おっぱいが欲しい (3)

「大体そもそも、プニーってゼクと、ぁー、性行為えっちしているんだよね?」

「ええ、もう何度か」

 この無表情である。さっきからあたしは恥ずかしくて蒸発しそうになっているというのに、よくこうも顔色を変えずに言えるものだと感心しちゃうわ。

 積極的に押せ押せなお姉様もそうだけど、プニーも似たようなもんだ。なんといっても度胸が違う。そんな簡単に素直な自分になれるなんて羨ましくて仕方ない。

 いや、まあ、あたしも自分からゼクにアプローチ掛けているんだけどさ。レベルが違いすぎるでしょ。

「そのときの気分というか雰囲気というか、こう、何かくるものってあると思うんだ。ゼクも話しかけてくれたりしない? キレイだよ、とか、可愛いねとか、なんかそういうの!」

 ぐぅ、何故あたしは自分にダメージを負うようなことを追求しているのか。

 いや、まあ、これで少しでもプニーの不安が拭えれば。……拭えるのか?

 でもさすがにベッドの上で他人行儀で事務的な営みはないだろうし、いくらプニーが無表情だからといって無感情であるはずがない。きっと何かあるはずだ。

「ナモミ様のおっしゃることは分かりかねますが……そうですね、ゼクラ様からはあまり大げさにはしゃぐなとは言われましたね。もう少しおしとやかになれとも」

 え? どういうこと?

 プニーはゼクとヤッてるときに、はしゃぐなとか、おしとやかにしろとか言われているっていうこと? それはとどのつまり、どういうことを意味するの?

 まず、どうみたってプニーははしゃぐようなキャラじゃないし、いつもおしとやかなイメージしかない。普段のプニーならそんなことを言われると思えない。

 ベッドの上だとプニーは違う顔を見せるってこと?

 今でこそ、こう無表情で一見感情も読みづらい人形みたいなコレだけど、ゼクの相手しているときは積極的に、もうノリノリな感じになっちゃうわけ?

 いや、まあ、確かにプニーは積極的にゼクにすり寄っているところはあったけれども、まさかそこまでぐいぐいいっちゃう、というかイッちゃうの?

 ちょっとさすがに想像できないというか、なんか、聞いちゃいけないことを堂々と聞いてしまったような気がする。思えば、他人の情事なんて第三者が問い訊ねるようなものじゃなかった。ヤバいところに踏み込んじゃったのかも。

「子作りというものは大変なものだと改めて実感しましたね」

 無表情なのになんなんだろう、この悟りを開いた賢者のような風格は。あたしはてっきりプニーにアドバイスする側かと思い込んでいたけれども、実は逆なのでは。

 想像していたよりもずっとハードなプレイをしていたのか、プニー。まるで想像もつかない。普段、ゼクとどんなことしてるのよ、プニー。

 一体何処に不安を覚える要素があったの? よろしくやってるじゃないの。

 それとも逆なの? マンネリ状態にハマってハードなプレイしなきゃならないところまで来ちゃってるとかそういうアレなの? 不安ってそういう……。

「ナモミ様はどのような感じなのでしょうか? ゼクラ様との性行為セックスは」

 とんでもないカウンターが返ってきた。それを聞いちゃう? 聞かれちゃうの?

 自分から聞いてるんだからそりゃまあ返されるのは必然だ。想定していたのよりもずっと重いのが返ってくるなんて。

 だって、あたしの方がどうだなんて言われても、アレよアレ。そんな特殊でもないし、ハードでもないし、普通にベッドの上でイチャイチャしているようなもんだったし、あれ? もしかしてあたしって幼稚っぽい?

 またしても急激に恥ずかしさバロメータが上り詰めてきた。なんであたしがこんな辱めを受けているのだろう。確かプニーに助言するだけの話だったはずなのに。

「あたしは、まあ普通かな」

 視界が右へ左へと定まらず、泳ぐ。

 溶けてしまいそうな自分の熱量に、浮かされる心地だ。

 目の前にいるプニーが、途轍もないエロの怪物に見えてきた。こんな可愛らしい見た目をしているが、ベッドの上でゼクと、いやぁん、らめぇ、とかやっているのだと思うとあたしなんかとは一線を画す遙か遠い存在のように思えて仕方ない。

「普通、普通なのですか……」

 なにやらプニーが俯く。なんだろう、その不満げな顔は。普通に憧れるみたいな憂う表情。普段がハードすぎるから普通が恋しいとでもいうのか。

 プニーは人類繁栄が任務だもんね。そうだよね、まだ誰も妊娠確認できていないんだから励んじゃうよね。そう考えると合点がいく。

 そうか、むしろ逆なのか。あたしの方が不安を覚える側か。だってそうだよね。人類繁栄を目的とするなら積極性、大事だもんね。あたしももっともっとプニーみたいに頑張っていかなければならない側だ。

わたくしも普通な性行為セックスをしたいですね」

 またとんでもないことを口走られた。やっぱり本当に普段から普通じゃないという言い回しじゃないか。完全なる敗北を今、通告されたような気がする。

 いや、別にハードなプレイを求めているわけじゃないんだけど。でもただただイチャイチャしてるだけだなんて人類繁栄を考えたらやっぱり問題外?

「ぁー、うん、でもゼクとの性行為えっちに大きな障害はないみたいだし、プニーが不安覚えるようなことはないと思うよ」

「そうなのでしょうか? まあ、確かに体調管理も万全ですし、妊娠するには障害はないものと思われますが」

「そうだよ。赤ちゃんを産むのが目的なんだから。アプローチもできてて、ちゃんと性行為えっちもできてる。ここまでが完璧なんだからプニーは立派だよ」

 いっそプニーが立派すぎて、あたしはもう完敗だよ。何を教えたらいいの。

 話を聞く限りではこうも完璧すぎるくらいなのに何故プニーはこんなにも不安を覚えているのか。

 密かな焦りを感じる。何をそんなに焦っているんだろう。

 そこでハッと思い至った。プニーもあたしと同じ悩みを抱え込んでいるのでは。とても単純明快な答えが巡ってきた。

 この『ノア』には男はゼク一人。そしてあたしたち女性陣は今、全員ゼクの子供を産むための努力をしてきている。ただ人間ってコンピュータとは違う。感情の伴う生き物だ。身体を重ね続けて無感情でなんていられない。

 とどのつまり、ゼクの心が奪われるかもしれないという競争心が芽生えている。

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