14.「えっへへ、有り難うお兄ちゃん」

自称妹はころころ笑みを綻ばせている。


結局居候させる事になった。


大丈夫さ。この子は他人から見えないんだから通報される事は無い。・・・多分。


「そういえば君、名前は?」


「私?」


「そう、名前。僕は君の事知らないし」


「千尋・・・だよ?」


「いや、上の名前も」


「山先・・・。山先千尋・・・。」


・・・ちっ、名字も僕と一緒か。これで間違えていたら、兄妹じゃないと言って、追い出していたんだがなあ。


「ああ、そう。まあ、仕方ない。宜しくな。僕の妹さんとやら」


と僕が手を差し出すと


「うんっ!」


と自称妹は僕の手を握った。


「お兄ちゃん・・・。私の事、千尋って呼んでみて。」


「はっ?」


「だって、お兄ちゃん、私の事、『君』とか言って、名前で呼んでくれないもん」


「そりゃあ、君の名前知らなかったし・・・。」


「うん、だからね。呼んでみて。」


自称妹は僕を期待に満ちた目で見ている。


「・・・嫌だ」


「えー!」


「何となく嫌だ」


何故、この押し掛け自称妹をまるで親密な中の様に呼ばねばならないのだ。


「読んでよー。ちゃんと名前。兄妹なんだから!」


「僕は兄妹になった覚えは無いぞ!」


「お願い!」


自称妹は手を合わせて頭を垂れた。


「嫌だのう」


「・・・お願い、本当にお願い。だって・・・だって。」


「今までお兄ちゃん、私の事、千尋って呼んでいたんだよ?・・・突然変わるなんて、嫌だもん・・・。」


自称妹は声のトーンを落としながら言った。


「・・・・・・千尋ちゃん」


「!」


自称妹は顔を上げて僕を見る。


「・・・千尋ちゃん。これで良いかな?」


「うん!」


ぱああと顔を綻ばせる自称妹。


・・・仕方がない。仕方がないのだ。あまり関係を持ちたくないのだが。


こうして僕と自称妹、千尋ちゃんの奇妙な同棲生活は始まるのだった。

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