とかげくん【なかなおり】

 ぼくの一生懸命の問いかけにも、すいりゅうさんは応えてくれなかった。

 でも、もういいんだ。しょうがないよ。

 ぼくは肩を竦めて歩き出した。


「……だよ」


 すいりゅうさんが何か言ったけど、そよ風の音に邪魔されて聞こえない。でもいいや。もう何にも聞きたくないし。


「好きだから! だから、嫌われたくない」


 ぐいと後ろから手を引かれてぼくは立ち止まった。すいりゅうさん、何言ってるの?


「どうしてぼくがすいりゅうさんを嫌いになるの?」


 ぼくはすいりゅうさんの言っていることが少しも分からない。ぼくがすいりゅうさんを嫌いになるはずないのに。


「私には、もう金のたてがみも煌めく鱗も無い。お前が好きだったはもういない」


 ぼくはびっくりして声が出なかった。すいりゅうさんは俯いて掴んだ手首をじっと見ている。


「がっかりしただろう?」


 そんな訳ないのに。


「金茶の目があるよ?」


 ぼくはその瞳が大好きだよ。


「美しくもなんともないだろう」


「きれいだよ」


 じゃあ、すいりゅうさんはぼくががっかりすると思って隠れてたの?


「ぼくはずっと、とかげのすいりゅうさんのことも、きれいだと思ってたよ」


「そんな訳あるか」


 悲しそうにすいりゅうさんが笑う。そんな顔しないでよ。


「それに、冴えない茶色なのはぼくも一緒だよ」


「お前は美しい」


 確信に満ちた声ですいりゅうさんが言う。


「お前が初めて私に手を伸ばしたあのときから、私はお前の美しさに惹かれている」


 ふふ、と。ぼくの唇から笑みがこぼれた。

 あはは、と。お腹の底から笑いが込み上げてくる。


「なのにどうして、ぼくも一緒だと思わないの?」


 ぼくは笑った。

 ああ、よかった。

 嫌われてなかった。

 好きって言ってもらっちゃった。

 ずっと好きだった、って。


「ねえ、すいりゅうさん」


 ぼくは空いている方の手ですいりゅうさんの手を握った。顔を上げたすいりゅうさんににっこりと微笑む。


「だあい好き」


「……そうか」


「うん!」




 ぼくの泉で、桃色の花が呆れたようにぽんと開いた。

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