第152話 真の強者とは

 自覚はしていた。自分が傲慢になっていた事実に。


 しかし、改めて自分の考え全てを見透かしているナビーから告げられた言葉は、自覚していた事実とは全くと言って違うようなものに聞こえ、それは再び別の凶器となって心を突き刺す。


(真冬さん、力はどういう人が持ち、どういう時に使うべきと思いますか?)


 ナビーがふと問いかけてきた問いは、とても優しく、それこそ神が人々に慈愛を与えているかのようだった。


(――――)


 そして、ナビーのその慈愛のおかげで大きな波紋が起き、さざ波立っていた僕の心は、まるで秘境の湖の如く一片の揺らぎも許さないぐらいに静まりかえった。


 平然とした心と、すっきりと憑き物が落ちたかのような頭で僕は問いに対して思考する。ナビーには思考しただけで、頭に思い浮かんだだけでそれが伝わる。しかし、僕はおもむろに口を開き、あえて言葉にする。


「力は正しく扱う事が出来る人が持って、正しいときに使うべきだと思う……」


 ナビーが再度問う。


「では、正しい扱うとは?正しい時とは?」


 ナビーからは僕がその考えに至り、言葉にするまでに半分予想していた問いが、打ち返されたように間もなく返って来た。


 予想していた問いに対して、あらかじめ用意していた考えがあった。確かにあったはずだったが、何故だかその考えは喉に蓋をされたかのように声に出せなく、長い逡巡の末、自分自身がその答えを本当に正しいと思っていないことに気が付いた。


 ――所詮、正しいとは主観に過ぎない。


 だが、その沈黙に対してナビーからは納得のような、感心しているような、とにかく肯定している感じなのが心なしか伝わってきた。そして、それを感じ取った程なくして、


「それで良いんです。真冬さんの最初の答えですと、道を一歩でも踏み外した時、あるいは正しいと信じ込まされた時、その人は正義を振りかざすために暴力さえも厭わない人になります。しかし、自分が正しいのか、自分が信ずるものが正しいのか、自分の考えが正しいのか、常に探し、常に疑い、常に考える人は力を持つのに値し、正しく力を使うでしょう」


「――――」


 探すことは迷うことではない。疑うことは信じないことではない。考えることは定まらないことではない。


 暗闇の中では探すこともままならないし、何を信じればいいのかも分からないし、考えは呆気なく黒く塗りつぶされてしまう。その結果、誤った方向へと舵を進めてしまう。


 だから、それら全てのことは暗闇の中でも自分という存在を見失わないために、自分という輪郭を忘れてしまわないように、最も大事なことだ。


「真冬さん、今あなたがしたように心に自問自答を繰り返してください。そうすれば自ずと答えが見えてきます。そして、その答えを出せたときは、真冬さんは真の強者となるでしょう。力を持ち、その力を正しく、最大限に使える強者に」


 ナビーがそう言い終わった後、グツグツ煮込んでいた目の前の料理から、何とも言い難い良い香りが鼻を通り抜けた。

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