吸血鬼の喫茶店#12

「ライム」


「はい? 何か用事ですか?」


 私がそう呼ぶとライムはいつも通り呆れるほどとぼけた声でそう返した。


「本当に明日で最後なのか?」


「何ですか? 今頃になってライを引き留めようとしているんですか?」


「そんな事は無い」


 が、少し寂しくなるような気がしなくもなくは無いのは確かな気がする。


「何があってもライは明日でこの喫茶店を卒業しますよ。この支配からの卒業です」


「支配なんてしていないだろ」


「されていませんでしたね」


 こんな会話を出来るのも明日までと考えると少し悲しくなる。


「ライム、餞別せんべつにこれをやろう」


「これは?」


「言わなくてもわかるだろう? コーヒーミルだ」


「そんな事はわかっていますけど、このコーヒーミルはこの店で使っているやつですよ」


「良いコーヒーは良い道具からだ。店のコーヒーミルは新しいものを買うから心配しないでくれ」


「なら、その新しい方下さいよ」


「ライムのような初心者にはおさがりで十分だ」


 私はそう言ってこの店を始めるときに師匠から押し付けられたコーヒーミルを私の立派な弟子であるライムに押し付けた。



6月28日 オレンジ

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