第2話 オフィスにて・・・
原宿へ着き、電車を降りるとホームで多くの人が行き交っていた。特に学生が多く、いわゆるファッションモンスターがたくさん存在していた。それを見て、俺は少し腹が立ったので、ボソッと小声で言った。
「バルス」
俺はもしかしたらこのホームくらい崩れるのではないかと思ったが、何も変わらず、ただ改札へ向かった。改札を出てから、竹下通りを横目で見た。相変わらず、人が多い。俺は何を思ったのか、久しぶりに若い頃の気持ちを取り戻そうという名目で竹下通りを通ってみた。そこは学生の頃、見たことあった店があったりなかったりだった。依然として変わらなかったのは人の多さと、行き交う人々の平均年齢の低さくらいだった。
俺はすぐに飽きてしまい、竹下通りを出て、なんか有名らしいポップコーンを買ってみて、それをつまみながらオフィスへ向かった。
うちの会社のオフィスはビルの一部屋を借りているものであったが、使用するぶんには十分な広さがあり、不便はなかった。俺はビルの三階にあるオフィスのドアまで行った。すると、
「ん」
そこには見たこともない凛々しい女性が立っていた。しかも、相当可愛い。その人は俺の姿を確認すると、俺に訊いて来た。
「あの。今日、面接で来たんですけど。どうやらオフィスの鍵が開いていないみたいで困ってたんです。ここの社員の方ですか?」
俺は急な出来事に驚いた。まず、この女性に話しかけられたこと、またこの人が面接をしに来ていたということ。
代表が頼みたいと行っていたことにおおよそ見当がついた。それはこの人の面接をしてくれ、というものだったのだろう。とりあえず、俺はドアの鍵を開けてから中へその人と一緒に入った。椅子を用意し、座ってもらい、自分も電気とクーラーをつけてから椅子に座った。
しばらくの間、無言が続いた。ふと、自分がさっき買ったポップコーンを取り出して、尋ねた。
「食べますか?これ」
「いえ、結構です。お気遣いありがとうございます」
「あ、そうですか……お名前はなんというのですか?あと面接しに来たんですよね?」
「はい。私は神山花恋です。本日は面接をしに……」
「そこまで堅くならなくて大丈夫ですよ。ここは大手とは違って、名も無いベンチャー企業ですから。あはは」
俺はなるべく神山さんの緊張を取るために、和やかな雰囲気を出した。
彼女は終始、愛想が良く、受け答えもはっきりしていた。何故、うちの会社に面接に来たのか不思議であるくらいに、完璧であった。
「おいくつですか?あと、今回は清掃のアルバイトの応募ということですが……」
「はい、現在22歳です。アルバイト応募のきっかけは、私にぴったりの仕事だと思ったからです。というのも、私は昔ホテルで清掃を行っていました。なので、清掃のスキルに関しては多少の自信があるということと、また清掃する行為が私にとって楽しいからです」
「そうですか。ホテルで清掃を」
同い年なのか……。それにしても、なんでうちの会社に。
「ちなみに今のご職業は?」
「私は以前、IT系の企業にいましたが、今はお恥ずかしながら、退職しフリーターをしています。しかし、私は今準備期間としてまして、次のステップに踏めるようにまずはお金を稼ごうと思いまして」
フリーターか……。前職で嫌なことでもあったのかな。ここまで綺麗で完璧だと周りから疎まれてしまうんだろうな。
「わかりました。神山さんの方から、何か聞きたいことはありますか?」
「はい、このアルバイトは週に何回程、入れるのでしょうか?」
早速、仕事に入ろうとしてるんだな。偉いなぁ。
「そうですね。基本的には毎日、清掃の依頼は入って来ます。なので、入りたければ毎日は入れますが……」
「わかりました!それさえ分かれば十分です」
「そうですか。では、面接は以上にしましょう。今日は暑いですから、道中お気をつけてお帰り下さい。あと、合否につきましては後日、お電話でお伝え致します。それではお疲れ様でした」
「はい、ありがとうございました!」
彼女は部屋から出て行った。俺からしたら、彼女の印象は実に終始、感じのいいものであった。不合格にする余地が見つからない。それに今、うちの企業は圧倒的に人数が足りないこともあったため、一人でも増えると助かるということもあった。神山さんは真面目そうだし、よく働いてくれそうだ。
俺は面接が終わってから、代表に連絡をした。しかし、代表は連絡に出ることはなかった。
「あの人、何やってんだ……」
俺は面接が終わって、ひと段落がついてから時計を見た。時刻は五時。
その日、俺はそのままオフィスでパソコンを開き、少し仕事をした後に、帰宅したのだった。
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