惑星の破壊者 (11)
ブーゲン帝国の城に戻ってみれば、そこには結婚式場が出来上がっていた。そういえばずっと準備を進めていたんだったな。別に俺も中止にしろとも、中止になるとも言わなかったし。
しかし、この城からでもおそらくは先ほどまでの様子は見てとれたことだろう。今日のところは王子が来られないということくらいは。
感情に身を任せ、俺も随分と暴れてしまった。両国の関係はまた少し難しいものになってしまったのかもしれない。もうこの国で歓迎されることはないだろう。
とりあえず城の中庭に降り立つ。
見に纏っていた
サンデリアナ国の犬兵士共も、ブーゲン帝国の猫の従者たちも、揃いも揃って俺に注目している。
まさかこの場で「俺、なんかやらかしちゃいました?」などとしらを切るのも無理がある。 罵声を浴びたって仕方がない。
早いところ、キャナを連れて、向こうと合流次第、さっさとこの惑星も去ろう。まだ、事態の終始までは把握されていないはずだ。
「ぬしさまあぁぁぁ」
突然の黄色い声。犬猫の群衆の向こう側から掻き分けるのも面倒だと言わんばかりに飛び越えてきたのは、なんとビリア姫だった。しかも既に発情全開状態だ。
なんとか受け止め、受け流す。空中で三回転くらいして綺麗に着地された。
「やってくれたのじゃな!」
やはり、気絶させて放置してその間にあれやこれややってしまったことだろうか。
「あ、ああ、すまない。あまり事を荒立てるつもりはなかったのだが」
「しゅごいのにゃあぁぁ……百機もの戦闘機を生身で全て破壊するにゃんてぇぇ」
めちゃくちゃしがみついてくる。ものすごいスリスリしてくる。
実際には百機もなかったはずだが。それに戦闘機というか、あれは護衛機。いずれも空中戦向けのものではなかったぞ。
そう、言い訳を呟こうか迷っていたら、周囲のざわつきがボリュームをあげたかのように歓声になっていた。なんだ、なんでこんなに騒いでいるんだ。
「神様だ」「なんと偉大なるお方」「空から降臨なされた」「サンデリアナが滅びた」「ブーゲン帝国に神の使いが」
しまった。明瞭に物事が伝わっていないせいで、とんでもなく話が飛躍し始めている。せいぜい遠くで爆発があった程度の認識だとたかをくくっていた。
あってせいぜい無名のテロリストくらいに思われる覚悟はしていたが、予測を越えてしまっている。ここまで発展するとは思っていなかった。
ビリア姫を引き金に、俺を英雄、それも過剰に神格化した認識になったのか。
通信機器の類いがないとこうも想像や妄想で補われてしまうとは。
というか、ビリア姫、メロメロすぎるだろう。上手いこと力を誇示したのはよかったが、思わぬところにまで影響してしまったものだ。がっしりとしがみついてくる。
「にゃにゃにゃあぁん」
キャラが崩壊しすぎだ。お前はこの国の王になるんだから、それだと民衆に示しがつかないだろうが。
「し、しっかりしてくれビリア姫、王になるんじゃなかったのか?」
「妾はぬしさまに王位をゆずるのにゃ」
そんな無責任なことを軽々しく口にするな。
周囲がざわざわとざわめく。新たな帝王誕生だの、何やらそれもいいだのとまで聞こえてきた気がする。冗談じゃない。
「俺は神でも王でもない!ヒューマンだ! 」
「ヒューマン様ぁ!」「我らの神、ヒューマン様ぁ!」「偉大なる我らの救世主ヒューマン様ぁ!」
違う、そうじゃない。
獣人族は力こそが全ての種族だと分かっていたが、まさかここまで効果があるとは思わなかった。ビリア姫の様子を見てもう少し理解を深めるべきだった。
「なにやっとんねん、ゼックン」
不意に俺の身体が浮き上がる。ビリア姫ごと宙へと浮かんでいく。
「どうやらやりすぎたようだ」
「分かっとるわ、アホぅ」
というか、お前もそんな能力を使っていいのか? ここの連中は空を飛ぶ生物なんて知らないはずだろう。
「おお、今度は女神様だぁ!」「女神様ぁ!」「空から降臨なされたぁ!」「ヒューマン様ぁ!」「なんと美しい女神様ぁ!」「神秘的だ。空を自在に飛んでいるぅ!」
「ふぇ!? 女神様ってうちのこと?」
そのようだ。犬も猫も関係なく地に膝を折って俺たちを崇拝しているぞ。高みから見るとますます神様にでもなった気分だ。
「えへへ~、そんなん照れるなぁ~」
そんなこと言ってる場合じゃないんだがな。
「何の騒ぎッスか? これ?」
ふと庭の出入り口の方からエメラらしき声が聞こえた。随分と早かったじゃないか。てっきり日没くらいまで掛かると思っていたのだが。
「キャナ、向こうだ。出入り口の方に向かってくれ」
「ほぇ? なんで? 出入り口ってあっちの方? あっ、あれはエメちゃんたち? それにあの後ろにおるんは……ナモナモちゃう!?」
キャナがふわふわと中庭の出入口へ。そのおまけのように俺とビリア姫もふわふわと 追いかけていく。
「ゼクラさんにキャナさん、それにビリア姫も。一体全体この城に何があったんスか? なんか妙な騒ぎになってるみたいッスけど」
「ここにくるまで世界の終わりの如く絶望に包まれた感じだったのでありますが」
「城の者はみな、何やらおおはしゃぎでござるな。まるであべこべでござる」
城下町からだとそういう反応になるのか。どうやら一連の流れを目撃できたのはこの城にいた者たちだけになるらしい。まだ少しは言い訳の余地がありそうだ。
いや、それよりも、そんなことよりもだ。
「説明は後にする。ところでナモミは何処だ?」
俺の位置からだとよく見えない。主にビリア姫が足下に絡みついているせいでふわふわも不安定すぎて、低空飛行状態だ。
「そりゃ!」
俺の頭上からそんな掛け声が聞こえた。ちょっと苛立ったような声だったような。そう思う前に俺の身体はふわふわから解放され、ビリア姫ごと落ちていく。
「うおっ!」
エメラたちの方へと頭からダイブしていき、受け身の体勢を取ろうと思うも、ビリア姫がしがみついているせいで上手くバランスが取れなかった。
「きゃっ!」
何とか地面に這いつくばるように着地。
何か今、声が聞こえた気がする。顔を見上げると、そこには何処かの国の姫様……いや、ナモミが立っていた。
何故か綺麗なドレスに身を包み、俺を見下ろしていた。
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