腕なのか分からないくらいに機械を弄くり倒しているゾッカが言う。俺がミザールから持ち帰ったときと違う形をしているように見える。既に相当改造の手が入っているみたいだ。

「一応、さっきも確認したことだが、もう一度聞いておこうと思ってな」

「なんだ、また侵入者の話かよ。オレが待機してたときには何も気配は感じなかったぜ。さすがに『サジタリウス』号の近くに何か通ってりゃセンサーでも引っかかって気付くだろうしよ」

 ジニアはザンカと共に『サジタリウス』号で待機してもらっていた。ただ、ズーカイから聞いた話では、ザンカに面倒な仕事を全部押しつけて、自分は仮眠室でいびきをかいていたとか。信憑性もあったものじゃない。

 ザンカの方に至っては、例の隠蔽工作にかなり尽力していたらしく、集中モードに入っていたから気配を読む暇もなかったと言っていた。

 一応、ジニアも言っているように、『サジタリウス』号の周囲には索敵センサーを張っていたはずなので、何かいたらその記録にも残っているだろう。

「まあジニア、さんの方はともかくとして、私の方もやはり分からなかった、としかいえないな。ズーカイ、さんが子供をあやしている、間はそれにつきっきりで、周囲の気配は特には分からなかったです、ネ」

 ゴリゴリと金属製の音を立てながら頭を掻く。ある種の被害者みたいな立ち位置にいるように思えて、実際のところ、ズーカイの独断行動を止められなかったのは戦犯だぞ、ゾッカ。

「俺自身も、『サジタリウス』号の周辺に気配を察知できなかったからな……あまり深くは追求できないところだが、何か気付いたことがあったなら教えてくれ」

「へっへっへ、何度聞いても答えは同じだと思うがな」

 なんでコイツは居眠りこいてたのに愉快そうに笑っていられるのやら。

「ザンカ、さんの隠蔽工作は上手くいかなかった、のです、カ?」

「そっちの方は問題なさそうだったが、俺の方がやらかしてしまったからな。しこたま嫌みを言われてしまったよ。あっちのは誤魔化しも利かないだろうしな」

 今頃、惑星『カリスト』のミザールではどうなっていることやら、考えるだけでも怖いものだ。案外、あの手の出来事は日常茶飯事で、もうとっくに忘れ去られている可能性も考えられるが、そう世の中都合よくもいくまい。

「でも、所詮は辺境の、惑星でしょう。そこまで気にすることもないので、ハ?」

「それがだな。ザンカの解析によるとだ。例のカプセル、ネクロダストはどうやらミザールのマーケットから押収されたという記録が残っていたらしい」

「なんだそりゃ。たまたま俺たちの寄ったあの町かよ。んでもよ、それとどう関係するってんだ」

「ジニア、さん。ネクロダストは機械民族が回収しました。つまり私たちの司令塔は、惑星『カリスト』の存在を認知している、ということです、ヨ」

「ぁー……、ぁー? それってまずいのか?」

「何の気まぐれで見逃しているのかは知らないが、人類たちが機械民族の監視の目を離れてのうのうと生活している惑星なんて放置できるものでもないだろう」

 だからこそ、俺たちは惑星『カリスト』で事を荒げないように慎重な振る舞いをしてきたつもりだ。結果として何もできなかったのだが。

 機械民族に無秩序にのさばっている人類の存在を認知されてしまえば、それを無視できなくなってしまう。だからこそ、何らかの形で惑星『カリスト』の処分を命じられる。そう汲んでいたつもりだ。

「でもよ、それが連中の総意じゃないにしても今、見逃されてるってことはだな……なんか癒着っつうの? そういう状態にあるんじゃねぇの?」

 何やらジニアの口から似つかわしくない単語が出てくる。

 その可能性は踏んでいた。むしろ、そうなのだろうな、くらいには思っていた。

「だからといって、事を荒立てるのはこちらも本意じゃあない。惑星『カリスト』も違法的に金を貯め込んでいる悪党どもの巣窟だ。機械民族が裏で癒着しているのか、はたまた傀儡……裏で糸を引いているのかは分からないが――」

「ゼクラ、お前も考えすぎだろう。オレぁ、惑星『カリスト』に関するニュースを見てもないし、聞かされてもねぇ。機械民族がどうしたなんて話もだ。そんで、こないだはちょっと大騒ぎしちまったが、それでも上からは何も言ってこないんだろ?」

「あ、ああ、まあな」

「っつーことは、今んとこは心配する必要もねぇってこった。不確定情報なんざないにこしたこたぁねぇが、目を見張るほどヤベェ状態でもないんだったらそれでいいだろ。何かあったときは何かあったときだ」

 何か普通にジニアに言い負かされている気がして癪だったが、特に言い返せる言葉もなかった。細心の注意を払おうとするあまり、俺は必要以上にピリピリしていたのかもしれない。

 もし、あの惑星をこの手で滅ぼす結果になったとしても、それで後ろ暗くなることもないんだ。標的が人類の集落になったところで、任務を破棄する選択肢など俺たちにはないのだから。

「でも、ネクロダストが外部から手を、加えられそうになった件は、さすがに任務に関わるので無視できないと思うが、ネ」

「そこで揚げ足とるんじゃねぇ! つーか、ロックを解除しようとした形跡が残ってたってだけで何も侵入者が来たとも限らんだろう。ザンカがうっかりミスったか、ゾッカ、実はお前がついついやっちまったんじゃねぇのか?」

 悪くない着地点で話が締まりそうだったのに、手のひらを返すように身内に容疑を掛けてくる辺り、ジニアの底の浅さが知れる。怪しいという意味合いでは外部の何者かよりも身内の犯行である方が自然に思えてしまうのは俺も一緒だが。

「あのザンカ、さんがミスするとは、そんな、ないとは思いますし、別に私も、そういう、アレでも、ないです、ヨ」

 そんな雑音多めだと信憑性に欠けるぞ、ゾッカ。

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