第13話 噂

「誰かが噂を流したんじゃないかな……。どっちかが口を滑らせて、それを聞いた相手だと思うんだけど」


「……そんな」


 学校中で噂になることを嫌がったから、内緒で付き合っていたんだと思う。

 だけど普通、つき合うのは嬉しいことだ。

 誰にも言わないではいられなかったんだろうと思う。私に教えた亜紀みたいに、槙野君もそうだったんじゃないかな。


 亜紀は私以外にも話したかもしれない。

 もちろん、話した相手は信頼のおける友達だったと思う。 私も溜めておけなくて、芽衣と沙也に話してしまったけれど、二人は他の人に話を漏らすような人じゃない。


「でもなんでフラれたって話なのかな? 別れただなんて聞いてないんだけど」


 別れたら、絶対に亜紀は私にメールしてくる自信がある。


 さすがに避けられているのは、私も憧れていた人と付き合っていることを、自慢し続けたせいだってわかっているだろう。だからこそ、槙野君と別れたらすぐに連絡してくるはずだ。

 同じ立場どころか、完全に振られて惨めな状態になった自分なら、同情して避けずに聞いてくれると思うだろうから。


 だけどそこで思い出す。

 昨日の、突然現れて消えた亜紀のことだ。

 やっぱり亜紀に何かあったのではないか、という気持ちが心に浮かぶ。とはいえどう説明したらいいのか。

 悩んだ末に、私は芽衣に変な聞き方をする。


「そういえば芽衣……その。こういうのってどう表現するのかわからないけど、似たような物を知らないか教えてほしいんだけど」


「なに?」


「誰も居なかったはずの場所に、突然人が現れたと思ったら、こつぜんと消えちゃうのって……どういうものなんだろ」


「何それお化け?」


 あっさりとした芽衣の答えに、やっぱりそうだよね、と思う。


「お化けしかいないよね……。ただそれが、生きてる自分の知り合いだった場合ってどうなんだろ?」


 死んだ人なら幽霊だなってなるんだろうけど。これもまた芽衣が、明快な答えをくれる。


「生霊ってやつじゃない?」


「いきりょう……」


「なんか、オカルト系のテレビでやってたけど、人を妬んだり恨んだりしすぎると、その相手のとこに、自分の魂が飛んで行っちゃうとか」


「あ、確かに聞いたことある」


「でしょ? そんで取りついて、相手を怪我させたり、具合悪くさせるとかさ。でも気持ちだけでそんなことできるんだったら、世の悪人とかいなくなりそうだよ」


 そう言って芽衣が笑うので、


「だよね、あはははは」


 私もつい合わせて笑ったけど……。怪我……まさにしそうになりました。

 本当に生霊かもしれない……と身震いしそうになるけど、芽衣に心配をかけないようにこらえて、私は考える。


 とすると、あれは幻覚?でも幻覚だとしたら、記石さんが助けてくれたことも、夢かなんかだったっていうことになる。

 はっきりと「じゃあまた」って言って、肩に……されたのに。


 思い出すと、なんか意味もなく歩き回りたくなった。

 とにかく、記石さんと会って、あの時のことが幻覚だったのかどうか聞こう。じゃないと、あの時見た亜紀のことをどう考えていいのかわからない。

 そう決意していると、芽衣に尋ねられた。


「ところで生霊、見たの?」


「ええっと、お母さんの幻が」


 正直には言えないので、お母さんを身代わりにしてしまった。ごめん……。

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