89話 予想外の出会い
セラの悲鳴を聞きつけ休憩地点に駆け戻ると、すでにそこは戦場と化していた。
「ッ! 何だこりゃ!?」
私達が休憩していた焚き火を囲むように魔物が覆っている。
普段なら魔物が襲ってくる程度なら私は驚かないが、今回は数が異常に多い。
地上からは森の奥から次々とリザード型の魔物とゴブリン型の魔物が押し寄せ、空にはワイバーンの姿が三匹程見える。
「ワウ!?(なんすかあの数!?)」
一体どこから湧いてきたんだ。
それに、見た感じどの魔物も体皮が黒いのが気になる、事前に聞いていた話ではあんな魔物のことは聞いていない。
それにワイバーンも奥地の山に生息し、この海側には滅多に見ないはずだ……なのにどうして。
「やぁ! ……うわ!」
「カイル! この、これでも喰らいなさい!」
戦場の中心で二人は魔物に応戦していた。
カイルはセラを守りながら戦っているようだが、実戦経験が少ない彼ではこの数を相手にするのは無理がある。
セラも自慢の魔導銃で的確にヘッドショットを決めるが、一匹を倒すよりも早く奥から次々と魔物が現れる。
「うわあああ!」
ついに魔物の猛攻に耐え切れなくなったカイルがセラの下まで吹き飛ばされる。
どうやら腕をやられたらしく剣をまともに振れなくなってしまったようだ。
「グギャアアアアア!」
だが、そんなことはお構いなしにと上空から一匹のワイバーンが急降下し始める。
その咆哮と共に地上の魔物達も総攻撃をしかける。
私とセラ達との距離は目測でおよそ80メートル、地上と上空のどちらも対処いなければならない……が、私なら対処できる!
「術式展開、属性"闇"、『
「グア!?」
「ゲギャ!?」
私の魔術により魔物の周囲の影が魔物達を拘束していく。
これは以前イレーヌにやられたものを私なりにアレンジしたものだ。
これにより奥に控えていた魔物も縛られた魔物が壁となり進行を阻害される。
「いやあああああ!」
あとはワイバーンだが、すでにその口はセラの眼前に迫っていた。
が……。
パァン!
「悪いな、もう終わってる」
セラは目を開けると、何が起こっているのかわからず放心してしまっている。
それもそうだろう、なにせ先程まで目の前で自分に牙を向けていたワイバーンの頭が吹き飛んでおり、その体は痺れるように痙攣しながらその場に崩れ落ちていくのだから。
「ワウ!?(ご主人、その手に持っているモノは!?)」
私が今手に構えているモノ……それは先程まで私の腰の謎ケースから取り出された新兵器。
「まさかいきなりお披露目することになるとは思わなかったぜ。これが私の新兵器、その名も“魔導銃アルマデス”だ!」
え? 大見得を切った割にはただの威力の強い魔導銃じゃないかって?
何をおっしゃるうさぎさん、私の発明がその程度で終わるわけないじゃないか。
「グギャア!」
動きを止め切れなかった魔物の群れがこちらへ向かってくる。
どうやら今度は私を標的に選んだらしい。
が、私を狙ったのが運の尽きだな。
「
私が銃を操作すると、中からカチャカチャと駆動音が鳴り、形状が少しばかり変化する。
「食らえ!」
ババババババババ!
先程と異なり、今度は銃口から水の粒が魔物達目掛けて乱射される。
雑に乱射された銃弾は魔物の足や腰に命中しその場に倒れこむ。
その上を私はヒョイと飛び越え。
「残念ながら私は襲ってきた輩に慈悲をかけてやるつもりはない『
「グギャアアア!」
炎を食らった魔物が勢い良く燃え上がる。
「ワウン(うわ、凄く燃えるっすねぇ)」
「実は先程乱射した弾丸は水じゃない、油だ」
動きを止めると同時に次の攻撃の布石も打っておいたというとこだ。
この魔導銃はそこらの既製品と違い、数種類の属性を撃ちだすことができる。
さらに、察しのいい方はお気づきかと思うが、この魔導銃には銃器タイプを変更することが可能だ。
日本でプレイしたFPSゲームから、私の持てる魔導技術を駆使することで数々の銃器として使うことができる。
だがまだ序の口だ、こいつの機能はこれだけじゃないぜ。
「そら、道を開けてもらうぞ魔物共」
影に縛られている魔物に向けアルマデスを振りかぶる。
別にこれは魔物を殴ろうとしているわけではない。
私がアルマデスに魔力を込めると、銃身の下部の根元から先までが淡く光を放つ。
その部分に触れた魔物の体はスパッと紙切れのように切断される。
「ま、ヒート○ークってとこだな」
「ワオン?(ビーム○ーベルじゃないんすか?)」
うるさい、私はザ○派だ。
「二人とも大丈夫か!」
さて、どうにか二人の下まで辿り着くことができた。
現状を把握しなければ。
「私は大丈夫です。でもカイルが!」
「……重症だな。動くなよ、『
「うう……ふぅ……」
痛みで苦しんでいた表情が和らいでいく。
これで大事に至ることはなくなったが、骨がくっついたわけでもないし戦線復帰は無理だな。
しかしそうなるとこちらの戦力は私と実践慣れしていないセラの二人でカイルを守りながら戦うことになる。
ん、守りながら……?
「ってしまった! 荷馬車は!?」
「ワウワウ!(ご主人、さっきまでそこを飛んでたワイバーンが一匹いないっす!)」
マズいな、地上の魔物もその動きに釣られるように移動を始めようとしている。
「セラ、カイルを頼む。このまま応戦しつつ馬車まで後退するぞ」
「わかりました。カイル、頑張って」
が、やはりこの状態ではいつもより動きに制約がかけられてしまう。
正面から向かってくる奴らには広範囲の魔術を、脇を抜けようとする奴にはセラと魔導銃で撃ち抜く。
しかし、それでも数匹は抜けられてしまい、ワイバーンの後を追って行ってしまった。
「馬車は無事なんでしょうか……依頼主さんやあの二人も、もしかしたらもう……」
馬車にも護衛はいるといっても、あのお疲れの大小ぼろ布二人。
あいつらの実力がわからない以上焦りが募るのも無理は無い。
とにかく、今私達にできることはこの戦いに集中することだけだ。
「しっかし、殺っても殺ってもキリが無いな」
ここまで大量の魔物が集まって移動するなど普通ならありえない。
まぁ今はそれを考察してる暇はないか!
「しょうがないな、馬車との距離も近くなってきたし……ここらで奴らを一掃する!」
私はまたアルマデスを操作し、照準を魔物の群れに合わせる。
「この辺りの森がちょっとハゲるが許せよ。
変化した銃身の先に魔力が重点され、やがてそれは巨大な力の詰まった砲弾となり、放たれた。
ズガオオオオオン!
抑制から解き放たれた砲弾は肥大しながら魔物を、森を飲み込んで消えていった。
よし、これで当分後ろを気にしなくてよくなった。
「さ、急ぐぞ!」
最初にワイバーンに抜けられてから数分。
やっと依頼主の荷馬車の元に辿り着いた先に見えたものは……。
「あらま」
「ワウ(どうやら杞憂に終わったみたいっすね)」
馬車には傷一つ無く、その手前には無残な死体となったワイバーンを足蹴にするぼろ布の男の姿があった。
「まったく、ぎゃあぎゃあと五月蝿くておちおち寝てもいられない……」
その周りには後から抜けてきた魔物の姿もある。
どれもこれも体の一部がまるでダルマ落としでもされたかのように打ち抜かれて欠損して死んでいる。
「凄い……一体どんな攻撃をすればこんな傷跡ができるんでしょうか」
……私にはなんとなくわかる。
いや、なんでわかるのかって言われると……そら奴が腕につけてる武器を見れば想像はつく。
でもちょっと待ってくれ、曲がりなりにもここは異世界だ、私が前世で住んでいた世界とはいえ。
「グギャア!」
茂みに潜んで勝機を窺っていたのか、リザードが一匹飛び出し、そのままぼろ布の男へ飛び掛っていく。
「まだ残っていたか。だが、トロい……」
男は飛び掛るリザードに対して恐ろしいまでの反射速度で拳を突き出した。
だが、拳はリザードには届いていない。
かわりに届いたのは……。
ガギャン!
「グァガ!? ……バ、ガ?」
腕の鎧……正確には鎧についている長い棒が喉の周りを打ち抜いた。
「ワウン……(ご主人、やっぱりあれってどう見ても……)」
「ああ、パイルバンカーだな」
いや確かに私が前世で死んでから二千年経ってるよ?
でもあんな日本でもアニメやゲームでしか見ないような近未来系の武器がこの剣と魔法のファンタジー世界観で発明されるか?
少しの間混乱で放心してしまう。
が、私が抱くいくつかの疑問は次の瞬間にすべて一つの線で繋がった。
バサッ……
「おっと……」
リザードが崩れ落ちた瞬間、どこからか一陣の風が吹いた。
その風でぼろ布は剥がれ、見えた男の素顔は今日一番の驚きを私に与えた。
別に知っている人物というわけではない。
だが、そのアジア系の整った顔立ち、真っ黒な髪と瞳は、私が転生してからよく見るような顔立ちだった。
「さて、依頼主の話だとすぐにここを離れるらしい。お前達もさっさと仕度を済ませておけ」
間違いない、奴は……日本人だ……。
とまぁ大見得切ったのはいいんだが、私には奴が日本人であるという決定的な証拠を持っているわけではない。
「まぁ一番手っ取り早いのは直接問いただすことだな」
現在私達は先程の場所から大分離れた町の酒場にいる。
あのままあの森付近で一夜を過ごすのは危険だと感じたし、カイルをゆっくり休ませてやれる場所が欲しかったため時間はかかるが安全な町まで行った方がいいと判断した。
つーことで、セラはカイルにつきっきり、依頼主はルートの再検討というわけで今はこの酒場で待機中だ。
「さて、あの二人は……お、いたいた」
端っこにて静か~に酒を飲む 元 ぼろ布男発見。
ぼろ布を無くしたからその目立つ顔立ちは一目瞭然だぜ。
「ワウン(でも問い詰めたところで素直に話してくれるっすかね)」
「大丈夫、私には考えがある」
「ワウ……(本当に大丈夫っすかぁ……)」
私の言葉に未だ不安そうな顔をする犬は放っておいて。
二人の座る席の前に立ち、私は"バンッ!"と大きな音が出るように机を叩く。
そして……。
「あんた、異世界人だろ」
「ブッ……!」
あ、吹き出した。
そしてそのまま目が追いつけないほどの速度で私の胸ぐらを掴んで……って!
「うおう!? 何すんじゃいコラー!」
「うるさい……! とりあえず外で話をさせてもらう!」
そして私は、そのままズルズルと引きずられるように外へと連れだされた。
ここは酒場の裏……そんな人気のない場所に連れ込まれた私は為す術もなく未知なる快楽の扉を無理矢理開かされ……。
「変なモノローグをつけるな。……それとも、そんな願望でもあるのか?」
「いやいや、私の性癖は至って普通だから安心してくれ」
「なら変な雰囲気出すな……。しかし、そんなことはどうでもいい……お前はあいつらの手の者か? 五年前にすっかり諦めたと思ったら裏で動いてたのか」
おや? どうやら私とこいつの中でちょっとした食い違いがあるようだな。
「待ってくれ、あいつらとは一体どれのことを言っているんだ?」
「お前は……"女神政権"の手の者じゃないのか? 五年前に逃げたオレを捕まえに来た」
あ、なーるへそ。
つまりこいつも数日前の私と似たような状況に陥ったことがあるってことか。
終わったと思ってたことが五年も経った今になって再燃したんじゃないかと勘違いしてるわけだ。
「スマンスマン、説明が足らなかったな」
「ワウ(足らないどころか全過程をすっ飛ばしてたと思うっす)」
どうやらこいつは私が考えていた通りの人間のようだし、ぱぱっと誤解を解いて友好な関係を築こうじゃないか。
「では改めて自己紹介させてもらう。私の名は無神限(むじんげん)、日本生まれの異世界人で今は魔導師ギルドの一員だ、よろしく」
「……なに?」
うーむ、突然のことで頭が上手く回っていないようだな。
まぁ困惑するのも当たり前か。
「とりあえず……お前は日本人で、オレと同じようにこの世界に召喚された……という認識でいいか?」
「ああ」
ま、セフィラ曰く、正確にはこの世界に召喚されたのは犬で私はただのおまけらしいがな!
「お前が異世界人だということはわかった、それはいい。だが、お前があの女神に懐柔されてオレを連れ戻しにきたということもあり得ないか?」
あ? 私があのポンコツに懐柔……。
「誰があのクソ女神に尻尾振ってるだってぇ! あんな容姿がいいだけの無能! 無責任! 無頓着! の三連"無"コンボを決めるようなアホに誰が従うかオラァ!」
「ワウウ……(ご、ご主人、落ち着くっす……)」
あの時のことを思い出してまたもや怒りのゲージが臨界点を突破してしまった。
怒りで女性のことを思い出すのは今生では奴がはじめてだな。
「まぁ、とは言っても潔白を証明する証拠なんてないから、こればっかりは信じてもらうしか……」
「いや、今ので十分だ」
あれ、いいの? ただムカツク記憶を呼び覚ましただけなのに?
「女神に執着してる奴らならそんな言葉は絶対に出てこないからな。それに、お前の表情があまりにも本気だった」
「そ、そうか。まぁ信用してもらえたようでよかった」
当初の予定とは大分形が違うが、結果オーライだ。
「それじゃあ、こっちも自己紹介させてもらおう。オレの名は
こうして、私はアステリムで初めての他の異世界人との接触に成功するのだった。
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