惑星の破壊者 (9)

『前方、真正面に謎の影を確認』『レーダーに反応していません』『謎の飛行物体、接近中』『隊長、何やらこちらに接近しているものが――』『なんだあれは? 鳥ではないのか?』『周辺に飛行申請なし。全くの未確認』『生物なのか?』

 ざわざわと、連中が騒いでくれる。俺の姿を捉えられたのだろうか。

『謎の影、消失』『こちら何も反応していない』『計器の故障か?』『何事だ、報告しろ』『飛行物体が忽然と――』『解析ツールも全く無意味!』『新手の兵器か?』

 この土地の気候は穏やかななのだろうか。風が心地よく感じる。

『十三号機、何者かに狙撃されました!?』『こ、こちら三十七号機、左翼が何者かに切断されましたぁ!!』『報告! 報告ぅ! 七号機、何かと衝突。周辺に山脈なし、高度十分、不明、不明!』『四十三号機、炎上、エンジン異常なし、なのに機体が燃え――』『異常事態、異常事態、何者かの攻撃を受けています!』

 一機、また一機と目の前を飛んでいくソレが、はたかれた羽虫のように呆気なく落下していく。

『敵影なし!?』『ステルスか?!』『状況が分かりませんっ!』『どうした、何事だ。一体何が起こっているのか説明しろ!』『見えない大群の襲撃を受けているぅ!? 何も確認できません。レーダーにも何も――』『敵は何体だ! 敵の数を報告しろ!』

 無数の混乱した状況が濃密に伝わってくる。何が起きているのか誰も理解できていないようだ。何処を傍受しても的を射ない返答ばかり交錯している。

『十三号機、墜落! 何故か無傷です!』『四十三号機、いつの間にか隊員が全員機外に脱出し無傷!』『七号機、大破! ですが誰もケガはありません!』『敵の情報を解析しろ!』『三十七号機、こちら無事です。隊員にも異常ありません』

 数は順調に減っていく。清々しい青空がよく見えてくる。

『おい、おいおい、どういうこった。なんで一瞬でこんなにやられちまってるんだ。しかも無傷だと? ザンカ、解析はまだなのか?!』

『今やっていますが……全く反応が見られません。かなり高性能なステルスかと。無傷と報告のあった機体の周辺に謎のエネルギー反応。おそらく防護フィルターのようなものではないかと』

『なんで叩き落とした相手を防護しやがるんだ。敵はバカなのか?』

「……バカで悪かったな」

『その声はゼクラさん!? あなたの仕業ですか!』

『おま、お前、何やってくれやがるんだコンチクチョウが!』

 あの真ん中を飛んでいるデカイ奴が多分ラセナ王子が乗っている奴かな。アレは最後に残しておくとするか。

『ジニア隊長! ザンカ副隊長! 何やっているのだ! 俺様の護衛艦が勝手に次々落ちていっているじゃないか! アイツら運転ヘタクソなのかぁ!? ちゃんと免許証を発行させておけ!』

 やれやれ、さすがにこれだけ数が多いと処理するのも大変だな。

『王子、今、見えない敵の攻撃を受けておるのだ』

『何ぃ? 見えない敵だと? 何人いるんだ? おい、報告だ、報告しろ!』

『敵は……一人です』

『はあぁぁぁっっ!? たった一人に俺様の護衛艦が落とされているだと!? 何者だ? ブーゲン帝国の秘密兵器か何かか? どうやってこんなことを!』

 何かとびきりうるさい奴が騒いでいるな。まあ、アレは後に回しておくとして、そろそろカバーをしていくのも疲れてきた。あまり無理をしていると怪我人を出しかねないな。

『あ、おい、なんか飛んでるぞ! アレか? アイツがやったのか? なんだよ、アレ、マシーナリーじゃないのか? それともお前らと同じ機械人形オートマタか? 身体中に何か物騒なのがくっついてるぞ!』

『いえ、あれはマシーナリーではありません。ヒューマンという種族です』

『う、う、うそを言うなよ。全身がギンギンしてて鋼鉄みたいなんだぞ?』

『へへへ、アレはシングルナンバーの中でもコードZしか使えない代物だ。アイツあの玩具、なくしたはずだが、何処で拾いやがったんだ?』

『どうせまた自分で造ったんでしょ?』

『おい! おい! お前! そこの飛んでるお前! 名前を名乗れ! 俺様を誰だと思っていやがるんだ!』

「俺か? 別に俺には名乗る名前はないのだが……お前が呼んでいる名で答えるなら、惑星の破壊者スター・ブレイカーだよ。あの伝説の何とかだ」

 面倒だが、こう名乗っておいた方がまだマシだろう。この状況においては。

『バ、バ、バ、バカなぁ!? お、お、お、お前が惑星の破壊者スター・ブレイカーぁぁ!? ど、ど、ど、どうやって俺様の護衛隊たちを?』

 ああ、焦ってる焦ってる。ビビっててくれるならこちらとしても好都合。むしろそうなってもらわないと困るところなのだが。

「コイツだ、これはZeusゼウスZeus ex machinaゼウス・エクス・マキナと呼んでいる。俺達コードZの兵器だ」

『ゼウス? 何を言っているのだ、お前何も持っていないじゃないか!』

『へへへ、王子様。Zeus ex machinaゼウス・エクス・マキナは形を変える兵器なんだ。持ち主が望めば、銃にも剣にも鈍器にも何にでも変質する。すっげぇ武器さ』

『オメガチタニウムなど特殊な可変合金を加工し、形状記憶性能を付与させ、超高圧縮掛けたエネルギーを動力源として使用する代物です』

『は? オメガチ? カヘンゴー? なんだか分からないけど、お前らもコードZなら同じ奴持ってるんだろ? お前らだって使えるんだろ? ゼウスなんとかっての』

Zeus ex machinaゼウス・エクス・マキナは使用者の身体と融合する特殊な金属。神経さえも融和し、それによって使用者の意のままに動かせます。ですが、我々にあれを扱うことはできません』

『へへへ、オレも昔使ってみようとは思ったんだがダメだったわ。脳みそが十個、手足が百本くらい生えたみたいな気分悪い感じになっちまう。なんつーか、制御しきれねぇのよ。オレはアイツみたいに頭脳組織の遺伝子改造はされてないからな』

『正直アレは特殊すぎて今の我々でも使用したら自我を失いかねません。使ったところで自滅するだけです』

『な、なんだよぉ、それ、よく分かんねぇよぉ、なんだってんだ、アイツは、アイツは一体、何者なんだよぉ!』

「覚えられなかったのならもう一度言おう。俺は惑星の破壊者スター・ブレイカー。数々の武器を使いこなし、あらゆる敵に適用し、惑星そのものを破滅に導いたZeus ex machinaゼウス・エクス・マキナ唯一の適合者だ」

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