模擬戦

はじまりの合図と同時にスティラが消えた、周りにはそう見えただろう。だが俺にははっきりと見えていた。初めの合図とほぼ同時に俺の左側の首目がけて斜めに斬ろうとしてくる所まで。

全て見えていた俺は剣を左手で持ってスティラの初撃を防いだ。

この攻撃を防がれたスティラは直ぐに後ろに飛び距離を取った。


「やっぱりそう簡単にはいかないわね」


防がれた本人はやっぱりという表情をしていたが、周りはそうではなかった。


「もしかしてレイモンドさんの一撃を防いだのか!?」


「いつもより本気だぞ……その攻撃を防ぐって、あの新入生何者だ?」


ルル達を除いて、全員が驚愕の表情を浮かべていた。


「分かっててなんであんなバカ正直に突っ込んできたんだ?」


「小手調べよ。あれで倒れたら私の本気が出せないでしょ?」


「そうか。なら本気を見せてみろよ」


「言われなくてもそうするつもりよ!」


そう言うとスティラの目の色がうすい桃色から燃えるような赤色に変化した。


⦅あれは魔眼の一種ですね。どのような魔眼なのかは見てみないとわからないですが、おそらく身体強化系の魔眼でしょう⦆


(解説ありがとな)


「どう、ビックリした?でもまだまだよ!」


俺の返答を聞く前にスティラからそれなりの魔力を全身から感じた。身体強化と防御系の同時展開だろう。


「さぁ!いくわよ!!」


さっきまでとは別人のような速さで迫ってくる。しかし俺はそれでもはっきりと見えている。


カーン!


木刀と木刀がぶつかる音が鳴る。1秒間に5回ほどの交差。こんな激しい戦闘をして周囲に被害が及ばないはずはなく、小さい石などが飛んでいるが、そんなことはお構いなしにスティラは俺に連撃を打ち込んでくる。

それが30秒ほど続いて、鍔迫り合いになった。


「あんた何で反撃してこないの!?」


「さっきのお前みたいに小手調べしてるだけだ」


「何言ってんの!もうあたしは本気で戦ってるのよ!」


「分かったよ。それじゃ、ちょっと本気を出すか」


そう言って俺は強引にスティラの剣を押し返して距離を取る。


「あんたの本気を見れるなら準備ができるまで待ってあげる!」


「それはどうも。誰か、もう一本木刀を貸してくれませんかー?」


俺は周りに呼びかけた。すると審判の男子生徒がこっちによってきた。


「僕ので良ければ貸すけど、まさか2本持って戦うつもりかい?」


「そうだ。問題ないだろ。もしかしてルール違反か?」


「いや、そんなことは無いんだけど、単純な考えで二刀流は扱えないよ?」


「単純な考え?」


「剣を2本持てば手数も2倍になるって考え方だよ。そんなに簡単じゃないんだけどね。均等に攻撃出来ずにどうしても利き手の方が多くなったり、片方手の方に釣られたりですごく難しいのさ。二刀流のスキルを持っていたら別だけどね」


「なるほどな……忠告ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」


俺は男子生徒から木刀を受け取る。持った感じ長さも重さもほぼ同じだ。


「頑張れよ、期待してるから」


「ありがとうございます」


「もう話は終わった?」


話が終わったタイミングでスティラから声が掛かった。


「終わったぞ」


スティラは俺の顔と今受け取った剣を交互に見て呆れた顔をした。


「二刀流、ね。あなた本気でって言ったのよ?」


「そう言ったしこれが俺の本気だ。まぁ、本当の本気は魔法戦なんだがな」


「だったら尚更負けられないわね。あなたの家は魔法家庭。私は剣術家庭。それも世界最高峰の剣術流派。それにそんなふざけた戦い方をする人には特に負けられない!」


「分かった分かった。それじゃあ……いくぞ!!」


第2ラウンドが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る