穢される! (3)

「……ラセナ・ビションフリーゼ・ユングヴィ十七世。サンデリアナ国の王子にして権力を玩具にする愚か者じゃ。これでいいかの」

「アイツ、そんな名前だったか?」

 え? 間違えた? いやいや、だって長いじゃん、覚えられないじゃん。

「あってますよ」

 あってるのかよ! 驚かせないでよ! 心臓止まるかと思ったよ!

「ふぅん……、ま、こんくらいなら王女じゃなくても分かるよな」

 顎に手を当てて何か考える。まさかまだクイズやるつもり? 冗談じゃないよ。これ以上難しい問題出てきたら答えられる自信とか全然ないんだけど。

「といっても我々じゃ王女しか知らないことなんて分からないですよ」

「それもそうか」

 危ない危ない。なんて細い綱渡りなんだ。一歩間違えたら真っ逆さま必至。お願いだからこれ以上変な質問やめてよね! マジで無理だから!

「分かった。一応、お前は王女様ということにしておいてやる」

「え? いいんですか? あの王子が何て言うか」

「なんだったら一旦会わせてみればいい。ボロが出るようなら偽物。王子も納得してくれるってんなら本物でいいだろ」

「そんないい加減な」

 なんかますますヤバいことになっているような……。

 本物のバカ王子に出会ったらさすがに直ぐバレちゃうんじゃないの? しかも相手はバカとはいえ王子だし、奴隷にされちゃうよりももっと酷いことされそうな気がするんだけど。

「くっ……妾をどうするつもりじゃ」

「なんだ、そんなことも分かっていなかったのか? んん? そもそも俺達が何者かも分かってない感じかい?」

 あ、やば。もしかして変なこと言っちゃった?

「名乗っておらんからのう」

 こういう感じで誤魔化されてくださいお願いします。

「王女様なら分かるだろ?」

 うーわ、まーたこうくるよ。ずっと試してくるなこの男。性格悪すぎ。

 でもまあ、推察できる材料はいくらかあったはずだ。どう考えたってこの状況、相手が何でもない宇宙海賊だなんてことはないはず。

「サンデリアナ国の傭兵部隊。バカ王子の使いっ走りといった方がいいか? ああ、今では王族親衛隊と名乗っておるんじゃったかの?」

 で、どうですか。

「……ちっ。聞いていた通り、案外賢いみたいだな」

「見破られるのは想定外です。まさか本当に王女なんでしょうか?」

「おい、惑星『フォークロック』に向かうぞ。大至急でな。他の連中も叩き起こしておけ。これから忙しくなりそうだからな」

「はい、了解です。船長キャプテン!」

 通ってしまったっぽい。いや、逆にウソでしょ!?

 いくらなんでもこれは都合よくいきすぎじゃない?

 確かに、王女のことを知っていて、王子とも知り合いで、誘拐まで企む組織なんてそう多くはないんだろうけれども、あんな当てずっぽうでよくも正解引けたもんだな。あたしの全ての運を使い切った気がする。

 今後の人生、くじ引きは二度と当たらないんじゃないのかな。

 事前にビリアちゃんからも色んな話を、主にバカ王子のバカエピソードを聞かされまくってたのもあるし、エメラちゃんからも色々と情報をもらっていたけれども、まさかこんなところで役に立つなんて思いもしなかった。

 というか、本当にコイツら、ビリアちゃんの言ってた傭兵部隊のメンバーなの?

 しかも、なんか船長キャプテンとか言ってた気がするんだけど。

「のう、おぬし。あた、妾の質問に答えておらぬぞ。どうするつもりじゃと聞いたんじゃ。まさか即位式で姫……たる妾とあのバカ王子との結婚式でもあげようなどという魂胆ではなかろうな」

 確かそういう感じのことをビリアちゃんは懸念していた気がする。

「分かっているならいちいち聞くな。あー、いや、ご存じであれば聞くこともないでしょう、王女様。貴女様の身柄は丁重に、その、扱ってやりますからご安心を」

船長キャプテン、無理やり敬語使おうとするの正直気持ち悪いですよ」

「うるせー」

 どうしよう。このままだとあのバカ犬王子と結婚させられてしまうかも。というか、その前にバレて処刑されてしまうかも。どうするのよ、この状況。

 今からでも冗談でしたー、とか言ってみる? いやいやいや、それだと奴隷ルート直行になるだけだから。何の解決にもなってないから!

「王女様よ、もうしばらくは辛抱しててもらうぜ」

 へへへ、と愉快そうに笑われてしまった。何がそんなにおかしいんだ、この男。にやけた顔をやめてほしい。というか、こっち裸なんだからそんなジロジロ見るなっての。服よこせ、服。

 って、言ったらまずいのか。ビリアちゃん、全身がモフモフだったからあんま服っぽいもの着てたイメージはないし、そんなこと言い出したら逆に怪しまれるのか。

 うぇ~、勘弁してよ。せめて服着たいよ。そんなえっちな目で見ないで、マジで。

「一先ず王女様には衣類をお返ししましょう。ただし、外部とのやり取りをされては困りますから機能には制限を掛けさせていただきました」

 シュパッと服が戻ってくる。

 うわ、この人、めちゃくちゃいい人だ。なんか端末なくなったけど、そんな贅沢言わない。そんな気遣いできるなんて、傭兵にしちゃ紳士すぎない?

「ふん、この程度で礼など言わんぞ」

 ありがとう、ありがとう、マジでありがとう。

「いいじゃねぇか、裸のまんまでもよぉ」

 うっさい、お前は黙ってろ! にやにや男! すけべ! ド変態!

「仮にも王女様ですからね。身なりは整えておかないと」

 気配りのできる男はモテる! あなた最高だよ。名前も知らないけど。

「そういえば、おぬしたちの中に惑星の破壊者スター・ブレイカーと呼ばれておる者がいると聞く。それはお前さんのことか?」

 何の気なしに聞いてみる。

「そんな機密情報を一体何処で……ああ、王女様でしたら噂も耳に入っていて当然ですか。しかしあいにくと違いますよ」

「へへへ、大した好奇心じゃねぇか。アイツは……まあいいだろうよ。もうちょいおしゃべりしたいところだが、残念。俺達も急に忙しくなっちまったもんでな。ここいらでお開きさ」

「ええ、すみません。そういうことですので」

 と、それだけ残して、なんともあっさりと二人は部屋から出ていってしまった。

 そして、あたしはポツンとガラスケースの中。

 どうしよう。このままだと色々とまずい。かといって助けが呼べるわけでもないし、一体どうなってしまうんだろう。

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