とかげくん【ぼくの大切なひと】
すいりゅうさんが顔を上げたから、釣られるようにぼくもそっちを向いた。おばさんとグレンが丘の真ん中辺りに立っている。
おばさんの目は遠目にも真っ赤で。いつもツヤツヤしているうろこはちょっとくすんでいて、ぼくの胸がつきんと痛む。
ぼくはすいりゅうさんを見上げた。優しい瞳が一瞬瞼に隠されて、口ひげがそっとぼくの頬を撫でる。ぼくはすいりゅうさんのひげにぎゅっとしがみついてから、おばさんの方に駆けだした。
「心配かけてごめんなさい。我がまま聞いてくれてありがとう」
ぼくが言うと、おばさんはぎゅうっとぼくを抱きしめた。
ぼく、泥だらけだよ。汚れちゃうよ。
ぼくは慌てて離れようとしたけれど、おばさんはますますぎゅうっとしてくる。グレンがぼくの頭をくしゃっと撫でて、心配させやがって、と呟いた。
「ごめんなさい」
ぼくは繰り返す。瞼がじわっと熱くなって、あんなに泣いた後なのにまた涙が
「もう大丈夫なの?」
おばさんが言った。ぼくは頷く。
うん。ぼくの早とちりだった。すいりゅうさんはお役目がとっても忙しかったんだって。ぼくのこと嫌いになったんじゃないんだって。また遊びに来てもいいって。
ねえおばさん。ぼく、今度すいりゅうさんが雨を降らしに行くときには、一緒について行きたい。うんと特訓して、嵐の中でもすいりゅうさんに振り落とされないようにしがみつけるようになったら、一緒に行ってもいーい? すいりゅうさんは……
ぼくはまだ話している途中だったのに、グレンにこつんと小突かれた。視線を辿っておばさんを見ると、涙ぐんでいる。ぼくははっとした。あんなに心配かけたのに、また心配の種を増やしちゃった!
どうしよう。
ぼくはすいりゅうさんを振り返った。目が合うとゆっくりと首を振られる。やっぱりダメ? ぼくは肩を落としておばさんに向き直った。
うん。そうだね。嵐は危ないよね。
慌てて見上げるぼくに、グレンは困った顔で、いや、と言った。
「でも、今日はもう
名残惜しいけど仕方がない。悲しいときや寂しいときは、誰かに傍にいて欲しいよ。おばさんの傍にいるのはぼくの役目だよね。
ぼくはすいりゅうさんの所に行って顎ひげにぎゅっと抱きついた。すい、と。すいりゅうさんも頬を寄せてくれる。ふふ。なんて幸せなんだろう。だからおばさんのことも笑顔にしてあげなきゃね。
「すいりゅうさん、さようなら。明日もきっと、ここにいてね」
もう一度きゅっと抱きついて、ぼくはすいりゅうさんに手を振った。
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