第04話 どむっ どむっ
「魔法女子ほのか」という壮大な物語を完成させるべく、四人は日々集まっては、着々と構想を練り続けていた。
四人、
レンドル
トゲリン
八王子
敦子殿
構想の大枠は、もうだいたい固まりつつあった。
まず決定事項としては、大きく次の三つ。
続編構想会議の初期に八王子が提案した、血で血を洗うドロドロ展開で行こうということ。
四人の魔法女子は、異世界しかも既に滅んでいる古代人が作り出した
対立の構図としては、「ほのか、ないき」対「らせん、かるん、ありむ(魔法女子の新メンバー)」。
現在検討中なのは、シリアル路線への移行タイミングと、ラストである。
特にラストが喧々囂々、いくら話し合ってもなかなか方向が定まらない。
地球が滅び、宇宙すらも消滅してすべて無に帰すのが、定夫の案。
ほのかたちは滅ぶが、地球は救われて終わるのが、ネチョネチョの案。
地球もマーカイも魔法女子も滅ぶが、ほのかたちの起こした奇跡に、地球が異世界と融合を遂げて復活するのが、八王子の案。
敦子は、自分で考えた案はないが、どれかを選ぶのであれば八王子派だ。姿形こそ別物とはいえ、元気なほのかたちを見ることが出来るからだ。
会議初期には、「それは悲しすぎるだろう」と、八王子案を否定していた定夫であるが、救いのなさという点では定夫の案が一番酷い。
その救いのなさから、何を学ぶかだ。と定夫は思っている。
第一作目(エピソード3)であるが、設定が完全でないまま見切り発車で作り上げてしまったものだから、振り返って見るまでもなくかなりの矛盾点を含む作品になってしまっている。
その矛盾を解消するのみならず、むしろ昇華させるような、巧みかつ斬新な設定を作ること、
ラストをどうするかということ、
ほのか側にも新魔法女子を作るべきか否か、
と、いった点をはっきり決めきってから、コンテ作りやビジュアルデザインに取り掛かろう。と、日々熱く語り合いながらシリーズとしての概要を煮詰めていく定夫たちであったが、
青天の霹靂に、彼らの
いや、予見出来ないものでは、決してなく、むしろこの活動の真っ直ぐな延長上に用意されていたもなのかも知れない。
いずれにしても、彼らを驚愕させる衝撃が襲ったのは間違いのないことだった。
なにが起きたのか、説明しよう。
ある一件のメールが届いたのである。
もう三日も前のこと、ただ、気付いたのはほんの少し前だ。
ほのか制作委員会(正式名称は、スタジオ
気が付いたのは、敦子である。
新キャラのキャスティングに備えて、知り合いからのメールを検索していた際に、たまたま発見したものだ。
差出人は、あるアニメ制作会社の担当者であった。
メール内容を単刀直入に説明すると、
魔法女子ほのかを、テレビアニメ化したい。
どむっ!
涙目で狂乱したように慌てふためく敦子に急かされるようにメールを目にした瞬間の、定夫の、心臓の音であった。
とてつもなく分厚い脂肪の奥なので、聞こえるはずもないかも知れないが、でも確かに定夫は、自身の胸のたかなりを聞いたのである。
どむっ!
どむっ!
続いて、トゲリンと八王子の、心臓が爆発した。
他人の心音がこうして聞こえてしまうくらいだから、自分の音が聞こえるくらいは当然というものであろう。
心臓の音などかわいい方で、トゲリンなどギョンと槍のように鋭く飛び出した目玉が眼鏡のレンズを突き破っていた。咄嗟に避けなければ、定夫の脳天はほぼ間違いなく槍に貫かれて即死していただろう。
現実に心が戻るまでに、どれだけの時間を要したであろうか。
定夫は、そおっと手を伸ばし、トゲリンの腕をぎゅうっと思い切りつねってみた。
「痛い!」
ネチョネチョした悲鳴が上がる。
夢じゃない。
ごくり、と定夫は唾を飲み込んだ。
ネットでの高評判を受けて、テレビアニメ化という野望は夢として抱いてはいたが、そう簡単にかなうようなものではないことも理解していた。
続編を作るにしても、あくまで同人誌のような、分かる人に分かってもらえばよい、というそんなレベルの代物であろうと心の奥では思っていた。
それが……
こんなにあっさりと、他から展開の話が来て、
しかも、それがいきなりテレビアニメとは。
ネットでもOVAでもない、王道の中の王道であるテレビアニメ。
夢としか思えないが、だが現実なのだ。
このメールを信じるのであれば、という前提付きではあるがこれは現実なのだ。
嗚呼、
テレビアニメ化。
どこだろう。東京TXかな、やっぱり。深夜枠かな、やっぱり。贅沢はいっていられないが。
意外と人気が出て、一期、二期、三期、とシリーズ化したりして。
OVA化、したりして。
劇場アニメに、
ゲーム化、
スピンオフ、
漫画、
落語、
意表ついて紙芝居、人形劇、
カード入りほのかスナック、
トレーディングカード、
山手線で、車体広告、
小説、
フィギュア発売、
制作者インタビュー、
海外で放映、
つまり、
世界征服!
伝説の、始まり……
そんな言葉を胸に唱えながら、
定夫は、
ぎゅっと、脂っぽい拳を握りしめたのである。
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