世渡のよろず屋⑧

「よいしょっと」


「よっと」


 ローズさんにサファイアくんが呼びだされてからしばらく経ち、僕が1人で来るかもわからないお客さんを待っているとサファイアくんとローズさんが段ボールをそれぞれ1箱ずつ持ってよろず屋にやって来た。


「ローズさん、この段ボールは?」


「幼稚園や保育園に通っている子たちが書いてくれた絵」


「どうしてそれがローズさんの所へ?」


「ワタシのお店で読み聞かせをしているのは知っている?」


「あぁ!」


 それを聞いて僕の中で納得がいった。


「サクラちゃんがユグドラシルに来てくれた幼稚園児や保育園児にワタシのお店で売っている絵本の読み聞かせをしているのだけど、その絵本を読んだ感想として絵をお見せに送ってくれていて。お店に飾れれば良いのだけど、これだけの数があると流石にお店には飾りきれなくて」


「それでこのサファイア僭越せんえつながら一時的に3階のホールで展示が出来ないかと提案させていただきたいのですが」


 空きテナントを使うのではなくユグドラシルの共有部分を使うのであれば僕の許可だけで済むというのをサファイアくんはこの仕事で学んだようでそう提案してきた。


「サファイアくんの提案は悪くないと思うけれど、残念ながら3階のホールは使用予定があるから難しいかな」


 そう言うと、ローズさんとサファイアくんはあからさまに悲しげな表情を見せた。


「じゃあ、1階の通路ならどうかな? 1階の通路は広いから通路の真ん中にボードを並べればそのボードに絵を飾れるし、1階なら多くのお客様の目にも留まるから良いと思うよ」


「流石です! 世渡さん」


「飾るのは閉店後に行うとして、申し訳ないけどサファイアくんは倉庫に行ってボードがいくつあるか見て来てくれるかな?」


「わかりました!」


 サファイアくんは元気よくそう言って倉庫へ向かって行った。


「ありがとう。世渡オーナー」


「礼には及びませんよ。でも、閉店後手伝ってくださいね。僕とサファイアくんだけでは今日中に終わるかどうかわからないので」


 僕は半分冗談っぽくそう言った。



3月4日 不知火世渡

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