第1章 ただいま 編
3話 帰って来ちゃった?
辺りを見回すと知らない大地、知らない人達。
これはあれか? ネット小説とかでよくある異世界召喚みたいな状況なのか?
しかし召喚にしてはここに来るとき天の声みたいのもなかったし、あたりに召喚士みたいな人もいないな。トラック突っ込んできたけど別にぶつかってないし。
ていうか辺りの人は敵意ビンビンの目つきで私を睨んでいるんだが……イヤんこわい。
「ワンワン!」
「おわっ!?」
いきなり何かと思ったら犬かよ! そういえばこいつの存在をすっかり忘れてた。……まだ肉食ってやがるし。
それよりも犬、お前が叫んだせいで周りの人達がビビってるじゃないか。
「おい! 貴様!」
お、日本語……どうやら言葉は通じるっぽいぞ。
周囲の人の中から一人、獣耳の青年……前世で見た獣人族っぽいのがこちらに歩みを進めてくる。
「命が惜しくなければ俺達と共についてきてもらおうか。流石にこの数が相手じゃあ無事にすまないないことぐらいわかるだろう?」
……はい? いきなり飛ばされて訳がわからなくなっているのにさらに訳がわからない。
この人ら私を何かと勘違いしてないか?
「えーっと、なにか勘違いしてないでしょうかねぇ……。私も何が起きてるのかわからないがここは穏便に行いこう! な!」
「貴様が何者なのか俺達には関係ない。どちらにしろ貴様が“特異点”から出てきたことは何人もの村人が確認している。それに、貴様が危険かどうかは国の騎士団が判断することだ」
特異点? 騎士団? こいつはなにを言ってるんだ……。
とにかく今は逆らうべきじゃないだろう、現状を把握するのが最優先だ。おとなしく付いて行って話を聞くのがベストな気がする。
あとさっきからなんか体がむず痒いな……犬の毛せいか?
さて、あれから私が連れて来られた場所はどこかの地下。周囲の壁は今どき珍しい石造りでドアとその周りは鉄格子でできているというとても斬新な発想だ。
そして内装はシンプルにベッドのみ! 明かりはろうそくの独創的な部屋だ。
「って牢屋じゃねえか!」
結局あのまま何の説明もなく牢屋へゴーですよ。
移動中にも何とかコミュニケーションをとろうと頑張ったのだが……相手は誰一人として聞く耳を持たず、問答無用で牢屋にぶちこまれてしまっった。
「はぁ……日本に帰りたい……」
もうこんな感じの世界はこりごりだと考えてた後にこのざまですよ。
でもまあこんなことが起きても結構冷静でいられるのは前世で結構な修羅場をくぐってきたからだろうな。
自分が転生した身だから異世界召喚みたいのもどっかで起こってんのかねぇ……とかも考えたこともあるし。
いやしかし、まさか二つとも体験するとは思ってもみなかったが……。
「ワオン!」
「お前は気楽そうでいいな……。まったく、騎士団とやらはいつ来るんだよ」
牢に入れらてから結構時間が過ぎたと思うんだが。
これはもしかして何日も待たされるパターンか? 看守の人は何言っても「静かにしてろ!」の一点張りだし……同じことしか言わないNPCかよ。
仕方ない、ここはひとつこっちにきてから感じてた違和感の正体を確かめてみるとするか。
「えーっと、これをこうして……。久しぶりだからな、上手く出来るか?」
「うるさいぞ! 静かにしてろ!」
「ワンワン!」
看守に怒鳴られてしまった。あと犬、お前も静かにしてなさい。
……さて、気を取り直してもう一回。
「意識を体の中に集中して……おお、やはり!」
私の睨んだ通り体の中には魔力が出来上がっていた。
やはりあのむず痒い感じは体の中にマナが流れ込んでいく懐かしの感じだった。
この世界に来て最初に感じた違和感……それはマナが存在してたことだ。
私の知る魔力とは、世界に存在するマナが体内に吸い込まれ変換されたもの。魔力は世界にマナさえあれば人の体に勝手に作られていく。
人によって魔力の限界量はあるがそこは修行次第でどうとでもなる。
「聞き慣れた言葉といい、マナが存在することといい、この世界は前世で過ごした世界にどこか似ているな……」
ま、世界観については今後やって来るであろう人達の説明に期待するとしておこう。
よし、試しに何か一つ魔法を使ってみるか。まずは……とりあえずろうそくの火を消してっと。
「フッ……お、都合よくろうそくの火が消えてるなー、これはまた点けとかないと牢屋の中が暗いなー、でもここにはライターもマッチもないからなー。……そうだ! 魔法で火をつけよう!」
我ながらなんてナイスなアイデアなんだろうか! ……はいすいません茶番でした。
「ワンワン!」
お、犬も私の魔法に興味津々らしいな。
ふっふっふ、主人公が突然の異世界で生き抜く力を得る瞬間をとくと見るがいい!
「まあ見ていろ。えっと……炎よ、集いて柱と慣れ! 『
ボウッ!
よし! 久しぶりだけど成功だ。しかし、今の呪文詠唱行為は日本でこれをやったら確実にイタイ人だな。
お、そうこうしてるうちに火もどんどん大きくなってく、私の魔力もどんどん使われていく。
ん? それってなんかやばくね、と思った時には私の体から凄い勢いで魔力が放出されて……。
「あ、やべ」
時すでに遅く、私は魔力の使いすぎで意識が飛んでしまった。
そして莫大な魔力を得たろうそくの炎は勢いを増して天井へと向かい……。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
牢獄にぶち込まれた少年が魔法を試す少し前……。
牢屋の外の村の中では騎士団がすでに到着していた。その先頭に立つのは金髪の美しい女性だ。
「こちらアレス王国第三騎士団隊長リィナ・エイプルです! 国の命により特異点の調査に来ました!」
「お待ちしておりましたよリィナ隊長」
そう言って出てきたのは最初に限に突っかかった獣人族の青年だ。
だが、その表情はどこかたどたどしく、よそよそしい雰囲気で騎士団長の女性と接していた。
「久しぶりねカロフ。なに、そのかしこまったしゃべり方? 全然似合ってないわよ」
リィナはこの村の出身でカロフとは幼なじみの関係だった。
しかし、笑いながら再開を喜ぶリィナとは裏腹にカロフは険しい表情……。
「あの頃の俺はまだ子供でしたんでね。今では身分の違いくらいはわかりますよ騎士隊長様。さ、こちらですよ……」
そう言ってカロフは牢屋の方へ歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよカロフ! 私……」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
リィナがカロフを呼び止めようとした時、牢屋の地下からものすごい勢いで火柱が上がっていく。
天まで届きそうな勢いの炎に圧倒されながらも騎士団は牢屋へと急いだ。
「……っハァ! し、死ぬかと思った!」
私は一瞬意識を失ったが、薄れゆく意識の中でどうにか魔力を遮断できたので大事には至らなかった。
魔力と精神は直結してるのであのまま吸われ続けたら精神が崩壊するとこだったな。
「しっかしなんであんなことに……。ああ、そうか魔力回路か」
魔力回路、これは魔法を扱う者にとって一番重要なものだ。
これはいうなれば魔力の通り道みたいなもので、これが整ってないとさっきみたいな酷い有様になったりしてしまう。
「魔力量は精神的なものだから昔より少ないといってもそれなりの量はあったが、回路の方は肉体が完全に変わったせいでバラバラみたいだな……」
「クゥーン……」
おっと犬も怯えてしまったようだ、看守も気を失ってるし。
そして同時に遠くから誰か走ってくる音が聞こえる。……この状況どう説明しよう、流石にまずいよな。
「おい、何があった!」
あれはさっきの獣人族……と、その隣には綺麗な女の人がいるぞ。
見た感じ私よりちょっと3、4歳くらい年上っぽいな……だがそれもアリだ!
その後ろからは鎧を着た人達がぞろぞろとついてきている、例の騎士団の人ってやつか?
「おいてめぇ! 何しやがった! 事と次第によっちゃただじゃおかねえぞ」
グエー! いきなり首根っこ掴まれてしまった。ちょ、これじゃ喋れん!
「ちょっとカロフ! 異世界の者は慎重に扱いなさい! あなたの気持ちはわかるけど……」
「くっ! わかりましたよ……」
綺麗な女性に言われてカロフと呼ばれた男はやっと私を離してくれた。
やれやれ、やっと話しのわかる人が来てくれたか。
「ごめんなさい、どれもいきなりのことで驚いてるでしょう? それよりも、どうしてこのようになったか説明してもらいたいんだけど……」
「あーそれはなんというか、私にもよくわからなくって……あはは。そ、それよりもあなたが例の騎士団さんですか。いやあこんなきれいな人だとは思わなかったなー。できればお名前を伺いたいですなー……なんちって」
やばい、テンパッて自分でもなに言ってるかわからん。
「この野郎! とぼけやがって!」
おっとっと、カロフさんとやらはどうやらご立腹の様子、目が怖いです……。
「待ってカロフ。そうね、こんな状況だけどいろいろ説明もしないといけないし。まずは自己紹介から済ませましょうか」
よかった、これで少しは状況が良くなるといいんだが。
「おほん……私はこの『アステリム』世界の第三大陸『トリニ』にあるアレス王国第三騎士団隊長リィナ・エイプルです。よろしくね」
おお、丁寧なうえに優しい、でも少し子供扱いされてるっぽいのが癪だな。
ん、しかしちょっと待ってくれ? 今、この世界のことなんと言った? アステリムってそれ……。
私が前世で住んでいた世界の名前じゃないか……。
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