61話 本物の絆
先程から感じるぶつかり合う魔力の感覚……レイの奴、やっぱ天才かもな。
リヴィのことはレイに任せよう、私達は私達のやるべきことをやるだけだ!
「ムゲン、こっちもあまりいい状況とは言えないよ。皆頑張ってくれてるけど……魔導鎧相手じゃ流石に分が悪すぎる」
サティが指摘するように、こちらの状況は未だ劣勢だ。
だがまだ私の計算は狂ってはいない。
「焦るなサティ、私達の反撃はここからだ。結界術式
術式起動と共に再び結界が光り輝く。
「これは、また力がみなぎってきた!?」
「この奪った結界は一回こっきりで終了するちんけな設定ではない。こうやってまた指令を送ることで何度でもその効力を発揮する」
効力は回復と強化、ダメージを受けようが疲労しようがこの結界の魔力が続く限りその恩恵を受けることができる。
魔力は私のものと外側にいるエルフ達、そして元から使用されていたリヴィの魔力を利用することで補っている。
「よっしゃあああああ! これでまた戦えるぜぇ!」
「クソッ、なんなんだコイツら。倒しても倒しても……」
団員の皆にゾンビアタックを強要するのはちょっと引けたが、皆「それでも構わねぇ!」という強い要求によりこの案は採用された。
そして、この結界の恩恵を受けられるのは私が作った結界からの信号を受信する魔力を流し込まれた者だけだ。
「それに魔導鎧に対する戦い方も考案した」
「戦い方?」
以前見たことのある魔導鎧、その特徴から効率的な方法をできる範囲で皆に仕込んでおいた。
まぁ実際に見てもらえばわかるだろう。
「俺はこっちから攻める! お前はそっちを頼んだぜ!」
「了解! 懐に潜り込む、援護頼んだ」
「あいよ、任せな!」
魔導鎧一体に対してこちらは三人で挑む。
「クソッ……こいつら、離れろ!」
その内近接で戦うのは二人、ダメージを受ける比率が一番多い役割だが結界の回復効果でそこをカバー。
だがいくら回復できるからと言って受けすぎるのは良くない、ダメージを受けたことに変わりはないんだからな。
そこで、あの鎧の欠点……自分に接触しているものには攻撃できない構造の手足を考慮し、超インファイト戦を仕掛けることでダメージを最小限に抑える。
「この!」
「させるか!」
味方が危なくなったら中距離で様子を見ている一人が魔導銃で援護射撃。
「がっ! くそ、まずは貴様から撃ち倒してやる! 『
「「今だぁ!!」」
「なっ!?」
そして敵に明確な隙ができた時、両足に協力な一撃を同時に与えることで体制を崩す。
ズゥゥゥン……
「やった! あ、でも駄目だムゲン! あの魔導鎧は……」
「『
倒れた魔導鎧がウィンウィンと変形していく。
「わかっている。ボール状に変形して突撃してくるんだろ。そんな浅知恵は見た瞬間に対処法が考え付く」
この程度では改良とは呼べんよ。
「さて、再起不能になってもらうか。結界追加術式、属性《光》『
「ククク、これで纏めて潰して……ってなんだこれは!?」
球体になった瞬間に結界から飛び出す何本もの光の紐が巻きつき拘束していく。
「これは……」
「これであの魔導鎧は動けない。手も足も出せず、頭まで自分で覆っているからそこも縛れば脱出は不可能だ。あの紐も生半可な力で切れるものではないしな」
「「「よっしゃあああああ!! まずは一機!」」」
あいつらテンション高いな、ちょっとハイになりすぎじゃね?
とにかく、後はこの術式をオートに設定しておけば勝手に球体になった奴らを次々と縛っていく。
「なるほど、この調子ならいける! 希望が見えてきた」
ウィーン……ガション……
「ッ! サティ、避けろ!」
「なに!? クッ!」
ドシュウウウウ!!
館内部から強大な魔力反応があったと思ったら、数秒もしないうちにそこからレーザーが照射されていた。
間一髪避けれたからよかったものの、当たっていたらただでは済まなかっただろう。
「チッ! 避けられたか。だが次は外さんぞ」
「あれは……」
「クソッ! 出してきやがったか」
私達の目の前には魔導鎧に搭乗した領主の姿があった。
いや、あれはただの魔導鎧ではない! あの時地下で見た新型か!?
「さて、どうやって捻り潰してやろうか……」
弱点丸出しだった搭乗部はガッチリ覆われ、手足の小回りも利くようになってやがる。
「ッ、ムゲン! 奴の背中!」
サティに言われ、背中の部分に目を凝らす……なっ、あれは!
「ミミ!」
魔導鎧の後ろのカプセル状の容器の中にミミの姿があった。
どうやら意識がないようだが。
「てめぇえええ! ミミを解放しやがれ! 『爆炎斬』!」
「待てサティ!」
ドゴオオオン!!
私の静止も聞かず突っ込んでいくサティ。
攻撃は確実にヒットした……しかし。
「ふふふ、効きませんなぁ。お返しです! そらっ!」
「なっ!? ぐう……」
領主の攻撃により吹き飛ぶサティ、結界のおかげでダメージはそこまでではないみたいだが。
「くっ、なんでアタシの攻撃が効かないんだ」
「……魔力障壁だ」
おそらく常に表面へ魔力を流し魔力への耐性を上げている、その魔力防御は対魔鎧ぐらいはあるか。
それに加え、鎧本体の装甲の硬さが完全にサティの攻撃の威力を抑えた。
「ふふ、正解です。いやあ、まったくもって素晴らしい。この攻撃力と防御力! これがあれば私は無敵だ……後は、この"電池"がいつまでもつか……ですね」
チラリ、とミミの方を向きニヤリと笑う。
「う、ああ……お……にい……ちゃ……うう!」
ミミが苦しそうに喘ぐ、常に魔力を強制的に搾取され続けているからだろう。
このまま続けさせれば、ミミまであの地下の人々と同じように廃人になってしまうかもしれない。
「てめぇ、絶対許さねぇぞ! 『剛魔爆炎斬』!」
「ふん! 何度やろうと無駄です!」
サティが何度も攻撃を仕掛ける。
しかしいくらやってもその防御を突破できない。
「私も援護する! 術式展開『
私も魔術で援護するが力を大幅に削られてしまうため、与えられるダメージはほんの少しだけだ。
「無駄無駄無駄! どうあがいても貴様ら賊共に勝ち目などないのです!」
「そんなことない! アタシ達は絶対に勝つ!」
「いや、このままでは無理かもしれないな……」
「なっ!? 何言ってんだムゲン! 諦めるな、ミミだってお前が助けてくれるのを待ってくれているはずだ!」
「ふふふ……いやいや、素直に自分の弱さを認めるのはいいことですよ。力ある者に屈服する……それがこの世界なのです!」
こっちがちょっと弱気な姿勢を見せただけでそこまではしゃぐとは。
まぁこちらにとっては好都合か。
パンッ! パンッ!
私は拍手をするかのように二回手を叩く。
「なるほど、その力で第二大陸を開拓、今の国の発展に大いに貢献できるというところか?」
「今の国の発展? そんなことしか思いつかないとはやはり凡夫な賊だな」
乗ってきたな……。
「なら領主殿にはどのようなお考えがあると?」
「これほどの力だ、本国に攻め入りこの国の実権を握ることができるのもあり得ない話ではない! そう、私が王となりこの国を支配するのだ。そのために貴様らのようなクズを燃料として魔導鎧のエサとして使ってやるのだ!」
はぁ、頼んでもないのにペラペラとよく動く舌だ。
抑える役のリヴィがいないからだろうな。
「でも私達はまだやられていない、じきに魔導鎧を全部駆逐すれば……あんたはどうする?」
少し挑発気味に言う、さあ……どう転ぶか。
「そんなものどうにでもなる。リヴィもそろそろあの小僧を殺してる頃だろう。さらに! 私には奥の手がある! ……おい!」
「はっ! 通信石、用意できてます!」
領主がパチンと指を鳴らすと館の奥からサッカーボール位の大きさの石を運んできた。
以前見たことのある魔力で通信できる石の協力版ってとこか。
「これで本国と連絡を取る。そこから増援を呼べば貴様らのような反逆者はもう終わりだ……」
確かに国に総出で攻めたらひとたまりもないだろう。
「クッ、国を支配するとか言ってた奴がそこに助けを求めるのかよ」
「念には念をということだよ(ガチャ!)。……繋がったな」
ま、終わるのはどっちかわからないけどな。
「おお、国王、私です。実は今厄介な……」
『公爵よ! これは一体どういうことだ!』
「えっ!?」
ここにいる私以外の者全員がその声に驚く。
「こ、国王!? 一体何をおっしゃって……」
『今この場ですべて聞いていたぞ! 新魔族と陰謀を働いていたことも、お前が国を乗っ取ろうとしていたことも、そのために違法に人を狩ろうとしていたことも!』
「なっ! な、なぜ……それを!?」
通話の相手は国王だろう。
そう、私は できる限り全ての布石を打っておいた のだ。
『不審な者の通達なので馬鹿なことを……と思ったが、ここから聞こえてくる音はすべてそちらのものと一致している! どうなっているのかはわからんが疑いの余地はない! 今より貴様を我が国の反逆者とみなすことにする!』
ガチャ! ツー……ツー……
電話を切ったような音が静かに鳴る。
領主はありえないといった顔で虚空を見つめている。
「なんなんだこれは!? 一体どういうことなんだぁー!!」
「……ワン」
「は?」
領主の絶叫の後、その足元で小さな生物がちょこんと丸まっていた。
「よし、もういいぞ犬。戻って来い」
「ワウーン!(めっちゃ怖かったっす! もう死ぬかと思ったっす!)」
スタコラサッサと戻ってくる犬。
こいつも十分なほどにやってくれた。
「えーっと……ムゲン、どういうことなんだ?」
「なに、これも私の作戦の内だったということだよ」
そう、これは作戦。
スマホ内にあった魔導アプリの内の一つ[wiretap]を使った大作戦だ。
アジトを出る前、私はニンジャさんにスマホを預けた、[wiretap]の使い方を説明したうえでだ。
ニンジャさん達隠密部隊には本国に行ってもらいなんとか国王に接触してもらうよう頼んだ。
たとえ話を聞いてくれなくても、私が二回手を叩いたら音量をMAXまで上げ、領主の企みを聞いてもらおうということだ。
奴が通信で応援を呼ぼうとしたのが決定的になったな。
え? [wiretap]の盗聴器はどこに仕掛けたのかって?
ここまでの流れを見ればわかるだろう……犬だ。
犬なら小さいし小回りも利く、あとはやる気だけだな、うん!
「スマホ内の全魔力突っ込めばこの距離ならギリギリ届くかは少し賭けだったが、上手くいったようだ」
歪んだ顔の領主が歯をギシギシ言わせながらこちらを睨みつける。
「馬鹿な! 馬鹿な!! 馬鹿なあああ!!! これでは、私が本国の標的に……。貴様ら、絶対に許さんぞおおおおお!」
「あいつ凄く怒ってるね、アタシの経験から考えるとこの怒りの感じはもう無茶苦茶に襲ってくるタイプだ。どう切り抜ける、ムゲ……ムゲン?」
「許さない……か。それはこちらのセリフだ」
もう何も心配することはない、後は奴を倒すだけだ。
私も溜めに溜めた怒り……吐き出させてもらうぞ。
(なんだ……? ムゲンから感じるこれ……凄い怒りの感情だ。今まで感じたことのない程の恐ろしく激しい怒りの感情の渦。ムゲン、お前は一体……)
「貴様らは愚かにも私の『仲間』と『家族』を傷つけた、その報いを受けてもらう!」
あいつの戦いもそろそろ決着だろう。
すべて……終わらせてやる!
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「ぐぅ……。クソが! いい加減さっさと潰れろよ!」
「はぁ……はぁ……。ふっ、さっきまでの余裕はどうした? 俺は……負けない! 絶対にすべてを助けてみせる、俺の仲間と共に!」
風の結界の中、レイとリヴィの二人はすでに披露困憊の状態だった。
結界の中で思った通りの戦法が取れないリヴィと一撃一撃に強烈なダメージを受けるレイ。
二人にはもうほとんど魔力が残っていない、次が……最後になるだろう。
「これで死んじゃえ! 飲み込め荒波、すべて食らい尽くせ! 『
「俺は……生きてあいつのもとへ戻るんだ、絶対に! 右手に集え結界の黒風! 左手に集えすべてを貫く暴風!」
空高く飛んだレイに結界の風と今まで生み出した風が嵐のようにうねりながらレイの両腕に集まっていく。
そのまま勢いよくリヴィに向かい急降下を始める。
「これは!?」
「くらえリヴィ! これが……俺の最大の魔術!」
腕に絡みつく風がリヴィの魔術をかき分けるように引き裂く。
「そんな! ボクの魔術が、引き裂かれて……」
「合成魔術! 『
「そ、そんな馬鹿な……このボクが! 七皇凶魔であるこのボクがあああああああああ!!」
「死ねえええええ!!」
領主が狂ったように魔力をチャージする。
「うううう……ああああああ!!」
「ミミ! あいつ、なんてことを!」
領主が魔力を使用しようとする度ミミにかなりの負担がかかる。
早急に決着をつけなければミミの命までもが危ない。
「はははは死ね死ね死ね! 『
領主が強力な魔術を放とうと昇順を合わせる。
「そんなもの、くらうか。術式展開、《重力》! 『
「なあ!?」
魔導鎧の体制が崩れ、領主の魔術砲は地面に向かって撃たれた。
「がああああ!?」
そのまま爆風によって自爆。
魔力壁によって守られていたが今の一撃は致命的だった。
ピシッ……!
「なっ……馬鹿な、ヒビが!」
領主は無駄だと言っていたが、すでにその装甲は度重なる攻撃によって限界を迎えようとしていたのだった。
そして、ムゲンはその一瞬を見逃さなかった。
「再術式始動『
以前発動していた『
そして、鎧の中心に入ったヒビ目掛けて勢い良く手刀を突き出す。
「この一撃は、今まで貴様らに蔑められた人達の……私達の怒りだ!」
「やめろおおおおお!!」
「雷術式全開! そして集束! 貫け『
「ひ……ひぎゃああああああ!!」
パリンッ……!
「お……にい……ちゃ……」
領主の断末魔の叫びと同時にミミを覆っていたカプセルが割れ、そこから飛び出すミミをムゲンが瞬時に抱きとめる。
今、ここに二つの決着がついた……。
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