お・ね・え・さ・ま♪ (後編)

 何せ、お姉様は力を使ってシてくるとき、まるで針金かと思うほど全身をガチガチに縛る勢いで拘束し、操り人形みたいにしてくる。

 こうなると、あたしは自分の体を指先ひとつ動かせず、お姉様の思うままに動かされる。そうやって好き勝手に玩具にされる。ところが、ある程度までくるとそんなガチガチの拘束もゆるゆるに緩んでくるときがある。

 最初はただ疲れてきているだけだと思った。でも、だんだんそうじゃないんだと薄々分かるようになってきた。

 あたしが知っている、数少ないお姉様のこと。それは、お姉様は意外とメンタルが弱い。普段の振る舞いがおかしいとは思ってた。何考えてるのか分からないような行動、言動ばかりだった。

 あれが平気かと思えば、これがダメなんてものもいくつかあった。単なる気まぐれ、気分屋なんだと思い込んでいたけれど、どうやら違うみたいだ。全てはそう無理に振る舞っていただけ。全部がウソ、誤魔化しだったんだ。

 そうだ、答えは簡単だ。

 お姉様は攻められることに弱い。

 そして、攻められると超能力が使えなくなる。

「あにゃぁ……タ、タンマ、ちょタンマぁ~……」

 もうゴーグルなんて使わなくても、お姉様の考えていることが手に取るように分かってくる。ようやく、ようやくだ。お姉様の途轍もなく分厚い仮面をひっぺがせる。

 ポーカーフェイスならぬ、ふわふわフェイスを打ち破るのだ。

 サイコパワー的なアレで無理やり覚えさせられたこの手は、この指は、もう覚えている。お姉様自身のレクチャーによって、どのように動かせば効果的なのか、そして力の込め具合でさえももはや完璧でバッチリだ。

 そして、お姉様があたしを攻めるポイントもこの身体に刻み込まれている。あたしにとっても勿論多少なり効くポイントではあったが、人によって感じやすいポイントは異なる。とどのつまりアレは全てお姉様の弱点であること他ならない。

 そう、弱点は全て明かされている。

 敗因は己の過信が招いた、油断。全ての武器を預け、弱点を晒した。それが命取りだったのだ。懐柔すればどうにかなるとでも思ったのだろう。抵抗しない、反抗しない、愛玩動物のように思っていたのだろう。

 残念、そんなにあたしは甘くなどない。窮鼠猫を噛むという言葉もあるんだ。

 さあ、ブーストを掛けていこうか。

 もうアレだ。プッツーンしてるんだから、覚悟してもらうよ、お姉様。

 ラウンド2は、あたしがもらう。

「んひぃぃぃぃ……っっ!!」


 ※ ※ ※


 鮮やかに、ここに勝利宣言をする。完全勝利である。

 ベッドの上、しくしくと泣きじゃくるお姉様を横目に、ふぅふぅはぁと息を整える。正直なところ、ハッスルしすぎたのかもしれない。

 ここまでめそめそとガン泣きされるとは。途中から何が何だか分からなくなってたところはある。

 ああそうか、こういうのを見て、ゼクはついついイタズラしたくなったということか。今ここにしてようやくあたしは理解し、合点がいった。共感もする。

 ふわふわなお姉様の色んなものをひっぺがしてしまったなぁ。だが反省はしない。

 ふと、手のひらを見つめる。

 手の中に残る、ふわふわの感触を反芻。すっげぇふわふわだったなぁ。プニーにも分けてあげられたらよかったのに。あたしももうちょっと揉んでみれば大きくなってくれるのだろうか。ゼクに真剣に頼み込むべきだろうか。

 ゼクもコレを堪能していると思うと、そこはかとなく込み上げてくるものがある。

 眉唾な話で胸は揉めば大きくなるなんて聞いたことがあるが、医学的な話をすると胸って揉むと脂肪が燃焼して小さくなってしまうという話も聞いたことがある。

 あたしはどうしたらいいのだろう。

 下からクイッと持ち上げてみる。小さくは、ないんだよね? プニーが「無」と考えればそうだろう。お姉様を「巨」とするなればプニーはいっそ「虚」。

 つまり、その狭間にいるあたしは「小」でも「中」でもないはずだ。

 だが、待ってほしい。今この『ノア』にいる女性陣は数が少ない。そこが重要なのだ。エメラちゃんやジェダちゃん、ネフラちゃんを加えると乳率が圧倒的なことになる。そうだ、あたしを除くと全員がゼロであり、あたしは中の上くらいだったとしても、「巨」たるお姉様の独擅場なのだ。

 小・中・大とバラけているのならまあいい。

 現実は虚・並・巨と極端に尖っている。

 無しや半端が巨大の前にして選択肢に含まれるのだろうか? いや、選択肢としては有りなんだろうけれど、ここまで極端であれば偏るのではないだろうか。

 なんてことだろう。この些細と思われた差は断崖絶壁とも言える高さがあった。

 平均が低すぎる。なんだってちっぱいばっかなんだ『ノア』は。

 あたしの武器はお姉様に敵うと思うか? 否、勝ち目がないことは明白だ。

 プニーのあの悩み事が頭の中でリフレインする。「おっぱいが欲しい」というあの悲痛な思い。そんなこと気にするな、とあたしは言ったと思う。人には人の個性もあるのだから。女の魅力はおっぱいだけじゃないんだから、と。

 それは、あまりにも軽薄で薄情な言葉だったのではないだろうか。

 あたしとお姉様との差は僅差ではないが大差でもない。しかし、違う観点から見てみよう。とどのつまり、プニーの方だ。

 ゼロ。ゼロだよ。崖の底だ。

 あたしには崖の淵に手が届きそうで届かない程度の位置にいたからこそ、分かっていなかったのだが、このおっぱい戦争には敗北の文字が掻き消せないほどに深く深く刻まれている。

 そうか。プニーが必死になる理由はここにあったのか。

 コレか。

「ぅぁんっ」

 コイツか。

「ひっぐぅ」

 これこそが全ての元凶、諸悪の根源かぁ。

「んひゃぁぁ!」

 分かってる。分かってるよ。分かってるつもりだよ。

 女の武器は一つじゃないということを。

 だけど、だけれど、だけれども、この胸の内から沸々と湧き上がるものを冷ますには、少し火照りすぎた。

 この行き場のない感情、どうしたものだろう。

 このおっぱい、どうしてくれよう。

 ああ、そうだ。そういえば、おっぱいって揉んだら小さくなるんだよね?

「ちょわぁぁっ、な、ナモナモ、ご、ごめんて、も、もうあかんからぁ……っ!」

 このまま第三ラウンド、行っちゃってもいいよね。

「もうやあぁっっ……!」

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